第十四話 憂い?
曇る琥珀色の瞳は何を想う―。
第十四話 憂い?
雲豹が翠玉を黒豹に託してから一週間が経とうとしていた。その間、恐ろしいことに、全く追っ手の存在が浮かび上がってくることはなかった。そして、例の死体もとんと出なかった。さらに恐ろしいことに、仕事の依頼もなかった。つまり、本当に恐ろしいほど平和だった。
「あーッ、ヒマ。どうしよ、マジヒマ。このまま僕たちって廃業するんじゃないの、ねぇ黒豹」
そう言ってソファーの上でごろごろしているワトソンのTシャツには「繫忙期」とプリントされている。
「あー、うん」
黒豹は気のない返事をする。
「え、ちょ、廃業すんのォォォォッ!?いつもだったらさぁ、『そんなこと言ってっと死ぬほど忙しくなるぞ』とか言うじゃん!!」
「ああ」
「ちょっと!?黒豹!?」
ワトソンは黒豹の方を見る。案の定、黒豹はぼーっと何やら考え込んでいる。ここのところ、もっと言えば翠玉がうちに来てからそうだ。
「くーろーひょーう」
今や黒豹はどこからか取り出した万華鏡を覗き込んで自分の世界にこもっている。
「えーっ、ちょっとホントどうしちゃったの」
***
「黒豹さん、いま帰りましたー」
郵便局からニコライが帰って来た。
「え?お前どこ行ってたの」
「えっ、どこって郵便局に決まってるじゃないですか。黒豹さん、僕に切手買ってこい、って言ったの覚えてます?」
「あっ、」
その様子を物陰から見ていたワトソンはもう非常事態だった、心が。
ちょっと、ちょっとォォォォッ!!なにこれ、超非常事態なんですけど!?この数年間、黒豹と暮らしてきて、こんなの前代未聞なんですけど!?え、ちょ待、どうしたらいいの、コレェェェッ!?なんて声掛けたらいいか、わかんねーよッ!それにさっきからずっと万華鏡覗き込んでるとかマジなに!?それでなんか答えとか見えんの!?…いや、あの黒豹だから見えるかもしんないけど…。にしてもさぁ!そんな何時間も万華鏡覗き込んでることってある!?
「ニコライ、ニコライ」
ワトソンは物陰からニコライに手招きした。
「ワトソンさんもやっぱり…?」
「いや、アレで異常なしとか言ってらんないでしょ」
「コレってもしかすると…もしかしちゃうんじゃないんですか…?」
ワトソンはニコライの言わんとしている意味を察し青ざめた。
「いや…いやいやナイナイナイ」
「いや、アリよりのアリなんじゃないですかね。だって翠玉さんて…」
「あ゛ーッ!!それ以上言っちゃダメ!いやさ、僕だって黒豹は好きに恋愛すればいいと思うよ!?でもさ。相手ってモンがあんじゃん!それに僕たち家ナシになる危機よ!?」
「家ナシの危機は置いておくとして、翠玉さんが相手じゃ困る理由ってなんですか」
ニコライは澄んだ目でワトソンを見た。
「ニコライ…たぶんあの人、もうすぐ死んじゃうんだと思う。だから依頼してきた人も何でも屋に連れてきたんじゃないかな。そのまま、鎖かなんかに繋がれたまま死ぬんじゃ可哀想だから、って。黒豹ってさ、今まで色んな大事なもの失くしながらここまで来たと思うんだよね。だから…できることならもう何も失って欲しくないな、って僕思うの」
***
その日の晩は、互いに何も言わずに終わっていった。翠玉はといえば、来た当初から普通に食事をした。これは何でも屋メンバーにとっては意外だった。夕食を摂り終えて各々が自室に引き上げようとしている時だった。立ち上がる翠玉の細い腕を黒豹がすかさず掴んだ。
「待て。話がある」
黒豹動く―!?




