第十三話 七回忌
七回忌にもの思うのは遺された者だけでなく―?
第十三話 七回忌
城の職員宿舎から出た黒豹は少し足を伸ばしてある場所に来ていた。黒豹はごろりと道の真ん中に寝そべった。やけに大きい満月の光がスポットライトのように黒豹を照らした。
あれは七年前の今日のことだった。雪豹はその日、ここでこうして死んだ。俺の目の前で死んだ。季節外れの雪が降った日のことだった。
『僕は…ずっと黒豹になりたかった…』
それが雪豹の最期の言葉だった。その真意は今となっては解りやしない。
「ずっと雪豹になりたかったのは俺だ…」
雪豹は優しい誰よりも優しい人間だった。他人の痛みを理解して寄り添うことのできる優しい人間だった。そして他人のために怒ったり泣いたりできる人間だった。でもその代わりにと言ってはなんだが、自分のことを後回しにする奴だった。だから、雪豹は壊れてしまった。苦しみ、憎しみに囚われて、過激な思想に陥った結果、多くの人間を殺めた。
もし、俺があいつみたいに優しい強い人間だったのなら。もし、俺がもっと優しい人間だったならば、結末を変えることができたのだろうか。そう自問する七年間だった。
時間の流れというものは恐ろしい。もう七年も経ってしまった。七年も死にきれずに死に場所さえもなく生き永らえてしまった。世間はあの時からもうすっかり遠ざかり、雪豹の国家保安隊員としての汚れ仕事の裏の苦しみがもう無かったことになろうとしている。そう思うとやり場のない怒りが込み上げる。
「なァ雪豹。早くお前に会いたいなァ…」
***
ところ変わって国境近くのひっそりした墓地。そこは豪雪地帯として有名である。そこに名のない比較的新しい墓石がひとつ。その墓石に積もった雪を払う男がいた。
「そうか、僕が死んでからもう七年が経つのか」
その日、雪豹は死んだ。しかし、その未練は死ななかった。残った感情が遺体を乗っ取り呪いと化した。
「ああ、ふたりに早く会いたいなぁ」
雪融けはまだまだ先のようである。




