病室にて
目覚ましの音で目が覚めた。六時、早くお弁当を作らなきゃ。
私の名前は竹内愛理夫の名前は、隆。私は、
二十八歳、隆は、三十二歳、結婚二年目で、子供はいない。 隆は、市役所に勤めている。
私は、自宅でピアノ教室を、開いている。
いる。
今日も、慌ただしい。
「隆~起きて~」、「おはよう。」と言いな
がら、起きてきた。
私は、「トースト、ハムエッグ、サラダ、コーヒーを、用意した。」彼は、食べながら、スマホで、今日のニュースをチェックする。
私は、彼にお弁当を渡す。
「ありがとう。」 「いってらっしゃい。」
隆は、優しく、穏やかな人で、私のわがままを、聞いてくれる。
春になり、桜が見た見たいと言えば「「まだ早いよ。」と言うのに 「見たいの、行って見たいの。」
行ってみると、案の定、桜は、まだ開花していなかった。
いやだとだだをこねる。
こんな感じだ。
「愛里は、せっかちだね。」
と微笑んでくれる。
料理となれば、ハンバーグは、こがし、煮物は、味が薄く、味噌汁は、味が濃くなってしまうのに、隆は、もくもくと食べてくれる。
さすがに美味しいとは、言わないが。
そんな優しい彼は、背も高く、イケメンだ。
「私の事好き?」と聞くと、照れながら、「好きだよ。」
私には、もったいない夫だ。
私達には、共通の趣味がある。音楽だ。 隆は、バンドでキーボードを、探していた。そんな時、私のピアノが、聞こえてきたらしい。それがきっかけで付き合うようになった。
私かキーボードを担当することになった。
ボーカルは、隆、ドラムは、板野さん、お世辞にもイケメンと言えないが、明るくて、冗談を言ってなごませてくれる。エレキは、佐伯さん。少し天然な所があるが好青年だ。
ベースは、山本さん、物静かな人だ。皆隆の大学からの友人だ。私達は、音楽が好きだった。流行りの曲をカバーしたり隆のオリジナルを、演奏したりする。
四人がそろう事は、めったにない。揃ったときは、私が、手作りのクッキーなど、差し入れる。
板野さんは高校教師、佐伯さんは、NTT、山本さんは、年金機構に、勤めている。
真面目な人達だ。
隆と私以外は、独身だ。
板野さんが、私に、女の子を紹介してと、冗談めかして言ったりする。
私は、任しといてと笑いながら、言う。
そんなある日、仕事を終え帰宅していると、隆の携帯が鳴った。
高校時代の、友人の清原からだった。
「久し振りだな。」と言うと、「ああそうだな。お前、学生時代、付き合ってた、清美ちゃん覚えているだろう。」 「もちろん覚えているよ。」「彼女今、入院してるらしい。白血病だそうだ、見舞に行ってやれ。」
俺と、清美とは、高校のとき付き合ってた。
彼女は、いつも、髪をポニーテールにして、くりくりの目が印象的だった。
あの頃から、体育の日は、休んでいた。
色が白く、か細かった。
俺は、清美の見舞に行った。
病室に入ると、清美は、本を読んでいた。
あの頃から比べて、いっそう顔が、白くなっていた。
「お久しぶり。」と言った。
清美は、俺にきずいて驚いていた。
「隆くん? 」 「そうだよ。」 と、微笑んだ。
「本当に久し振りね。
覚えてくれてたの?」
「忘れやしないさ。」
果物かごをテーブルの、上に置いた。
「ありがとう。」
「隆君、結婚してるの?」「してるよ。」
「そうかぁ、私は、してないの。」
「 あの頃隆君は、真面目だったけど、髪だけは、校則違反だったよね。」清美は、笑った。
「少しかっこつけてたかもな。」と笑った。
「私は、隆君の優しさや、爽やかな笑顔、ギターの上手なところ、サッカー部で活躍してる姿に、憧れてたの。
私は、体が弱くて、スポーツ出来なかったから、隆君のこと窓から眺めていたの。夏の暑い中、サッカーをして、汗を拭うしぐさにときめいていたの。」
清美は、まるで昨日のように、話した。
俺も昔の事を思い出した。
「 可愛いくて、おとなしく、控えめな君は、皆のマドンナだった。
俺が告白して、okをもらった時は、友人達に羨ましがられたな。
図書館で、勉強したり、公園で、将来の夢を語り合ったりしたね。
君は、Y大へ、進学して、俺は、K大へ、行ったんだ。そして、すれ違いが続き、いつのまにか、消滅したんだったね」
昔ばなしに花が咲いた。
清美が、唐突に行った。
「私、白血病なの。
もう治らないの。隆君、私が死ぬまで、ときどき、会いに来て。」
隆は、愛里の事を、考えた。
この事を知ると、気分を、そこねるだろう。
しかし、後どれくらい生きられるか分からない清美が不憫だった。
「分かったよ。じゃあまた来るよ。」
そう言って病院を、後にした。
家に着いた。
「ただいま。」
愛里が、「おかえり。」と明るく迎えてくれた。
「御飯出きてるよ。」 「今日は、何?」
「唐揚げだよ。」 「楽しみだな。」
清美のことは、言わない方がいい
だろう。
ただ見舞に行くだけだ。
愛里、ごめんなと、心で詫びた。
次の日、清美の見舞に、行った。
清美は、嬉しそうに俺を迎えた。
「隆君は、どこで仕事してるの?」
「市役所だよ。」
「そうなんだ、いい所ね。」
