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Cicatrix  作者: 深海輝蕾
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第二十三話 翠玉vsシュリ

 どうして。どうしてこんなことになった⁉あの能力は死人対象ではなかったのか。もし、斬られただけで発動するとしたら、物凄く厄介なことになる。通り魔だけでも十分怖いのに、斬られただけでゾンビと化すような強化版の通り魔ァァァァッ⁉通り歩いてただけでいちいちゾンビにされてちゃたまんねェよォォォォッ!

 心の中で醜い高音の叫びを発しながらワトソンは診療所から家までの道を人生史上最高スピードで走っていた。もともと自他共に認める運動が苦手で鈍臭いキャラであるワトソンだが、この時ばかりはそうは言っていられなかった。いまあの家には、敵の術中に落ちたシュリとニコライと翠玉しかいない。ニコライと翠玉がふたりでシュリを止められるとはワトソンには到底思えなかった。


第二十三話 翠玉vsシュリ

 そのころ家では相変わらずシュリと翠玉の膠着状態が続いていた。ドアを背にした翠玉とシュリは額を突き合わせてがっちりと組み合っている。ニコライはその光景に立ち尽くすしかなかった。

 どうしよう。翠玉さんが限界を迎えるのは時間の問題だ。助けなきゃ。でもどうやって…?入り込む隙がない…!

「止まれ、シュリ、止まれ」

 翠玉が唸った。黒豹の面から覗く額には玉のような汗をかいている。ずるずると押されて翠玉の踵が完全にドアについた。

「くっ…」

 翠玉はドアをストッパーにそのまま前に体重をかけて踏ん張るがその努力も虚しくどんどん押されて今では姿勢をキープできずほとんどドアに押し付けられる形になっている。

「翠玉さん…!」

「坊や」

 翠玉はニコライに向かって大丈夫だ、とでも言うように首を振った。

「待ってて、今助けるから…!」

 何かを思いついたらしいニコライが何かを取りに階上に走る。戻ってきたニコライの手にはトランプのようなカードの束が握られていた。そのカードには数字ではなく絵だけが描かれている。その種類はたくさんあり、女の絵から動物、花の絵まであった。本来このカードは賭け札と呼ばれ、魔法界版花札のようなものだ。ニコライはその中から「月見花魁」と「新緑」と「狼」のカードを選んで重ねる。

「『月見花魁』に『新緑』に『狼』!翠玉さんに力を!」

 ニコライ。ナチュラルギフテッド。能力名、決闘者(デュエリスト)。カードを組み合わせて意味を創り出すことで魔術を操る。

「ぐっ…!」

 翠玉が再び力を取り戻しシュリを押し返すとその足を払うと床にシュリを転がしその上に馬乗りになる。

「翠玉さん!」

 ニコライの顔がぱっと明るくなる。翠玉はシュリの上で肩を上下させて息を整えている。その時、シュリが意識を取り戻した。自分の体の上に重みを感じてうっと顔を顰めると自分に馬乗りになっている翠玉を見ると「ブバシャァァァァ」という効果音が聞こえそうなほど派手に鼻血を吹いて「お姉さん…お名前ェ…」と言いながらまた意識を失った。

「翠玉だ」

 意識を失ったシュリに跨ったまま飄々と答える翠玉。

「翠玉さん、たぶん聞こえてないです、それ」

「あ、そうか。…で、どうしようか。また意識を失ってしまったようだし」

「それは…」

 外からただならぬ足音が聞こえて、ニコライと翠玉はビクッとして顔を見合わせた。その次の瞬間、ドアが勢いよく開いた。そこには膝に手をついてはあはあと荒い息をしてるワトソンだった。

「ニコライ…翠玉さん…無事ィ…?」

 そこで初めてワトソンは玄関先の()()を目にする。

「え、ちょ…ちょっと⁉一体何があったの⁉す、翠玉さん、そのカッコ、ちょっと刺激的すぎるでしょ」

 ワトソンは鼻から大出血しているシュリをちらりと見やる。

「あーあー、シュリもすっかりやられちゃって。翠玉さん、もう退いていいよ。こっからは僕がなんとかするから大丈夫。あらら、こりゃ完全に魔術にかかってるね…黒豹に報告しなくっちゃ」

 ワトソンは何やら呪文をぶつぶつ唱えた。

「もうこれで大丈夫。ニコライ、それに翠玉さん、お疲れ様」

 ワトソンはよいこらしょ、と立ち上がる。ニコライはその服の裾を不安そうな面持ちで掴む。その行為が意味するところを感じたワトソンはふっと柔らかい笑みを浮かべた。

「大丈夫。もう行かないよ」

 ニコライは俯いてこくりと頷いた。

「怖かったよね、僕も怖かった」

 ワトソンはニコライの頭を撫でた。

 一方その頃。シュリも意識を取り戻しつつあった。翠玉はシュリの体を跨ぐようにしゃがむとその顔を見ていた。シュリの目と面の奥の翠玉の目が合った。

「翠玉だ」

 コテン。もはや鼻血など枯れ果てたシュリは今度は無音で落ちる。

「あ゛ーッ!ワトソンさん、シュリさんがまた翠玉さんに()()()ました!!」

「えーッ!もう勘弁してよ…ほらシュリ、起きて、大丈夫?」

 その声にシュリは意識を取り戻しがばっと身を起こした。

「翠玉さん!翠玉さんは⁉今オレに微笑んでたような気がする」

「あーはいはい、いい夢見たね」

 ワトソンはシュリに肩を貸しながら立ち上がらせる。

「おい、ワトソン聞けよ…オレ見ちゃった」

「あーそう。何を、とか聞かないから安心しなよ」

「ホクロ…翠玉さんの胸の谷間の…こっちに屈んできた時にさぁ…見えた…」

 シュリは恍惚とした表情をしている。

「ニコライ…こういう大人になっちゃダメだよ」






 






 

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