第二十五話 嫌な男
使用上の注意
(守らないと胸クソが悪くなったり、副作用・事故が起こりやすくなります)
1. 次の人は服用しないでください
(1)雪雨(雪豹と霧雨のカップリング)または雪雨の成分によりアレルギー症状を起こしたことがある人。
(2)15歳未満の小児。
(3)爛れた関係がお嫌いな方。
2.長期連用しないでください
「チッ、嫌な男だ」
霧雨は黒豹のことを思い出しながら言った。からかうような話し方をするくせにその内容はいやに的を得ている。それは霧雨が最も苦手とする人間だった。
第二十五話 嫌な男
「おかえり、霧雨。あれ、グウェンはどうしたのかな」
雪豹はにこりと微笑む。その笑顔は美しいが、見る者に否応なしに答えさせるような圧があった。しかし、霧雨はそれしきで怯むような女ではなかった。
「雪豹様の命令に反して黒豹を殺そうとしたので私が始末しました」
「あっはっはっは、霧雨は厳しいね」
「規律は大事です」
霧雨は雪豹の隣に座る。
「それで…黒豹はどうだった?君のことだ、きっと今日黒豹の足止めに行くと手を挙げたのには何か理由があるんでしょ?そもそも今日のは下っ端に任せておいてもよかったのは君も分かっているはずだ」
雪豹の言う通り、霧雨が黒豹の足止めに行ったのにはある理由があった。黒豹と呼ばれる男の大義が、魂がいかほどのものか自分の目で確かめたかったのである。しかし、霧雨は首を横に振る。
「いえ。やはり私が行って正解でした。グウェンのような血の気の多い輩に任せていたら黒豹が殺されていたやもしれません…しかし、黒豹というのはつくづく嫌な男ですね」
霧雨はすぐ目の前に黒豹がいるかのように顔を顰めてみせる。
「言わんとしていることは分かるよ。軽口のくせに言ってることは当たってる、そうでしょ?」
「…そうです。貴方様の脅威になりうる理由が分かったような気がします。あの男は危険ですね。どこまで察していてどこまで察していないかが実に分かりにくい。何を考えているか全く読めない。へらへらしていても急に牙を剥いてくる感がありますね」
「なに、もしかして嫌な男、と言いながら意外と気に入っちゃった?」
雪豹は口元に優しい笑みを浮かべて霧雨をじっと覗き込んだ。圧のある笑顔には怯まないくせにその視線には霧雨は弱かった。かああ、と頬を染めるとそっぽを向いた。
「かーわいいね、霧雨チャン?」
雪豹はなおもしつこく霧雨の顔を覗き込む。
「えーッ、ツレないなァ」
雪豹は霧雨の腰に腕を回して撫でる。雪豹は霧雨と唇を重ねるとねっとりと舌を絡ませる。そのまま霧雨をゆっくりと押し倒す。雪豹が霧雨の小さな唇から離れると濡れた口の周りとぺろりと舐めて霧雨を見下ろす。その淡青い瞳はかつてないほどに野性的で色っぽかった。
「雪豹様…」
その瞳に射抜かれた霧雨はくらくらしながら呼ぶ。
「霧雨…」
雪豹は霧雨の小さくて可愛らしい耳に息を吹きかけた後、口に含んで舌の上で転がす。雪豹の手が霧雨の服の中にするりと入る。綺麗な器用そうな手が霧雨の胸に伸びやわやわと触る。
「雪豹様…もっと…」
「ハハ、そんなセリフどこで覚えてきたわけ?」
霧雨は雪豹に与えられる快感に溺れながらつくづく雪豹という男も嫌な男だ、と思った。黒豹に言われるとっくの前から分かっている。雪豹様に頼まれて黒豹を監視している時から気づいていた。私は黒豹に似ている。雪豹様は霧雨を霧雨として好きなんじゃない。私、霧雨は黒豹の代わりだ。でもそんな雪豹様を私は愛している。例えその愛が届かないとしても、そして雪豹様の愛が私にでなく私に似た男に向くのだとしても構わない。
「雪豹様ッ…!」
「霧雨…」
雪豹の額から汗が霧雨の顔に落ちる。霧雨ははっとして雪豹の顔を見上げる。快感に歪んだその顔は泣いているようだった。
本当に、嫌な男。彼は私を見ていないのに私はどんどん彼のことが好きになる…。そしてこの人には私がいなきゃダメなんだわ、と思わせる。今まで何人の女がこうやって彼の虜になってきたことだろう。でもいい。雪豹様が私を必要とするように私にも雪豹様が必要だ。雪豹様に出会う前、自分がどうやって生きていたのか今ではもうすっかり思い出せやしない。
霧雨は脚を雪豹の腰に回すと、自分の方に引き寄せて抱き締めれば、ふたりの鼓動がひとつになる。
「霧雨ッ…」
「雪豹様…霧雨はいつもお傍におります…」
「霧雨…霧雨はどこにも行かないでね…こんな僕でも愛してくれる…?」
「何を今更おっしゃるのですか…霧雨は雪豹様を限りなく愛しています…」
霧雨の琥珀色の瞳から、涙が一筋頬を伝った。




