第二十八話 ブラック人生ゲーム
黒豹が雲豹を捜して出かけている間、何でも屋の店舗兼住宅の居間はある種の戦場と化していた。
黒豹の面をつけた翠玉、シュリ、ワトソン、ニコライは黒豹特製のアップルパイ最後の一切れを巡り睨みあっていた。
「あーもう、埒が明かない!コレで決めよ!」
そう言ってワトソンが持ち出したのは…
第二十八話 ブラック人生ゲーム
ブラック人生ゲーム。それはただの人生ゲームとほぼ変わらないが、起こる悲劇がとにかくツラ過ぎる、或いはそして人生イベントがほとんど犯罪であるというシロモノである。そして信じられないことにこれが今巷で一番流行っているのである。一体、大衆の道徳観はどうなっているのだろうか。それだけ鬱憤が溜まっているということなのだろうか。
「うーわ、ブラック人生ゲームじゃん!」
すぐに目を輝かせたのはシュリである。
「ワトソン、こんなもの、どうやって手に入れたんだよ⁉今じゃあもうすげぇプレミアついてるって言うじゃんよォ」
「ふふふ、ちょっと奮発してみました」
ワトソンは得意気である。
「ワトソンさん、すごいや!」
「よォし、これで勝った人間がアップルパイを勝ち取る!いいね」
そうして始まったブラック人生ゲーム。まずシュリが五つ進んで「美女と結婚」のマスに止まる。
「ええ…美女と結婚だって!ワトソン、これホントにブラック人生ゲームか?ホワイトすすぎるぜ、幸せ過ぎるぜェェェッ、オレ、勝ったな」
「おい、誰が翠玉さんと結婚と言ったよ」
ワトソンがルーレットを回して自分のコマを進めながら言った。ワトソンのコマは「性悪イケメン社長に雇われる。カネ払いは最悪だし、女グセも最悪。しかし、イケメンで全て許されているのでとてもムカつく」と書かれたマスに止まった。ワトソンは顔を顰める。
「え、なにそれ、まさにお前のことじゃん」
シュリがニヤニヤしてワトソンの方を見る。
「クソッ、」
ワトソンが吐き捨てる。その間に翠玉がルーレットを回して三つ進んで「うっかり窃盗犯に恋する」と書かれたマスに止まる。
「…」
「あ゛ーッ翠玉さんがあの黒豹の野郎に…!」
シュリが頭を抱える。
「おい、ワトソン、ブラック過ぎるぜ、どうしてくれんだよォォォォッ」
「僕に言われてもね」
そう言ってワトソンは内心、ざまあみろ、とシュリに対して思う。ここまでくるとこのブラック人生ゲームとは起こる出来事がブラックなだけでなく、人間のブラックな部分が浮き彫りになるゲームと思っていいかもしれない。
「もうっ、みなさん大人げないですよ…ただのゲームなんですから」
ニコライは「郵便局にお使いに行って何もないところで転んで恥をかく」というマスに止まる。
「ちょ、ちょ、何なんですかァァァァこれ!!」
ニコライでさえ「ただのゲーム」にかなり取り乱している。ここでシュリは翠玉の方を見ると、「なんで翠玉さんてあの野郎の仮面してんの?取ればいいのに」と言って仮面を取ろうとする。すかさず翠玉はその手を払いのけると、「…離婚」と言った。
「えッ、えッ離婚ンンンン⁉」
シュリはふたつ進んで「実は結婚詐欺で金を持ち逃げされ路頭に迷う、また借金の肩代わりをさせられ泣きっ面に蜂」というところで止まる。
「オレ、すってんてんじゃんンンンンッ!翠玉さァァァァん」
「…」
「いやだから誰が翠玉さんって言ったよ…ってあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!黒豹のヤツ、僕を解雇しやがった!!」
「いや、黒豹さんじゃないから!」
翠玉は「窃盗犯とできちゃった結婚する」というマスに進む。
「…」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ…!黒豹の野郎ッ…!許すまじィィィ」
「あーちょっと黒豹、これはいただけないね」
「みなさん⁉なんで気づいたら全部黒豹さんなんですか⁉」
その後シュリは路頭に迷った挙句に万引き常習犯となり、ブタ箱行きとなり、刑期を終えて出ようとするも大規模な脱獄事件が起こりその連帯責任として刑期が伸びた。そして待ちに待ってシャバに出た。またワトソンは黒豹(仮)に解雇されたあと、再就職を果たすも平凡な生活を送り、ニコライはなぜか転ぶことの多い人生を送ることとなった。そのせいで出費が絶えなくなった。翠玉はというと、子と夫を流行り病で亡くし、ひとり寂しく暮らしていた。
「えッ、オレ、勝ったなこれ!!」
「知り合いから押し付けられた株で大儲け。十五マス進む」のマスに進んだシュリが叫ぶ。今やシュリはいちばんリードしていたワトソンを追い抜き「上がり」のひとつ前のマスにいた。
「なにこれ最悪!また解雇されたんだけど!!それも今度は倒産だよ⁉景気悪ッ」
ワトソンは何マスか戻ることとなり、シュリからリードを奪い返すことは叶わなかった。
「あっ、再婚」
翠玉はなぜか再婚することになる。
「オレ!オレとしよ、翠玉さん!」
「えーッ、僕ついに入院しちゃいましたよ!!大腿骨骨折ですって」
「うーわ、ニコライ、派手に転んだな。痛いぞー」
シュリがニヤッとする。
「オレ、上がり!!アップルパイはオレのモンだね!!」
ブラック人生ゲーム、シュリが億万長者となることで決着。
「あー、負けちゃったなぁ…あの倒産さえなければなぁ…」
「僕は転んでばっかでしたよ…」
「さーて、みなさんすみませんね、オレがアップルパイいただきますけど」
「わー、シュリ感じわるー」
シュリが台所のテーブルに置いてあるアップルパイを食べようと振り返った。が、そこにアップルパイはなかった。いるのは楽しそうに黒い笑顔を浮かべた全身黒ずくめの窃盗犯と酔っぱらった赤茶色の長髪の、満足げにをモグモグさせている男だけだった。
「え゛ッ」
「楽しそうだなァ、俺も混ぜてくれよ?」
黒豹は黒い笑顔を浮かべながら言う。それを見て、シュリ、ワトソン、ニコライは青ざめる。
「やー悪ィなァ、そうとは知らず美味しそうなパイだから食っちまったよ」
雲豹は口の周りにアップルパイの残骸をつけて黒豹とは対照的に爽やかに笑う。それをシュリは涙目で見る。
「…おふざけもここまでだ、とりあえずみんな座れ。話したいことがある」
この時、本物の人生ゲームの戦いの火蓋が切って落とされた―。




