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魔法使いの家事手伝い  作者: トド
第一章 『私のアゼル』
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⑧ 『大男』

 悲鳴が上がった方を見ると、そこには見知らぬ大きな男の人が立っていた。口の周りに()いひげをつけた姿はまるでクマのような大男だ。

 そんなこわい男の人が、止めに入る先生たちに太い(うで)()って暴れている。その姿に、まだ小さな子達は泣き出してしまった。


「みんな、早く()げなさい!」

 校長先生が暴れる大男の足を両手でつかんで、私たちに避難(ひなん)するように言う。でも、私たち高学年の子たちはいいけれど、低学年の子たちは泣いているばかりで、動くことが出来ない。


「あっ、ネイ!」

 どうしたものかと私が(なや)んでいる間に、ネイが大男の方に向かって走り出し、泣いている子達のもとにかけ寄ると、両手で二人の手を取って引っ張り、大男から遠ざける。

 でも、まだ泣いている子は三人いる。その事に気がついた私は、いつの間にかその子たちに向かって走っていた。


「泣いていては駄目(だめ)! 早く()げて! お姉ちゃんが連れて行ってあげるから!」

 私はネイと同じように、泣いている子二人の手を両方の手を使って引っ張って()げさせる。でも、私の手は二本しかない。あと一人、あと一人の子も助けないと!


「アミィちゃん、この子は私が!」

 私の後に続いてリリーナも走って来てくれて、最後に残った子に手を()ばしてくれた。でも、その時には、大男は校長先生たちを()(はら)い、リリーナたちに向かってすごい勢いでつっこんでくる。


「きゃぁぁぁぁぁっ!」

 リリーナの悲鳴があがる。

 大男は幼い子ではなく、その子を(かば)おうとしたリリーナの頭を大きな手でつかんだのだ。


「おめぇ、女の子だな。よかった。小さい子は、オラ、区別がつかねぇからなぁ」

 大男はリリーナの顔と長い(かみ)を確認して笑う。


「いやっ、いやっ、(はな)して!」

 リリーナは暴れるが、女の子の力では大男には敵わない。


「うちの子ども達に何をするの!」

 先生達が大男に向かって行ったけれど、リリーナをつかむ手とは反対の(うで)を、ブン! とふり回されて、みんな地面に(たお)れてしまった。


「このぉ! リリーナを(はな)しなさいよ!」

 ネイが大男にかけ寄り、太い足にキックをした。

 けれど、大男はなにも痛くないのか、気にした様子もなく笑っている。


「この(むすめ)っ子一人さらえば、()めてもらえる。そうすれば、こんどこそ……」

 大男はそう言って、私たちに背中を向けて走り出した。

 まずい、リリーナを連れて行くつもりだ!


「ネイ!」

「分かっている!」

 私はネイといっしょにリリーナを(かか)えたままにげていく大男を追いかける。

 背中の方から先生たちの止める声が聞こえたけれど、今追いかけないと、リリーナが危ないんだ。


 大男は森の木々の中を()げていくが、(おそ)い。私とネイは山育ちで走り回るのも好きなのだ。負けたりしない。

 なんとか追いつけそうだ。でも、そこからどうすればいいのだろう?

 私とネイの二人がかりでも、あんな大男に力では勝てないのだから。


 でも、ここで私は気がついてしまった。

 一つだけ。たった一つだけ、あの大男からリリーナを助ける方法がある事に。


 それは魔法(まほう)の力。あのとき、アゼルの左手を傷つけた力ならば、きっと……。

 アゼルが居ないところで魔法(まほう)を使うことは禁止されている。もしもそれを破ったら、もう二度と魔法(まほう)は教えてくれないと、会うことも止めると言われている。


 でも、大切な友達が危ないのだ。そして、今、その友達を、リリーナを救えるのは私しかいない。


(もしも、ここでリリーナを助けられなかったら、私はずっとこのことを後悔(こうかい)する)

 そう考えた私は、何をするのかを決めた。


「ごめん、ネイ! 先回りして!」

 私は、ネイに危険な事をお願いする。


「わかったわ!」

 けれど、ネイは何も聞かずに足を早めて、大男から少し距離(きょり)をあけ、その横を全力で()()けて、大男の前に回りこんでくれた。


「リリーナを(はな)しなさいよ! この変態(へんたい)!」

「なっ、なんで、オラより前から!」

 大男は、いきなり前に現れたネイにおどろいて、あわてて足を止める。


 そのわずかなスキを私は見逃(みのが)さない。

 私は急ブレーキをかけて止まるとすぐに、おへその下辺りから温かな球が生まれてくるイメージをする。そしてそれを体の中で動かしていって、両手の間に魔法(まほう)の光の球を作った。


「はっ、(はな)しなさいよ! 女の子の(かみ)を乱暴につかむなんてサイテーよ」

 光の玉ができた事を確認して前を見ると、大男はリリーナをかかえたまま、()いている方の手でネイの(かみ)をつかんでいた。


「リリーナ! 思いっきり()んで!」

 私の指示に、ネイがつかまってしまったことに(なみだ)を流していたリリーナが動いてくれた。

 リリーナは小さな口をいっぱい開けると、体をくの字にまげて、大男の指に()み付いたのだ。


「いっ、いてぇぇぇっ!」

 大男が情けない声を上げて、リリーナを地面に落とす。けれど、リリーナは予想していたようで、綺麗(きれい)に着地して大男から(はな)れる。それは、(かみ)をつかまれていたネイも同じで、大男の力がゆるんだのを確認し、素早く(はな)れた。


 このまま()げられれば一番だが、私と、特にネイはもうかなり体力を使ってしまっている。やっぱり、やるしかない!


 私は右手の手のひらからなるべく光の球をイメージで動かし、それを大男に向かって(たた)きつけるように背中にぶつけた。


 その瞬間(しゅんかん)、大きな力が起こり、パン! と音がした。


「がああああああああっ!」

 大男が(かみなり)みたいに大きな悲鳴を上げる。


 直ぐにこの場をはなれようと、みんなに言おうとした。でも、体から急にどんどん力が()けていくのを感じたかと思うと、私はその場に(たお)れてしまう。


「アミィ!」

「アミィちゃん!」

 ネイとリリーナの声が聞こえた私は、最後の力を使って(さけ)んだ。


()げて! そして、この事をアゼルに伝え…て……」

 私はなんとかそれだけ言うと、意識を失ってしまったのだった。

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