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絶世解歌論戦記  作者: 稲見春晴
5/6

#5 女神に捧ぐ花筐

やっと物語が進みだす感じです。

ここまで読んでくださった皆様、展開が遅くなってしまい重ね重ね申し訳ありません。

「……大体あんた、何なのよ。あんたも異能者?」

「失礼。俺は愛妻白花。関実大附属高校所属。君と同じ1年生だよ」

 関東実正大学。東京の国立大の中でもかなり有名なところだ。その附属高校となれば、目指す者は多い。関実附属受験は、権力だけで勝ち上がれる戦いではないことくらい、受ける気にすらなれなかった和梅にも分かっていた。


 アヅマという苗字には聞き覚えがあった。確か、最近生まれた歌象家だ。珍しく実力主義らしい目の前の異能者の少年に少しだけ警戒を解くと、シラカと名乗った少年はくすくすと笑った。

「そんなに怖がらないで、和梅。確かに俺は異能持ちだけど、君に危害は加えない」

「……なんで私の名前知ってんのよ」

「さっきも言っただろう?俺は君のお父さんの企みを止めたいんだ。君自身についてもある程度は調べてある」

「怖」

 さらっとストーキングの報告をされて寒気を覚える。眉根を寄せつつも、和梅は白花に問いかける。

「それで、父さんが何したってのよ」

「それを説明する前に、一つお願いがあるんだけど」

白花は和梅の問いには答えず、代わりにこのような案を提示した。

「俺と一戦、〈異能戦〉をしてくれないかな?」

「……は?」


 異能者同士が自身の異能を駆使して勝敗を競う「異能戦」。異能者のみに許されたこの競技は世界中で行われており、人間離れした絵面が人気のスポーツだ。

 花鳥風月の表現が美しい日本文学の文異能者は特にモーションが華やかで目立ち、プロとして活動する者の中でも人気の選手は多い。

 わざわざ異能を展開しておびき寄せ、いきなり話しかけた挙句唐突に決闘を申し込むなんて。和梅は面食らってしまった。友達がいない彼女にも、この少年が色々と距離の詰め方を間違えているのは分かる。


 和梅の中に当初抱いていた警戒心とはまた違った類のそれが生まれつつあるのを知ってか知らずか、白花は「ついてきて」と踵を返す。突っ立っていても埒が明かないことを悟り、和梅は白花に導かれるがまま小道をさらに奥へと進んでいった。


 風化して今にも崩れ落ちてしまいそうな滑り台。鎖が錆びきって、座るのも怖いブランコ。世界から切り取られたまま忘れ去られたかのような小さな公園は、暗碧の空から降る黒に染められて、気味が悪いどころではない。

「初デートにはおあつらえ向きとは言えないけど」

広場の中心に立ち、漸く白花は和梅の方へと振り返る。

「あんたとデートしてるつもりはないんだけど」

「冗談だよ」

 にこっと笑って白花は白花はゆるりと右手を上げた。地面から生えてきた無数の白百合が広場を埋め尽くし、和梅を取り囲む。

「不意打ちは卑怯じゃない?」

 右腕を振って白梅の枝を飛ばす。切っ先の尖った枝は飛ばされた勢いのまま百合の茎を根元から切り取り去り、白花の前までできた小道を和梅は駆けだした。


 異能者同士の高尚なお遊びとしか思っていなかった異能戦。父以外の異能者との戦闘は、和梅にとっては初めての体験である。

「異能者」と関わることも馴れあう気もない和梅だったが、父には異能の使い方だけは厳しく教え込まれていた。実戦経験こそないが、和梅は自身の異能について熟知している自信はあった。

 走りながらクナイの如く飛ばした梅の枝が、百合を集めたブーケに弾かれ届かない。比較的得意な近接戦に持ち込もうと、何もない空間から鉄パイプほどの長さで少々太めの枝を出して握りしめる。切っ先を相手に向け、振りかぶった勢いのまま白花の整った顔面を殴りつけようとするも、足元を白い花吹雪に掬われてしまい、その隙にひょいと屈んで避けられる。

 それならと和梅は枝を捨て、今は自分の胸ほどの高さになった白花の顎めがけて蹴りを繰り出そうとする。しかし白花は真っ白な小花をベールのように降らせて和梅を囲み、視界を遮断したところで和梅から見て左後方、自身から見て右前方へと軽々と飛びのいて攻撃を避け、背後に回りざまに彩り鮮やかな花輪を取り出し、後ろから和梅の髪に飾ってしまった。


「……バカにしてんの?」

 花の嵐が止んだところでもう相手に戦意はないと察し、和梅は戦闘態勢を解く。時間にして一分あるかないか。相手の圧倒的な強さに全くといっていいほど歯が立たず、和梅はキッと白花を睨みつけた。異能に興味がないとはいえ、ある程度は、自分は強いと自負していた。その自信をいともたやすくへし折られてしまったら流石に悔しい。

「まさか。今の君の状態を考えたら十分以上に強すぎて驚いているくらいさ」

「あんたに私の何が分かんのよ」

微笑む白花に和梅はぶっきらぼうに返す。そう拗ねないでとなだめつつ、白花は和梅をまっすぐに見つめた。

「君はまだ、継承歌のことを十分に理解していない」

「え」

 思いがけない台詞に、和梅は言葉を失う。ふと思い出して、和梅は右の掌を顔の前にかざした。父の異能によってつけられた傷を認め、「まさか」と呟く。


 皆既月食まで残り二カ月。歌を巡る少年少女たちの戦いの物語が、今、始まる。

今回もお読みいただきありがとうございます。

登場人物の服装について、どこかでちゃんと落とし込めればと思っています。

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