第六話 能力者
魔の手迫る―?
第六話 能力者
「これは…」
ワトソンは青白い顔にうっすらと汗をかいている。
「能力者だ…」
<能力者>。それはこの世界で大多数ではないが一定数存在する、魔術師とは異なり魔術を使わずに通常の人間にはできないことをやってのける人間。そして生まれながらにして能力をもつナチュラルギフテッドと傷がつくことで能力を獲得するシカトリックスに分かれる。傷と言っても単なる傷ではなく、感情がのった傷だ。憎しみや愛がその傷に残って能力と化すのだ。
「この能力者、だいぶ強いみたい。本人はここには来ていないみたいだけどこんなにくっきり跡が残るなんて」
「つまり、能力者が能力を使って死体を盗んだと?」
「犯人は盗んじゃいないんだ」
「ハァ?」
「この跡を見る限り、犯人は能力で死体を生き返らせて自分のところまで来させてる」
「じゃあ、その跡追えば死体が最終どこに行き着くのか解るのか」
「理論的にはそうだけど、その跡の上を違う能力者が歩いちゃってたら無理かな、僕は跡追いじゃないから。でもワンチャンを信じてやってみる価値はあるかな」
<跡追い>。魔術や能力を使う際につく後を見る特殊な技能を持った人間、またその職業。犯罪捜査などで大きく活躍することがある。
「じゃあ、いっちょやってみますか。闇医者、行ってくる」
「やるのは僕だけどね」
「気をつけろよ」
そう言って闇医者は黒豹に紙幣を握らせる。
「あ?まだ依頼遂行してねェけど」
「危険手当だ」
「フゥン、そう。じゃあ有難く貰っておく。今月金欠だし」
「いや、それはアンタの商売の仕方が悪いからでしょ」
何でもやる何でも屋でも商売の仕方が悪ければ儲からないのは魔法界も同じのようだ。
***
「え、なにこれ」
診療所を出てすぐに地面を見てワトソンが驚いたような、困惑しきった声を出す。
「どうした」
「跡が意図的に消されてる、しかもこれまた本人はここに来てない」
「あーッ、いよいよ怪しいな。どうする?この仕事、断る?」
「そんなわけないでしょ、僕たちは何でも屋なんだから」
「いや、何でも屋だからって手ェ出していいことと悪いことがある。今回のこれは悪い方に近い気がする。下手したら命なくなる系」
「じゃあ黒豹だったらこの仕事断る?」
「俺ひとりだったら受ける。が、今回はお前もいる。命かけるハメになりそうだから一応お前の意向も聞いとこうと思って」
「あ、そ。でも僕は最後までやるつもりだよ。だってさ、死体盗む奴なんて許せないじゃん」
「あー、それ闇医者に聞かせてやりたい」
「あ…って黒豹後ろッ!」
真っ青な顔をしたワトソンが黒豹の背後を見て叫ぶ。
「あ゛?」
「ドタマぶち抜かれたくなければ黙って俺の言うことを聞いてくれ」