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お題シリーズ4

墓参りする勇者

作者: リィズ・ブランディシュカ



 雨が降り出しそうな曇りの日。


 どんよりとした空の下で、その勇者は墓参りをするために歩いていた。


 白い花を持って、墓地へと向かう。


 そこは広くて大きな墓地だが、勇者が向かったのは小さなお墓の前だった。


 他のお墓よりも小さくて、目立たない区画にある。


 勇者は墓の前に腰を下ろして語り掛けた。


「あいかわらず寂しい場所にあるな。でもお前は、目立つのが好きじゃなかったもんな」


 そういって、手に持っていた花を墓の前に置いた。


「世界は平和になったよ。魔王を倒した後、人とあやつられていた魔族達は手をとりあって、復興に励んだ。何もかもうまくいっているというわけじゃないけど、皆頑張ってるよ」


 語り掛ける勇者の表情は穏やかだったが、徐々に悲しみの色を帯び始めた。


「あの戦いの後、皆はそれぞれの道を歩んでる。画家になりたくて修行してる奴もいれば、食堂を開いている奴もいる。お花屋さんなんてものを始めた奴もいるんだ。ああ、この花もそこの店で買って来たんだ」


 勇者は、墓に添えられた白い花のふちを、そっとなでた。


「この白い花は、一番お前に似合うと思って選んだ。お前はいつも真っ白で純粋だっただろ?」


 語り掛ける勇者の言葉に嗚咽がまじり始める。


 雨も降らないのに、ぽつぽつとちいさな水のシミが地面についた。


「なんで、なんで死んじまったんだ。あともう少しだっただろ。もうちょっとで平和な世界を見れたのに! あんなにも見たがっていたじゃないか!」


 勇者は、自分の心の中の感情をぶつけるように拳を強く握りしめた。


 そして、強く地面を一回なぐりつける。


「最後のボスの攻撃に気が付いていたのは俺とお前だけだった。あの時一番前に出ていたのは俺だった。俺が死ぬはずだったのに!! 俺は皆の為なら死んでもいいって思っていたんだ!!」


 ひとしきり嗚咽をもらした勇者は立ち上がった。


 その瞳には、もう涙はなかった。


「ごめんな。急にこんな風になって。終わらないな、まだ戦いは。皆はとっくに前に進んでるってのに」


 勇者はその場から去っていく。


 お墓に背を向けて。


 雨が降り出す。


 その雨は徐々に強くなって、勇者の姿をすぐにかきけしていった。


 雨のカーテンに遮られる前の、勇者のその背中は今にも消え入りそうだった。


 添えられた花がその時、雨雫に揺られて、一枚の花弁を散らしていった。



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