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魔法使いの家事手伝い  作者: トド
第一章 『私のアゼル』
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⑦ 『栗(くり)拾いとナイショ話』

 リュックは私のお気に入りのものではなく、お父さんの物を借りてきた。麦わらぼうしと可愛くない厚めの手袋(てぶくろ)長靴(ながぐつ)。そして、長いトングとカゴ。

 いつもならこんな格好はしたくないけれど、これからのことを考えると、これらは必要なのだ。


 秋は食べ物が美味しい季節。

 これから寒い冬がやってくるのは(いや)だけれど、『しっかり冬に備えるんだよ』と山の神様が言ってくれているかのように、山の(めぐ)みが豊富なのが本当に(うれ)しい。


 大人のほとんどが、ぶどうを使った飲み物であるワイン作りを頑張(がんば)っている中、(まぁ、私たちもぶどうを足でつぶす作業は楽しかったんだけれどね)私たち子どもは、学校の行事で、近くの森に(くり)を拾いに来ていた。


 (くり)! それは秋の楽しみ! 

 単純に()でて食べるだけでも美味しいけれど、やっぱりスイーツにするのが最高。

 私、今年は(くり)を使ったケーキにチャレンジするつもりなのだ! 


 うちのお母さんの作るモンブランケーキは最高に美味しい。お店で出しても、注文がたくさん入りすぎて、あっという間に売り切れになってしまうほどだ。

 私も作れるようになりたくて、教えてほしいと何度も言っていたのだけれど、今年、ようやく許可が出たんだよね。

 もちろん、アゼルにも食べさせてあげるんだ。


「はい。それでは、これから(くり)拾いを始めますよ」

 優しい校長先生が注意することを説明してくれて、それから仲のいいグループに分かれて(くり)拾いが始まる。

 もちろん私は、ネイとリリーナといっしょだ!


「いっぱい拾おうね、アミィちゃん、ネイちゃん」

「もちろん! お母さんにも期待しておいてって言ってきたから、たくさん拾わないと!」

「うっ、うん。そうだね……」

 私はいつものようにリリーナに返事をしたけれど、何故かいつも元気なはずのネイの声に力がない。


「ネイ? もしかして、体の調子が良くないの?」

 私が心配して声をかけると、ネイはいつもの調子で、


「そっ、そんなわけないじゃない! ほっ、ほら、(くり)拾い、(くり)拾い!」

 そう言って歩き始め、(くり)を探し始める。


 私とリリーナはお(たが)いの顔を見て、不思議そうな顔をする。

 けれど、体調が悪くないのならば大丈夫(だいじょうぶ)だと思い直し、私たちも(くり)拾いを頑張(がんば)るのだった。







 私たち三人のカゴには、大きな(くり)がいっぱい入っている。今年の(くり)拾いの成果はかなりのものだった。

 もちろん、私たちが頑張(がんば)ったのもあるけれど、今年は特に(くり)の出来がいいみたいだ。

 まるで山の神様が私のケーキ作りを応援(おうえん)してくれているようで、私は心の中で深く感謝する。


 小さい子が(くり)のイガが指にささってしまったトラブルはあったけれど、先生たちが直ぐに手当をしてくれたおかげで、その子も(くり)拾いが(きら)いにはならなかったようでよかった。


 そして、帰る前にみんなでお弁当を食べる。

 普段(ふだん)の私たちは、うわさ話などで盛り上がるんだけれど、今日はネイの元気がない。いや、元気がないと言うか、何かを言いたそうなことを言わないでいる感じだ。


「あの、ネイちゃん。なにか私たちに話したいことがあるの?」

 お弁当を運ぶ手を止めて、リリーナがズバッと質問する。でも、それはリリーナが無神経だからじゃあない。ネイの気持ちを理解してくれているからこそだ。


「そうだよ。いつも元気なネイがそんな調子じゃあ、私たちまで元気がなくなっちゃうよ。なにかあるのなら、話してよ。私達は昔からの友達でしょう?」

 私もリリーナに加勢して、ネイに(たず)ねる。すると、ネイもお弁当を食べるのを止めて、私たちの方を向いた。


「……そっ、その。わっ、笑わない?」

 ネイが顔を真っ赤にしながら、私たちに小さな声で言ってくる。

 その質問に、私とリリーナは、もちろんだよ、と答えた。

 すると、ネイは少し深呼吸をしてから話しだした。


「その、アミィやリリーナみたいに、私でもお菓子(かし)を作れるかな?」

 ネイの質問を聞いただけでは意味が分からなかったけれど、顔を赤くしたままのネイを見て、私は全てを理解した!


 今まで、ネイはあまり家でお母さんお手伝いをしていないと言っていた。そして、料理は作るより食べる方がいいとも言っていた。

 それなのに、急に料理を、まして難しいとされているお菓子(かし)を作ろうという気になったのは、間違(まちが)いなく気になる相手ができたからだ!


「わっ、笑わないっていったじゃあない!」

 ニヨニヨと微笑(ほほえ)む私に、ネイが弱々しい声で文句を言う。


「笑ってないよぉ。ねぇ、リリーナ」

「ええ。おめでとう、ネイちゃん。……それで、お菓子(かし)を作ってあげたい相手っていうのは(だれ)なのかな?」

「そうそう。私もすごく気になるなぁ~。ほらっ、ここまで言ってしまったのなら、最後まで教えてよ。お菓子(かし)作りなら、私たちがいっしょに手伝ってあげるから」

「ううっ……」

 ネイは()ずかしそうにしながらも、教えてくれた。けれど、それは意外な人物で……。


「えっ! まさかだね。びっくり……」

「うん。ネイちゃんはどちらかと言うと、運動が得意な男の子が好きだと思っていたわ」

 ネイがお菓子(かし)を作って(わた)したいのは、同じクラスのカリル君というおとなしい男の子だった。

 

 カリル君は運動が苦手で、いつも体育では居残りをさせられている子だ。けれど、勉強はわりと得意で、特に絵を()くのが大好きらしい。

 あまり友達も多くはなく、(きら)われているわけではないけれど、私たち女の子の、『気になる男の子ランキング』に上がってくることはない男の子だ。


「その、この間、カリルが花の絵を()いているのを見たんだ。そうしたら、ものすごく上手でさ。私、びっくりしたんだよね。それで、その事を言うと、カリルが(うれ)しそうに笑ったんだ。ただそれだけなのに、その顔が忘れられなくて……。もう一度笑っている顔を見たいなって思ってしまって……」

 ネイは話しながらどんどん顔を赤らめていく。このままでは頭から湯気が出るのではと心配になるくらいに。


「うん、うん。分かる、分かるよ! 初めてのときはびっくりするよね。自分がこんなに変わってしまうなんてって不安になったり、もどかしい気持ちになったり……」

 私もそうだった。あのとき、アゼルに初めて出会ったときがそうだったのだ。


「そっ、そうなんだ。これって、おかしい事じゃあないんだね」

 ネイは、ほっとした顔をする。


「いいなぁ、ネイちゃんもアミィちゃんも……。私も早くそんな男の子に出会いたいなぁ」

 リリーナは(うらや)ましそうに言うけれど、そんな事を男の子に聞かれたら大変だ。

 男の子たちの彼女(かのじょ)にしたい女の子の第一位は、リリーナなのだということは、本人以外はみんなが知っているのだから。


 そして、リリーナといっしょに、ネイにさらに(くわ)しく、カリル君の事を聞こうと思ったときだった。


 少しはなれたところで、悲鳴が上がったのは!

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