第三十話 シュリ
何でも屋の居間から続くベランダでひとり佇む人間がいた。心優しき賞金稼ぎの青年だった。
第三十話 シュリ
黒豹から雪豹が呪いとして生き返っているかもしれない、と聞かされた。それから翠玉さんは百顔姫でもしかしたらもう長くはないかもしれない、と聞かされた。
黒豹や雲豹と同じく、雪豹は自分にとっても決して野放しにはしておけない存在だ。雪豹はオレから妹のラミを、親友のカイを、親代わりだったじっちゃんとばっちゃんを、オレの故郷の人々を、ひとり残らず奪った。オレは集落ごと荼毘に付した。故郷やそこの人々が灰になったその瞬間、オレは独りになった。独りになったオレは雪豹に復讐しようとした。そんなオレに「復讐して何になる、復讐でも人殺しは人殺しだ」と静かに言った男、それが黒豹だった。黒豹の言うことは正しかったのに、それに背いて雪豹を殺しに行き見事に返り討ちに遭ったオレを助けてくれたのも、雪豹亡き後、生きる意味を失い死のうとしたオレを見て、止めるのでもなんでもなく、ただ「お前が妹や親友にしてやれなかったことを、俺と他人にしてやる気はないか」と静かに言ったのも黒豹だった。今がその時だ。雪豹に大切な人を奪われる人がもう増えないように、もう誰にもオレみたいな思いにさせないために、そして黒豹と雲豹の兄弟である雪豹が次々に人の命を手にかけるのを見て、もう黒豹や雲豹が苦しまないように雪豹をなんとしても止めなければならない。
手の中にあるフォークを見つめる。オレはフォーク一本と自分の体ひとつでいろいろな賞金首たちとやりあってきた。もともとオレは賞金稼ぎになるつもりなんかじゃなかった。故郷の缶詰工場で働いて妹のラミと暮らしていくつもりだった。しかし、ラミが病気になり、カネを持っていないオレは医者さえ呼んでやることも出来なかった。学のないオレがそれなりに稼ぐには賞金稼ぎしかなかった。もちろん、カイもじっちゃんもばっちゃんも反対した。それでもオレは都会に出て、賞金首を狩った。ラミを助けるためだけに。もちろん、たくさんケガもしたし、ここで死ぬかもしれないと思うことも数え切れないほどあった。そうしてようやくカネを持って帰った時にはラミはいなかった。すでに雪豹に息の根を止められた後だった。
翠玉さんを助けるためには雪豹を追う人間と翠玉さんを助ける方法を探る人間とで役割分担する必要があるのはもちろん、分かっている。オレだって翠玉さんを助けたいから黒豹の策に乗る。しかし、オレは自分の知らないうちに誰かを喪う怖さを知っている。翠玉さんがいなくなるのは、怖い。でも、出来ることをやらずに翠玉さんがいなくなることの方がよっぽど怖い。オレは、翠玉さんのことを何ひとつ知らない。何が好きなのか。何を思うのか。オレは、全部貴女の口から聞きたい。面を取った貴女が嬉しそうに笑う顔を見たい。今まで、ずっとある場所に閉じ込められたままだっただろう。自分の好きな時に好きな場所に行って自由であってほしい。幸せであってほしい。生きていてほしい。
「なァ、カイ、ラミ。お前らにしてやれなかったことを翠玉さんにしてやってもいいかな」




