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Cicatrix  作者: 深海輝蕾
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第二十話 張り込み

「ああ、そうか。礼を言う」

 黒豹が静かに電話を置き、その後ろで心配そうに見守るワトソンとシュリに向かって首を横に振る。ふたりはがっくりと肩を落とす。

 電話の相手は闇医者だった。つい今しがたフォーク野郎が担ぎ込んできた男は傷がひどく、助からなかったそうだ。

「まァ、フォーク野郎、お前が悪いんじゃない」

 今にも泣きそうなシュリを見やって黒豹が言う。

「…ワトソン、ちょっと」

 そう目配せする黒豹とワトソンはシュリにその会話が聞こえないように部屋の外に出る。

「…死体がひとつ」

 黒豹が低い声で呟く。

「どうやら今夜何かが起きそうだね」


第二十話 張り込み

「ニコライ!俺とワトソンはちょっと仕事に行って来る。その間フォーク野郎と翠玉を頼む」

 黒豹は外出用の上着を引っかけながら階上にいるニコライに言う。

「はい!」

 二階からニコライの返事が返ってきたのを確認し、黒豹とワトソンは外に出る。

「で、死体が動き出したらその後を追う、と」

 ワトソンが指先を擦り合わせながら言う。冬は終わったとはいえ、夜はまだまだ冷える。

「その通り。とりあえず裏で糸引いてるのが誰か確認する。捕まえるかどうかはまた別の話だ」

 話しながら歩いているうちに闇医者の診療所に着く。

「夜分に邪魔する」

「貴様とは最近よく会う気がするよ、小僧」

「ああ、まったくだ。その死体を見せてもらえるか?今のところは特段変わったところはないだろう?」

「まったくないね」

 闇医者と黒豹は何も言わずにワトソンの方を見る。

「はいはい、僕が先に行けばいいんでしょ」

「…今日は騒がないじゃないか、なんかしたのか、小僧」

「いや、まったく何も」

 ワトソンの背後で黒豹と闇医者はひそひそと話す。

「なんだ、アンタら!うっせぇぇぇぇぇよッ!人がマジメに仕事してんだから…!」

 ワトソンは安置室に入り、死体と対面する。そのあとにふたりが続く。

「死因は失血死だ。見ろ、致命傷は首元の傷だ。それ以外に傷は見当たらない。まるで一級の殺し屋にやられたみたいだ」

 その言葉に黒豹は俯く。国家保安隊員は厳しい訓練により高い身体能力、思考力、そして殺しのテクニックを身に付けさせられる。中でも、雪豹(1458)黒豹(1457)は、街角ですれ違ったその一瞬で的確に致命傷を負わせ殺すほどのテクニックを有する。黒豹はその傷に見覚えがあった。自分もよく他人に付けていた傷だから見間違いようがない。これは…

「…1458」

「え、なに?なんか言った、黒豹?」

「あ、いや何も」

 これは。慎重にそして迅速に事を運ばなければ人が死ぬ。それも大勢。もしそうなったら、自分のせいだ。あの時、感情に囚われて合理的な判断力を欠いた自分のせいだ。あの時、どうしても雪豹が可哀想で、そして自分の兄弟であり時代の被害者である雪豹を何か悪いものとして処理するような真似ができなくて祓ってもらうのでなくそのまま土葬にした。それが間違っていたのだ。もしもう一度雪豹を殺さなくてはならないのなら。その時は自分一人で決着をつけよう。二度も雲豹に兄弟を殺させはしない。今度はその業を自分が背負おう。

「黒豹、どうかした?冷や汗なんかかいちゃって」

 ワトソンが黒豹のことを心配して顔を覗き込む。

「あれ、もしかして黒豹、体調悪い?ラフィーネに吸われたのが堪えてるんじゃない?」

「おい、助手。ラフィーネとは何だ」

 闇医者が厳しい顔でワトソンの方を見る。

「ラフィーネってのはうちのドアの守護魔人。黒豹の恋の魔人。今日、それが弱ってたから黒豹がキスして元に戻した」

「それはけしからんな、医者としても看過できん」

「あ、おい」

 闇医者は黒豹に抵抗する間も与えずその腕を捲って点滴を()()()()

「貴様はここで寝てろ」

 シャッ、とカーテンを閉めながら闇医者が吐き捨てる。

「心配しないで、動きがあったら知らせるから」

 …解せない。仕事で来ているのに無理矢理点滴をぶっ刺された挙句に寝かされるのもそうだが、なぜ今になって自分たちの前に雪豹の姿がちらつくのか。あいつが死んだのは七年前だ。雪豹が呪いと化して生き返る場合、そんなに時間はかからないはずだ。だから出てくるんだとしたらもっと早くに出てきているはずだ。この空白の七年間、ヤツは一体どこで何をしていた…?

