第四十四話 キスのお味
ファーストキスはいちご味ー?
第四十四話 キスのお味
「えーッ、黒豹、殺虫剤なんて持ってどこ行くの?まさか虫がうようよしてるところじゃないでしょうね?」
歩幅の大きい黒豹にやや遅れて歩くワトソンは顔を顰めて見せる。
「さァどうだかな、社会の害虫がうようよしてるかも」
ワトソンに対し、黒豹は涼しい顔をしている。
「社会の害虫!?なにそれェ!?」
「じき分かる」
黒豹とワトソンは例の魔術の材料について情報を集めるためにある人物のもとに向かっていた。
「その人、なにやってる人なの?」
「薬師。たまにちょっとイリーガル」
「!?なんか黒豹、そういう知り合い多くない⁉」
「まァな」
そう言いながら黒豹は狭い路地に入って行く。そして明らかに何らかの薬物で健康を害し廃人となった道端の若者たちを一瞥する。
「あーあー、ったくカワイソウになァ」
「ちょっと、ちょっと!本当に大丈夫なんでしょうね⁉」
ワトソンが青い顔をして周りをキョロキョロする。
「大丈夫だなんて言った覚えはないが?」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!ほんっと嫌!黒豹のそういうところがほんっとに嫌!」
「嫌で構わねェよ、お前ひとりで帰るか?俺はこのまま行くから」
「ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛!ヤです!絶対にヤですぅぅぅ!」
「全く世話の焼ける奴だ」
***
「ええ…黒豹、ホントにここなの?なんかヒジョーに怪しいんですけど」
「まァ、イリーガルだからな」
黒豹は狭い路地の突き当りの錆びついたドアのドアをノックする。すると、ギィィィィ…と耳障りな音とともにドアが開いて主が部屋の中に二人を迎え入れた。
「よォ、し…」
黒豹が挨拶を終える前に「それ」は起きた。
「ぎゃああああああ!」
ワトソンの声が何もないのになぜか圧迫感のある部屋の中に響き渡る。
「あ゛?」
ワトソンの叫び声を聞いた黒豹は何事かと眉間に皺を寄せて後ろを振り向く。
「あ、おいおい、あっはっは」
黒豹がワトソンの惨事を目にして笑った。
「むむっむむむむむむむむむ!(笑ってないで助けてよ!)」
ワトソンは女によって口をがっちり塞がれていた。ワトソンの顔は羞恥と息苦しさで真っ赤である。
「あーあー、ワトソン君。初キッスのお味はどうですかァー?」
必死になってもがくワトソンとは打って変わって黒豹は腹を抱えて顔を真っ赤にして笑っている。
「むむむっむむむむぅ!(初キッスじゃない!)」
ワトソンは涙目で黒豹を睨む。ここでようやく女はワトソンを離す。
「ガハッ、ゴホッ、一体何なの…」
ワトソンは咳き込みながら袖で口元を拭いながら女を非難するように見る。
「美味しかった…吐くのが勿体無いくらいだ…」
女はワトソンなど気にも留めず、頬を赤くして目をとろんとさせて恍惚としている。
「え、なにアンタ、ここで吐くの⁉勘弁してよォ!」
「…ワトソン」
黒豹が心から同情する、とでも言うようにワトソンを見る。
「え、ちょ、何ィィィ⁉」
「…うっぷ」
今にも吐きそう、というように女が口元を押さえる。
「えッ、えッ、ええええええッ⁉」




