第四十二話 新たなる試練
「なァ、ワトソン。俺の見間違いか…?」
黒豹が「魔法生物大全」から目を上げて引き攣った笑みを浮かべる。
「いやぁ、たぶん僕にも同じ文字が見えてるはずだから…見間違いじゃないね」
「え゛え゛え゛ーッ…」
一難去ってまた一難―。
第四十二話 新たなる試練
黒豹とワトソンの表情が冴えないのにはある理由があった。それは、百顔姫を人間に戻す方法が書かれているところまではいいのだが、そのための呪文はそこには載っておらず、その呪文が書かれている場所が示されているだけである。おまけにその呪文とともに使うものはどれも入手困難なものばかりである。そこに書かれている材料をワトソンが読み上げていく。
「…『凪の洞窟』ゥ?まさかね…あっはっは」
「そのまさかだろうな」
〈凪の洞窟〉。それは世界の果てと呼ばれる海域に数多存在する島のひとつにある洞窟のことだ。その洞窟は音を吸うとも言われている。その洞窟の中でいくら騒ごうともその音は聞こえないのだ。
「『ボウボウ鳥の尾羽』ェ⁉ふざけてんでしょ」
「…ふざけてるな」
〈ボウボウ鳥〉。火を吹く神話上の生き物とされている。神話では火山や温泉はボウボウ鳥の住処とされている。
「『月の涙』ァ⁉もうこれに関しては完全に意味不明なんですけど⁉」
「…さすがに聞いたことないな」
「『湖の溜息』ィ⁉涙とか溜息とかマイナス系多くない⁉」
「これもさすがに分からんな」
「『人魚の石』ィ⁉人魚に石できんの⁉おっさんみたいじゃん、嫌すぎるんですけどォ⁉」
「…まァ人魚もロマンだけじゃないってことだな」
「『憎しみの染み付いた凶器』ィィィ⁉なにこれ、急に物騒すぎるんですけど⁉」
「…それならあるかもしれない」
「ハァ⁉…まァその事情についてはまた今度聞くとして…このワケ分かんない材料、どうやって集めんの…?これだけ集めるのだけで十年も二十年もかかっちゃうよ…!」
「慌てるな…こうなったからには仕方ない、コツコツ情報を集める他にない」
「でも時間があると思う⁉今日この時まで翠玉さんが生きてたのが奇跡なくらいなのに!これ以上どうやって時間を稼げって言うの⁉」
「最後の手段を行使するしかないかもしれないな…これだけは嫌だったんだが…」




