③ 『情けない人?』
学校が終わり、家に帰る。もちろん、帰りもネイとリリーナといっしょだ。
私達の家はご近所さんなのである。
「だーかーらー! 何度も言っているでしょうが! 商品の並べる順番はそうじゃあないって! 一体いつになったら覚えるの!」
私達はお話をしながら楽しく歩いていたのだが、不意に、雑貨屋さん――<銀色のクチバシ>から大きな声が聞こえてきた。
「ははっ。今日も元気だね、ラリアさん……」
リリーナが引きつった笑みを浮かべている。それは、ネイも同じだ。
ラリアさんは、この村に二店しかない雑貨店の一つを営んでいる、お婆ちゃんだ。
もう腰が曲がってきているのに、声の大きさはこの村で一番だとみんなに言われている。
私達はこっそり店に近づいて中を覗くと、顔を真っ赤にしたラリアさんに、私のよく知る赤い髪でほっそりとした男の人が叱られている。考えるまでもなくアゼルだ。
「すみません、すみません」
「謝っている暇があるのなら、早く商品を並びかえなさい! このノロマ!」
「はっ、はい~!」
アゼルは大あわてで商品を並びかえていくが、私から見てもものすごく手際が悪い。
本人は大真面目で全力でやっているのだが、絶望的に不器用なのだ。
「ああっ、もう! モタモタモタモタしているんじゃあない! もう! こっちは私がやっておくから、そこの木箱を裏に運んでおきな!」
ラリアさんはついに我慢できなくなったようで、アゼルに別の指示を出して、自分で商品の並びかえを手早く行っていく。
そして、そんなラリアさんを横目で見ながら、アゼルは言われたとおり、木箱を持ち上げて運ぼうとする。
「あっ!」
私は思わず声を上げてしまった。
なんとか木箱を持ち上げたアゼルだったが、木箱が重かったのか、ふらふらと頼りない足取りで歩いたかと思うと、すぐにたおれて木箱の中身を床にぶちまけてしまう。
「ああっ! 何やっているのよ、この役立たず!」
「すみません、すみません」
アゼルはひたすら謝り、散らばってしまった中身を集めるが、やっぱりその手際も悪い。
その姿を見て、私のとなりにいるネイがあきれた様にため息をつき、
「ねぇ、アミィ。今からでも遅くないから、あの人は止めた方がいいんじゃあないの?」
そんな失礼なことを言う。
「ネイちゃん、それは言い過ぎだよ」
リリーナはそう言って止めてくれるが、リリーナもアゼルに対して良い感情は持っていないようだった。
「何を言っているのよ、ネイ。私はますます惚れ直したもん!」
「えっ? 本気で言っているの?」
「アミィちゃん、本当に?」
おどろく二人に、私は得意げに笑ってみせる。
そう、こんなことで揺らいでしまう程、私の気持ちは弱くないのだ!
「アゼルはたしかに不器用だけれど、一生懸命に努力をしているわ。それは、将来、私と料理店を経営する準備を頑張ってくれているという事だもん。だから私は嬉しいの。私のために努力をしてくれているんだから!」
私はそう断言すると、「ほらっ、ここにいたら邪魔になるから、私達は帰りましょう」と言って、二人の手を引っ張って雑貨屋さんに背中を向ける。
「まったくもう。『恋は盲目』ってやつね」
「もう! 駄目だってば、ネイちゃん」
二人の言葉を聞きながらも、私は笑顔を浮かべていた。
だって、嬉しいと思う気持ちは本当だもん!
……でも、それは半分だけ。もう半分は別の気持ちだった。
(アゼルったら、まったく……)
その気持ちは腹立たしさ。
けれど、アゼルが情けないから私は怒っているわけじゃあない。そんなわけがない!
だって私は知っている。アゼルがすごい男の人なんだって。
でも、アゼルはそれを人に見せようとはしないんだもの。それが私には納得がいかない。
秘密だから……、けっして話さないと約束したから、私はだれにもその事を言えない。それがものすごく悔しいんだ!
そんな気持ちをおさえて、私は笑顔でリリーナとネイといっしょに家に帰る。
絶対に後でアゼルにお説教をしようと考えていたのは、もちろん内緒だった。