表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いの家事手伝い  作者: トド
第一章 『私のアゼル』
4/27

④ 『家族』

「ただいま~!」

 我が家にたどりつくと、私は帰ってきたことを元気な挨拶(あいさつ)で伝える。何事においても、挨拶(あいさつ)は大事なのです。


「おかえりなさい、アミィ」

 まずは、お母さんが満面の笑顔で応えてくれた。


 私のお母さん――カリナは、いつも笑顔を絶やさない美人で、私のあこがれでもある。

 私の白い(はだ)と金色の(かみ)は、お母さんからもらったもので、二人で買い物にでかけたりすると、みんなにそっくりだねと言われるんだ。


「おかえり。今日も頑張(がんば)って勉強してきたみたいだね、アミィ」

 夕方からのお店で出す料理を準備していた、お母さんと比べると少しだけ肌黒(はだぐろ)で、短くまとめたうす茶色の(かみ)のガッシリとしたこの男の人が、私のお父さんである、バリード。

 私はもちろん、お母さんよりも頭一つ分以上体が大きいくらい背も高いので迫力(はくりょく)があるけれど、すごく優しいお父さんなのです。


「うん。一生懸命(いっしょうけんめい)に勉強してきたよ! それに、お母さん達が持たせてくれた材料で、アゼルにシチューを作ってあげたら、お代わりまでしてくれたんだぁ」

 私は簡単に今日の出来事を二人に話すと、手洗い場で手を洗い、いったん自分の部屋に行く。


 かわいい小物とぬいぐるみがかざられた部屋の机にカバンを置き、明日の時間割を確認して、使わないものを()いて机のブックエンドに立てかけ、必要な教科書とノートを代わりにカバンにきちんと入れて明日の準備をしておく。そしてもう一度カバンの中身を確認。

 うん。出来る女の子は、当日の朝に(あわ)てて準備をしたりはしないのだ!


 そしてもう一度私は手洗い場に向かい、再び手を洗う。

 なんで二回も手を洗うのか? それは、これから食材に()れるから。


「お父さん、お母さん。野菜の皮むきを手伝うね」

 私がそう言うと、お父さんはにっこり笑って、「ありがとう。お願いするよ」とお店のキッチンの入り口にかけてあるエプロンを取ってくれた。


「今日はコロッケがおすすめ料理だから、すごくありがたいわ」

 お母さんはじゃがいもがたくさん入ったオケの横に、私用のイスを用意してくれている。


 私は自分専用の小さなナイフをキッチンの(たな)から取り出し、イスに腰掛(こしか)けてお母さんの横でいっしょに皮むきを始める。

 よぉーし、がんばるぞ!


「ところで、アミィ。アゼル君があなたのシチューをお代わりしてくれたって言っていたけれど、明日のメニューは何にするか決めているの?」

「もちろん、もう決めているよ。明日は、卵料理で行こうと思うんだ」

 お母さんと楽しく会話をしながらも、私達はじゃがいもの皮むきを手早く進めていく。


 何度も何度も練習をしてきたおかげで、私もお母さんのように話しながらでも上手に皮むきができるのだ。

 でも、私がじゃがいも一つの皮むきを終わらせる間に、お母さんは三つ終わらせている。

 ぬぅ。まだまだお母さんには敵わない。それに、お父さんはそんなお母さん以上に作業が早いので、これからもその差を縮められるように練習しないと!


「卵料理ね。それなら、『ウッフ・ア・ラ・コック』が簡単よね」

 お母さんが言う料理、ウッフ・ア・ラ・コックというのは、卵をふっとうしたお湯で三分ほど()でて、エッグスタンドに乗せて上の部分のカラをナイフで切って作る料理だ。

 細長く切ったパンにそれをつけて食べるととても美味しいのだ。


「うーん、たしかに簡単だけれど、それだけじゃあ卵料理として(さび)しいと思うの。だから、やっぱりここは、定番だけれどオムレツにしようかなぁって思っているんだ」

「なるほどねぇ。それなら、ジャーマンオムレツが良いんじゃあないかしら?」

「あっ、それすごく良い! 食べごたえもあるし!」

 私はお母さんのアイデアを採用することを決めた。


 ジャーマンオムレツ。

 それは、卵とじゃがいも、たまねぎ、さらにウインナーが奏でる味のハーモニー! 調理時間もさほどかからず、けれど食べごたえがあって美味しい料理。

 ああっ、塩コショウで味付けされたホクホクのじゃがいもと美味しい肉汁(にくじる)があふれ出てくるウインナーにケチャップの美味(おい)しさが加わった味を想像したら、それだけでヨダレが出てきそうになる。


「あっ、でも、今日はコロッケがおすすめ料理なんだよね? だとしたら、じゃがいもが続くことに……」

 アゼルはいつもうちのお店に夕食を食べにやってくる。だから私はその事を心配したのだけれど、お母さんはニヤリと笑う。


大丈夫(だいじょうぶ)よ! 今日はアゼル君にはお肉料理を出すつもりだから。ねぇ、あなた」

「ああ。熟成肉がちょうどいい具合だから、ぜひアゼル君に味わってもらいたいんだよ」

 お母さんとお父さんは、アゼルの事を決して呼び捨てにしない。それに、他のお客さんより少しだけひいきにしている。それには理由があって……。


「良い、アミィ?」

 不意にお母さんは真剣(しんけん)な声で言うので、私の考えは中断してしまう。


「今日、アゼル君は美味しいお肉を食べて満足するはずよ。でも、他のお客様がコロッケを食べているのを見て、それもいいなぁと思ってしまうはず。そんな気持ちの中で、翌朝、あなたが美味しいジャーマンオムレツを作って食べさせてくれたら、普段(ふだん)以上に好感度が上がるわ、絶対に!」

「そっ、そうだね! 絶対アゼルはじゃがいもを食べたくなっているはずだもんね!」

「そうよ。コロッケは流石にまだあなた一人で作らせるのは危ないし、後始末も大変だから朝食向きではないわ。そこで、ジャーマンオムレツよ!」

 お母さんの言葉に、私は気合が入る。でも、心配な点も浮かんでしまった。


「でも、アゼルは、やっぱりコロッケが良かったとか思ってしまわないかな?」

「そこは心配いらない! コロッケはじゃがいもにひき肉を入れてさらにうま味を加えるが、ジャーマンオムレツに加えるウインナーはうちの特製のもので、ただの挽肉(ひきにく)以上に美味しいはずだからね」

 ふとよぎった私の不安を、お父さんの一言が(はら)ってくれた。

 そうだ、私も大好きなうちの特製ウインナーは最高の味だ! それを使えばコロッケ以上においしいジャーマンオムレツが出来るに(ちが)いない。


「アミィ。しっかりとアゼル君をつかまえておくのよ!」

「そうだよ。あんな好青年はなかなかいないからね。それに、アミィのもう一つの夢をかなえることにも(つな)がるだろうから」

 うん。さすがは私のお母さんとお父さん! (むすめ)である私の事をしっかり考えてくれている!


「うん! 絶対に私はアゼルのお(よめ)さんになる! そして、魔法(まほう)使いにもなるんだから!」

 そう。これが私の二つの夢なんだ。お(よめ)さんと魔法(まほう)使い。どっちもかなえてみせる。

 アゼルといっしょならそれがかなうのだ。


 だって、アゼルはものすごい『魔法(まほう)使い』なのだから。

 そして、今日もまた、魔法(まほう)を教えに来てくれるのだから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