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神は選択を弄ぶ  作者: 胡蝶花 旭
33/47

05_正義の在処(Ⅳ)

※グロ表現等があります。

苦手な方は飛ばしてください。


後日、再度の休暇のタイミングで、サンダリオは一人森に入った。

日も高く雲も少ない日だというのに、鬱蒼とした森はあちこちに暗闇を落としている。


森の奥に入れば入るほどに、聞こえてくる生き物の息遣い。

サンダリオはそっと目を細めた。


途端、頭上から音もなく降ってきた何かを後ろに飛び退き避ける。



襲い掛かってきたのは、猿に似た狂暴種。



背後から、もう一匹。

その鋭いその牙で、サンダリオの首元を正確に狙ってくる。


サンダリオは上半身を逸らし、目の前に飛び込んできた猿の頭を鷲掴みにして地面に叩きつけた。

そして、地面に叩きつけたままの手を軸にして、真正面から向かってきたもう一匹を勢いをつけて蹴り飛ばした。


サンダリオの下で泡を吹いている猿と、蹴り飛ばした先の木に衝突して意識を失っている猿。

そいつらから感じる心音や息遣いから、意識がないことは明らかだった。


それを確認すると、サンダリオは森の中をじろりと一瞥した。


即座に、がさりと物音が遠のいていく。

様子見していた狂暴種達がサンダリオとの力の差を感じて引いたのだ。


一息吐くと、サンダリオは再び歩き始めた。



森の中に佇む家は、古い木造の2階建ての山小屋だった。


二人、三人で生活するのに丁度良さそうな大きさ。

けれど、見えている木材はどれも傷んでいて、隙間風も多そうな風体だ。

入口は、歪んで半開きになっており、風に吹かれるとぎぃぎぃと気味の悪い音を奏でている。


家の周りに規制線は張られているが、見張りはいない。

サンダリオはそっと規制線を潜り、迷いなく山小屋のドアを開けた。



がらんとした室内に置かれていたのは、イスとテーブル、それから備え付けの棚がいくつか。

室内の殆どが押収品として回収されているため、物は残っていない。

床には、ドアの隙間や割れた窓から入り込んだのであろう枯れ葉や枝が散乱していて、お世辞にも人の住める様な環境ではないと言わざる負えない。


サンダリオは部屋の中央まで来るとそっと目を閉じた。


休暇に入る前に閲覧してきた事件記録に載っていた写真を、一枚一枚思い出し、当時の光景を頭の中で組み立て始めた。



当時は山小屋の窓ガラスも割れていなかった。

外の見た目に反して、部屋の中はそれなりに綺麗にされていた。

棚には食器が並んでいた。


キッチンの方にはフライパンや鍋が吊るされている。

部屋の隅の方に、缶詰や米や小麦が適当に並べられていて……。


リビングに位置する部屋を見れば、床にカーペットが敷かれていて、淡いランプの明かりが部屋を照らしていた。


机の上にはマグカップ。中身は見えない。

近くに備え付けられた低い棚の上には、小さな小鳥の置物が置いてある。


奥の部屋へサンダリオは足を進めた。


鍵のついた分厚い扉。


今はもう鍵はかかっていない。

ドアノブを捻れば、扉は簡単にその口を開けた。


ひやりとした空気が足元をさらう。

ここが、フィデルの食料保管庫だった場所。



殺した人間を保管していた場所。



腐らない様に内臓は取り除かれ、解体され、まるで精肉店の様に部位ごとに棚に並べられた死体達。

不思議と床に血は落ちておらず、棚に並べられたその肉も、丁寧に血抜きがされていることが伺えた。

死体の数はそれなりにある。



つまり、ここには、長くいるつもりだったのか?



表層に出てきた疑問をサンダリオは眺め、新たな問いをその横に置いた。




フィデルは、ここで何かを待っていたのか?




サンダリオはふっと短く息を吐き、目を覚ますように瞬きを繰り返すと、ようやく顔を上げた。



そこには、何も無い。

食糧庫の沢山の棚の上には、何も無い。

うっすらと埃が積もって、奇妙な臭いが鼻を掠める。

空気は明らかに淀んでいる。


これが現実、今の姿。


そっと保管庫から出て、サンダリオは深く息を吐いて上を見上げた。



……疲れた。



事件資料を全て頭の中で再生し、当時と同じ状況を疑似的に見た。

それは記憶力と察知能力に長けたサンダリオだからこそできることだが、如何せん必要以上に精神力と集中力を使う。


少し休憩だ、とサンダリオはイスに腰かけた。

勿論、壊れないかを触って確認してから。


ぼんやりと天井を見上げる。

資料には無かった天井の光景。


二階まで吹き抜けになっている広い天井。

二階に差し掛かる所で、一本の大きな梁が横切り、中央の大黒柱と交差している。


幼い頃からレンガや石壁でしか生活してこなかったサンダリオには、あまり馴染みのない造りではあったが、木造家屋は本で読んだことがあったため、折角ならばとサンダリオはまじまじと観察を始めた。


本の中だけでは分からない、目から入ってくる情報。

それがどれだけ有意義なことか。


サンダリオはひと時の休息を、こんな場所で噛みしめて、確かに微笑んだ。




不意に、サンダリオの視線が止まる。


「……梁に、跡?」


大きく横たわる梁、その一部に擦れたような跡が付いているのが見えたのだ。


一つ、二つ、三つ。

ぐるりと、梁を回るように付けられた跡。


何か吊るしでもしたのか。

それにしては、木が削られ過ぎている様な気がするが……。



何か、見落としている様な気がする。



サンダリオはもう一度、部屋の中を見渡した。



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