「ワトソン!」

 カーテンの向こうにいるはずのワトソンに呼びかける。

「なにー?どうしたー?」

「そこの死体から能力者の能力を感知できるか?」

「あッ!この前の能力者の能力だ!」

 おかしい。男を殺したのはほぼ確実に雪豹だろう。でも雪豹は能力者ではなかった。能力者であったならば、あの時、雪豹は死ななかったはずだ。あの日、雲豹は俺と雪豹を殺そうと銃の引き金を引いた。俺は雪豹の方に向いていた銃口をポルターガイストで捻じ曲げ、雪豹はその身を挺して俺を庇って死んだ。つまり、雪豹が何らかの能力者であれば、その時能力で解決したはずでその身を挺して俺を庇う必要はなかった。考えられるのは呪いとして生き返ったことで能力者(シカトリックス)になったということか、能力者(シカトリックス)を味方に引き入れていることだ。初め、死体に関する依頼で来た時、能力者の痕跡を消すもう一人の能力者の存在があった。ということは、少なくとも一人は共謀者がいることになる。雪豹、お前の狙いは何だ…?

                    ***

 何でも屋の事務室として使っている部屋の椅子に座ってうつらうつらしているとドアについているベルがカランコロンと鳴って来客を知らせた。

「いらっしゃい、ご依頼は?」

 気だるげに挨拶する俺にその客は近づいてくる。よく知った甘ったるい匂いが鼻腔をくすぐりはっとして客の顔を見る。

「久しぶり、黒豹」

 そう言って雪豹は俺の前の机に手をついて俺の顔を覗き込む。淡い青色の瞳に俺が映っているのが見える。

「ご依頼は…」

 口がからからになってそれしか言えない。かつては自分も殺しをしていた人間だったから、これくらいの殺気を自分も発していたであろうはずなのに、今目の前にいる雪豹の殺気に当てられて心臓が口から出てきそうだ。

「やだなぁ、まだ何でも屋さんごっこ続けるの?言わなくたって僕の依頼くらい分かるでしょう?」

 ニコッと雪豹は微笑む。

「さァな、察してほしがりまくる面倒な女みたいなマネは止せよ」

 黒豹はニヤリと笑みを返す。

「黒豹は変わらないね、自分の命に他人の手がかかっているのにそうやって軽口叩いて。…死んで。この僕にここで殺されてくれないかなァッ⁉」

 雪豹が腕を振り上げる。その手にはナイフが握られている。

「…がァッ…!ハァ」

 いつの間にか寝落ちて夢を見ていたらしい。物凄い寝汗だ。それにしてもなんてタイムリーな夢だろうか。夢の中で雪豹にお前の狙いは何だ、とでも訊けばよかったのだろうか。

「ま、できっこないよな」

「お目覚めか?」

 シャッ、と闇医者がカーテンを開けて現れる。

「うん、今さっきよりはマシな顔色してんな」

「そりゃ、どうも」

 黒豹はのっそりと体を起こす。

「ちょっと、黒豹!ヤバい!死体が!!」

 ワトソンの切羽詰まった声が聞こえて慌ててブーツに足を突っ込みワトソンのいる安置室に向かうと、そこでは恐ろしい光景が待ち構えていた。

 死体が動いていた。そして死体はのっそのっそと出口の方へ向かって行く。

「ワトソン、追うぞ!」

 その時電話が鳴った。闇医者がその電話を取る。その電話を取った闇医者の顔はみるみるうちに青ざめていった。

「おい、小僧…」

 黒豹は何も言わずに闇医者から受話器を取る。

「どうした、ニコライ⁉」


 




 





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