「私は、アパレル関係の仕事を、していたの。これでも主任までいったのよ。」
「彼氏とかいなかったの?」
「私、今の今迄誰とも付き合った事ないの。
付き合って下さいって言われた事は、あったけど、お付き合いまでは、いかなかったの。
私は、いつもその人達と隆君を比べてしまうの、隆君としか、付き合った事ないの。
隆君がお見舞いに来てくれた時、飛び上がるぐらい嬉しかった。
病気で苦しくて、辛い事ばかりでふさぎこんでた時だったの。
ずっと好きだった。」
清美は、恥ずかしそうに下を向いた。
そして、「私は、もうすぐ死ぬ。それまで少しの間、私の彼氏になってもらえないかな。」
清美は、目に涙を潤まして言った。
何も言ってやれなかったが、小さくうなずた。
隆は、家に帰って、本当にもう少しなのか。
白血病は、治らないのか。
必死に調べた。
主治医に、相談したいが、肉親でもない俺は、聞ける立場ではない。
身寄りのない清美を最後に看取る人もいないなんて……
次の日、俺は、清美の婚約者として、主治医に、面談を申し出た。
医師は、いぶかしげだったが、話を、してくれた。
「彼女の病気は、急性骨髄性白血病です。
移植しか方法はないのです。しかし、もしドナーが見つかったとしても、抗がん剤治療が必要になる。彼女の体力から考えると、負担が大きすきる。
今のうちに、思い出を、作ってあげたらどうですか。
医師は、言った。
そんな、何もしないで見てるだけなんて……
清美の病室へ、行った。
清美の白い肌が、はかなさを感じる。
「調子は、どう?」
「今日は、楽よ。」嬉しそうに言った。
次の日も次の日も見舞に行った。
ある日、「隆君、将棋知ってる?」
「うん、少しだけどね」
「私に教えてよ。」
「いいよ。今度、将棋盤持ってこよう。」
少女のように、喜ぶ清美は、可愛いかった。
「じゃあまた。」
「もう帰るの」と、寂しげに言った。
帰宅すると、愛里が、深刻な顔をしていた。
「隆、最近変よ、もしかして、浮気してたりして。」
「してないよ、してない。」
愛里に、そう言いながら、自分に、言い聞かせた。
愛里ごめんな。清美に、ほんの少しかたむいて
心で詫びた。
病院に行くことが、楽しみな自分と、罪悪感を抱く自分が入り交じっていた。
病室へ入ると、清美は、どんどん痩せて行った。
清美に、将棋盤と、駒を見せた。
「難しそう、でも私に、できるかな。」
「できるよ。」清美に、駒の並べかたや、動かし方を教えた。
家に帰ると、電気が消えていた。
愛里がいない。
どこに行ったんだろう。
実家に、かけても来てないという。
女友達に片っぱしからあたってみてもいないう。
板野に、相談しよう。
板野がでた。 「愛里がいないんだ」
「愛ちゃんは、俺んちにいるよ。」
「どうしてお前のところにいるんだ。」
「良くそんな口たたけるな!愛ちゃんの心を、傷つけておいて。俺たちは、知ってるんだ。お前が毎日毎日、小林清美さんさんという女性の病院、行っていることを。言い訳は、できないぞ。」
「愛里に変わってくれ。」 「愛ちゃん、変わる?」「うん…」 「愛里、確かに毎日のように、見舞に行っていた。彼女は、白血病なんだそんなに長く生きられないんだ。だから彼氏やくをしていたんだ。決してやましい事は、してうない。誰とも付き合った事もない彼女が不憫だった。分かって欲しい。
「あなたは、優しいから。嘘は、付けない人だから、」
愛里は、泣いていた。
「今から、帰る。」
愛里ありがとう。
板野が、送ってくれた。
「今度愛ちゃんを、泣かせたらただじゃおかないぞ、」少し笑みを浮かべて、帰って行った。
「明日、清美さんのお見舞いに言ってあげなよ、 私は、大丈夫だから。」
愛里は、俺を信じてくれたんだ
愛里に感謝した。
翌日、清美の見舞に、行った。
主治医には、「少しだけなら中庭に出てもいいいですよ。」と言ってくれた。
「ありがとうございます。」
「清美、中庭にでてみないか?」
「いいの?」「先生がいいって言ってくれたよ。」
「嬉しい!」 俺は、清美を車椅子に、乗せ、中庭へ出た。
「外の、空気ってなんておいしいの」清美は、喜んだ。
「隆君、歩いてみたい。」
「大丈夫?」
「うん。」
清美は、歩いた。
「歩けた!」清美は小走りをして、よろけた。
危ないよ。俺は、清美を、車椅子に乗せた
「風が強くなって来たから入ろうか。」
「隆君ありがとう、入ったら、将棋しない?」
「いいよ。」
「じゃあ、将棋しようか。」
清美は、並べ方も、動かし方も、覚えていた。
それどころか戦法も、覚えていた。
「すごいね、どうやって覚えたの?」
「先生が本を貸してくれたの。」
「そうなんだ。」
「面会時間がきたから帰るね。」
清美は、寂しげな顔をした。
家に帰ると、愛里が、「清美さんどうだった?」と、聞いた。
「少し、外の空気を吸えて喜んでいたよ。」
「こんどクッキー焼くから持っていってあげて。」
いつの間にか、清美の事を、二人で話すようになった。
「清美さんまだ若いのに何とかならないの?」
「骨髄移植が必要らしい。見っかっても彼女の
体力じゃ九十九%無理らしいんだ。
「一%に、賭けてみない?
