第三話 何でも屋登場
その男、何でも屋につき、子守から窃盗までなんでもお受けします―
第三話 何でも屋登場
闇医者の電話から数分後、その男たちはやって来た。
「黒豹…それにしても…ヤバくない…?死体が消えるとかさ…」
オレンジの髪の小柄な青年がやや青白い顔をしてそう言う。しかもその白のTシャツには「強気」とプリントされている。しかし、そのTシャツの主はTシャツに書かれている言葉とは正反対であることは言うまでもない。
「まァ、にわかには信じたいが…ここはなんせ魔法界だ。呪いも魔法動物も能力もなんでもありだ。解術師のお前が一番分かってんだろ、ワトソン」
もう一人の黒豹と呼ばれた男はワトソンとは対照的に落ち着き払っている。
お気づきの通り、男は、何でも屋店主にして、窃盗犯である。夜は窃盗犯として街を駆け回り、昼は何でも屋として真面目に働く。それが連続窃盗犯黒豹の素顔である。その素顔は、限られた者しか知らない。そして、彼がこの商売をするのは果たしてカモフラージュなのか、人知れぬ信念の故なのか、誰も知らない。
「それはそうだけどさ…、死体が消えるってヤバいからね!?呪いとかだったら結構ヤバめだよ!?アンタはさ、解術師じゃないからさ、その苦労を知らないと思うけど、そういう呪いって怖いし、大変なんだからね!?分かってる!?」
「でもお前なら大丈夫だろ」
「軽ッ!?まァ大丈夫ですけど!?どんな呪いでも解きますけど!?」
「じゃあいいだろ、ガタガタ騒ぐなよ」
「そんな簡単に言うなよ…」
ワトソンは頭を抱える。
「もう超怖いんだけど…」
「いつまで言ってんだ、ほら行くぞ」
黒豹はそう言って闇医者の診療所の少々建付けの悪い戸を開いた。
「よォ、闇医者。相変わらず医者のくせに不健康そうだな」
「貴様はいい年していつまでも反抗期らしいな、小僧」
闇医者と黒豹は凶悪な笑みを交わす。
「ちょっと!ふたりともその凶悪な雰囲気やめてくんない!?」
ワトソンが二人の間に割って入る。
「なんだ、貴様いたのか。小さすぎて気付かなかった」
「オイィィィィィィ、呼んだのアンタだろうがァァァァ」
「あ、そうだったな、ところで本題のなのだが…」
「オイィィィィ、ところでじゃないんだよォォォォなんか言えェェェ」
***
「…フゥン、それで夜拾ってきた死体が朝になったら消えていると」
ドゴッ、ドガッ、ゲシゲシ(不穏な物音)
「そうだ。安置室も見るか?」
ゴンッ、グイグイ(物騒な物音)
「それがいい。ワトソン先頭な」
ズルズル、ズシャァ(抵抗に失敗する物音)
「ちょっとォォォォォ、アンタら何も言わずに僕を先に行かせようとするのやめてくんない!?」
床に座り込んだワトソンは二人を涙目で見上げる。
「パワハラだからねッ!?マジで!!」
「フッ、」
黒豹がワトソンの傍らにしゃがみ込む。そして耳に口を近づけて何やら囁く。その途端、ワトソンは少女のようにぽっと頬を染め、黒豹をうっとりと見る。
「うっわぁ、貴様、それ男にもやるのか。可哀想だからやめてやれよ」
闇医者は気の毒そうにワトソンを見た後、非難するように黒豹を見た。
「まァ見てろよ、こっからがこいつの本領だ」
「…ッ、あ゛ーッ!!!その手に乗るもんかァァァァ!!!」
ワトソンは別人かのように勢いよく立ち上がった。
「な?」
「こりゃ驚いた…」
説明しよう。ワトソンがただいま破ったのは黒豹の「誘惑」なる一種のマインドコントロールである。これを食らった人間は黒豹に魅了されきり、著しく判断力を失う。これは魔術でも呪いでもないため、それらを解くことを得意とする解術師であるワトソンは本来であれば太刀打ちできないはずなのだ。しかし、ワトソンはどういうわけかその耐性を持っているのである。
「いいですよ、そこまで言うんだったら行ってやりますよ」
ワトソンはさっきの様子とは打って変わりずんずん件の安置室に入って行く。その後に黒豹と闇医者が続く。
ワトソンの眉間に皺が寄る。
「これは…」
能力者ファイル No.001
ワトソン 一級解術師
魔術師による魔術、能力者による術を解くのを専門とする。圧倒的な力、技能をもつ。