第十七話 健康診断
「…なんだ貴様、とんでもないのに手を出して。死にたいのか」
闇医者は黒豹と黒豹が連れている翠玉を見て言った。
「死にたいわけじゃないのだが、依頼でね」
「百顔姫のお守り依頼する奴がどこにいるんだ」
お前が気に入って盗んできただけだろう、女道楽もいい加減にしろ、とでも言いたげに闇医者は言った。
「とりあえずこの国のどこかにはいる。顧客情報なんでね、ほいほい喋れない」
「フゥン、なかなかデンジャラスな仕事してんだな。物好きなことだ」
呆れたように闇医者はやれやれと首を振ってみせる。
「で…こいつを診てもらえないか」
「まァ診るくらいだったら別に喜んでやる。なんせこんなイキモノ診ることも触ることもそうそうないからな」
「ヘンなことすんじゃねェぞ、解剖しようなんざもってのほかだからな」
第十七話 健康診断
「おそらく歳の頃は18やそこら。身長175センチ。体重53キロ。はっきり言って瘦せすぎだ。ちょっと栄養が不足している感はあるが、他は全然問題ない」
「…じゃあすぐに死ぬことはないと?」
「医学的に見ればな。それ以外の要因については知らん。そもそも百顔姫なんて平民はお目にかかれないイキモノだ。だから巷で言われてることの真偽なんて分かりゃしない。それは寿命についても然り。それに俺たちの見えないところで隔離されて生かされてんだ、だから歳食う前に始末されてんのかもしれないぞ」
「そうかもしれないな。礼を言う、闇医者」
そう言って黒豹は翠玉を連れて立ち上がる。
「珍しく入れ込んでいるんだな」
「そう見えるか?」
黒豹は怪訝そうな顔で闇医者の方を見る。
「ああ、見える」
「でも別に入れ込んでるわけじゃない。依頼者がどんな思いで依頼してきたかと思うといい加減にはできないだけだ」
自分と同じように、雲豹は国に利用され死んでいく翠玉に対して小さからぬ何かを思ったはずだ。そして自分が雲豹の立場だったら雲豹がしたことと同じことをしただろうと黒豹は思う。
「だからそれは入れ込んでいる、と言うんだ」
闇医者は呆れたように、そして面白がるように笑った。
「百顔姫に関わった王家以外の下賤な者は百顔姫に溺れる。だから禁忌とも言われる。気をつけろよ?ま、この話も真偽のほどは定かじゃないがな」
「ご忠告どうも」
そう言って黒豹は今度こそ診療所をあとにしようと戸を開ける。そんな黒豹に闇医者は小僧、と後ろから声をかける。
「くれぐれも危ないことには首を突っ込むなよ、せっかく俺が拾ってやったその命、大事にしろよ」
その言葉に黒豹はほぼ無意識に左胸の傷をなぞる。
「どうしたんだ、ジジイみたいなこと言って。歳でも食ったか?」
「そりゃ俺だって歳だって食う。貴様、自分がいくつか考えろよ。うっかり死にやがったら許さないぞ。貴様は俺の大事な大事な実験台だからな」
「ハハッ、分かってらァ」
診療所のドアがやけに耳障りな音を立てて閉まった。




