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Cicatrix  作者: 深海輝蕾
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第十一話 兄弟豹

 たとえ、時代変わり、兄弟と道を違えようとも―。


第十一話 兄弟豹

 時は翠玉が消えた夜に遡る。

「…ウンピョウ」

「こんなとこでアンタを死なせたくないんだけどな」

 雲豹は声が出ないように歯を食いしばって泣いた。それはもう大粒の涙を零し、鼻水を垂らして顔中をぐしゃぐしゃにして泣いた。

「生きてるのに疲れちまった俺だけどよ、アンタには生きてて欲しいんだよ…行きたいところに行って、旨いモン食って、笑ってて欲しい、幸せになって欲しい…」

 なァ、黒豹、雪豹…お前らだったらどうする?

『こんなとこ、早く出てこう。僕たちが大人になったらこんな社会、変えてやるんだ』

『もう誰にも同じ思いをさせない』

 昔、彼らと交わした約束。この会話をして兄弟の絆を結んだその日から今日この日までその約束を忘れたことなんかただの一度もなかった。

 パサリ。懐から畳まれた古い紙が落ちた。それを広げてみると、「何でも屋」のチラシだった。

『何でも屋 とりあえず、なんでもやります』

「ハハッ、『何でも』か。黒豹、お前の答えはそうなんだな。禁忌だろうがなんだろうが構わねェ、ってか。そうだなァ、俺もお前らとの約束違えるワケにいかないもんな」

 雲豹はひとつ笑って涙を拭うと、酒をあおった。

「じゃあな、翠玉。アンタに俺の夢を託すよ」

 雲豹は立ち上がると親指と人差し指をL字に曲げるとその人差し指に対して中指が直角を作るように伸ばした。

「『キューブ』」

 能力(シカトリックス)名、空間操作。任意の空間を創り出したり、既存の空間そのものを操作する。能力傷(のうりょくきず)能力(シカトリックス)のきっかけとなった傷)、顔の中央の雲形の傷。

 翠玉が入ったキューブを雲豹は大事そうに懐にしまうとその場を後にした。

                   ***

「1459、どこへ行く」

 城の外れにある、使用人用の門を出ようとすると守衛に止められた。

「いやァ、ヤボなこと聞くなよ」

 コレだよ、と小指を立てて、守衛に金貨を一枚、投げる。

「ごゆっくり」

「あぁ、助かるよ」

 まさか、こんな禁忌を犯す時にこんなジェスチャー使うことになるたァな、と内心苦笑する。女には困ったことのない黒豹や雪豹じゃあるめェし、二十五年の人生で「コレ」がいたことなんてなかったからなァ…。

 雲豹は辺りを見回すとふらりと夜の闇に消えた。

                   ***

 それから数日後。黒豹に邂逅し、キューブを託すこととなった。キューブを渡すとあいつは、状況を理解したのかニヤッと笑って見せた。こいつは昔から一を聞いて十を知るどころでなく百も千も知るような男だった。話が早くて助かった。まァ…あいつに手持ちの最後の紙幣をむしり取られたのには心底弱ったが。でもそれで翠玉があそこで寂しい死を迎えないのなら安いものだ。キューブを持った黒豹の背がどんどん遠ざかっていく。

「じゃあな、翠玉」

 本当にこれが最後だ。翠玉に会うことはもう二度とないだろう。翠玉誘拐の疑いがかかりかねない自分が会いに行くことで翠玉を危険にさらしたくはない。

 やりきったという安心感と妙な寂しさを抱えて、城の近くの職員宿舎の自室に戻る。もう今日からはあの場所に行っても翠玉はいない。あそこに毎日翠玉に会いに行くことで救われていたのは自分だったかも知れない。味方のいないこの城で何でも話せるのは彼女だけだった。

「あーッ、寂しくなるなァ」

 そう言って冷蔵庫を開ける。今の空っぽになった自分の心と同じように冷蔵庫の中身も空っぽで思わず笑ってしまった。

「こんなの、寝酒にもならねェや」

 冷蔵庫に唯一あった缶ビールを開け、ベランダの柵にもたれかかって沈みゆく夕日を眺めながら冷えたビールを一口吞む。

1457(黒豹)、俺ァまたお前を殺せなくなっちまったよ」

 もうかれこれ七年前、旧政府が倒れ、俺は旧時代の亡霊となった。そこに新政府側から協力の依頼を受けた。その時、確かに奴らは1457(黒豹)1458(雪豹)も新政府側に寝返ったと言った。当然、俺は新政府側の申し出に飛びついた。しかし、いざ蓋を開けてみれば、1457も1458もいなかった。大噓だった。俺はまんまと騙されていた。挙句の果てにそんな俺に回ってきたのは逃れ者国家保安隊員の1457と1458の抹殺だった。そしてその仕事を受けて間もなくしてふたりに邂逅することとなり、俺は雪豹を銃殺した。その時のことは今でもはっきりと憶えている。季節外れの雪が降っていたことも、痛みの中死にゆく雪豹が妙に安心したような穏やかな表情をしていたことも。幼い頃共に過ごした男が自分の手にかかって命を失う。自分のしたことはもう取り返しがつかないのだと、もう二度とその男の声を聞くことも、顔を見ることも叶わないのだと、それはそれは重く心にのしかかり嫌というほど抉った。それから七年間、黒豹は俺の前に現れるが、結局俺は引き金を引けずに終わっている。引き金に指を掛ける度、あの時の雪豹の表情が頭の中にちらつく。黒豹という男のそんな表情は見たくない、と思ってしまうのだ。そしてしくじる度に心のどこかで安心する自分がいる。そのうちに覚悟が揺らいで黒豹(ヤツ)を殺らない理由を血眼になって捜すようになっている。それを分かって黒豹は自分の前に姿を現すのだろう。ヤツらしい、と思うと同時にそれが小憎らしいとも思う。

「なァ、1458(雪豹)、もうちょっとだけ地獄(そっち)で待っててくれや。俺もいつか黒豹連れて逝くからさ」





能力者ファイル  No.002


雲豹 シカトリックス 能力名:空間操作  能力傷:顔の中央の雲形の傷

空間を創り出したり、空間そのものを操作する。

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