バンドのメンバーも呼んで検査してもらおうよ。」
「愛里ありがとう。」
翌日、皆、集まってくれた。
検査結果板野の骨髄が一致した。
皆喜んだ。
「皆ありがとうな。板野よろしく頼む。」
「任せておけ。」
と、胸をたたいた。
愛里は、来なかったが、清美の為に来なかった彼女の優しさが心にしみた。」
板野が「清美さんのところへ、見舞に行ってやれ。」と言ってくれた。
病室へ入ると、清美は、ニコっとした。
「清美、ドナーが見つかったよ。
「本当?私死なないの?
「ああ死なない、俺が死なせない。」
「明日、先生に合うからな。」
約束どおり医師と、会った。
「先生、お願いします。移植してやって下さい。」 切々と、言った。
医師は、「彼女の体力は、弱っています。移植しても助からないかもしれない。それでもいいんですか。彼女の精神力にかけるしかありません。医師は、辛そうに言った。」
面接が終わり、清美のところへ行った。
「隆くん、私ね、元気になったら、走ってみたい。おもいっきり走りたい。」
隆は、「うん。」と言い、清美の小さな願いを、叶えてやりたかった。
清美は、移植前処置という治療にはいった。
そして、移植が始まった。
どうか成功しますように。俺は、神に祈った。
医師が出て来た。俺たちは、かけ寄った。
「医師は、移植は、終わりました。
清美さんは、これから、グリーンルームに入ります。ここで、抗がん剤治療に、入ります。
愛里が、「成功したらいいね。」と言った。
「そうだね。」
愛里は、下着とタオル、バスタオル、スポーツドリンクを、用意した。
「明日また来る、女でが必要だから。」俺は、心から、愛里の優しさに、感謝した。
次の日、二人は、病院へ行った。
「清美気分は、どうだ。」
「うん。大丈夫、かすれた声で言った。」
「清美さん、私、隆の妻です。清美さんの事は、主人から聞いています。
頑張ってね。」
「奥様、お世話になっています。」
「ゼリーたべる?」
「はい。」
清美は、一口食べて、「美味しい。」と言った。
じゃあ帰るね。愛里は、先に帰った。
二人になって俺は、「頑張れ、走るんだろう」
清美は、微笑んだ。
家に帰ると、愛里は、食事を作って待っていた。
「明日も病院へ行くの?」「うん。」
「ごめんな愛里。」
「いいの、清美さん、大変な時だから。」
愛里がの目が赤かった。
俺は、愛里に辛い思いをさせてきたんだ。
ごめんな。
翌日、愛里が「クッキー焼いたから持っていってあけて。」と手渡した。
かわいい紙袋だった。
「ありがとうな、藍里。
俺は、病院へ、行った。
清美は、顔色が、良かった。
「これ、愛里が焼いたクッキー 食べる?」
「うん。美味しい。」
食欲がでてきたんだな、良くなってる証拠だ。
翌日、愛里が、「イチゴ、持っていってあげて。」
イチゴを持って病院へ、行こうとしたとき、携帯が、鳴った。
「 清美さんの容態が急変しました。」
清美の病院まで走った。
清美は、苦しげだった。 清美は、俺を見ると言った。
「思い切り走りたかったな。」隆くん、彼氏のように、してくれて、ありがとう。」
「清美走るんだろう、走れるんだぞ。」
清美は、虫の息になっていた
医師が、来た。 いろんな機材が、運ばれて来た。
俺は、仲間たちを呼んだ。
皆、駆け付けてくれた。愛里も来た。
「ありがとう。」と言って、息を引き取った。
俺は、泣きたかったがシーツをつかんで、こらえた。
愛里は、泣いていた。
一年後愛里は、は、身ごもった。俺と愛里は、墓参りに、行った。
「清美、来たよ。愛里に子供が、」
「 俺たちの事見守ってくれよな。」
空を見上げた。
澄みきった空が、清美に似合っていた。
完 美緒