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神は選択を弄ぶ  作者: 胡蝶花 旭
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05_正義の在処(Ⅱ)

サンダリオ達の予想通り、その食人鬼はこの刑務所に収監されることになった。

そして、その担当にはサンダリオが選ばれた。


「食われないように注意しろよ」


そんな軽口を同僚達から受けながら、サンダリオは死刑囚が収監されている監房へと足を進めた。

いくつものセキュリティを抜け、目的の監房の前までやってきた。


檻の中で静かに座っている茶と白の混じり短髪の男を見下ろすと、男はそっと視線をサンダリオに向け、深い青の目を微かに見開いた。


「死刑囚、フィデル・コルティスだな」


サンダリオの言葉に何も答えず、ただ見上げているフィデルに、サンダリオは口を大きく開けた。


「死刑囚フィデル・コルティス!!今すぐに返事をしろ!!」


「え、あ、おう」


びくりと肩を震わせたフィデルは、慌てて返事を返した。

しかし、サンダリオの表情は鋭いままだ。


「返事は、はい、か、いいえ、で簡潔に大きな声で答えろ!お前は死刑囚フィデル・コルティスか?!」


「は、はい!」


「もう一度!」


「はい!」


慌てたままではあったが、大声で返答を返したフィデルに、サンダリオは一つ頷いた。


「よろしい。

 私はお前の死刑までの担当官、サンダリオ・ファジャだ。

 最期の日に、お前の付き添いとして執行場まで同行する」


死刑囚の担当官は看守の中の誰かが担当する。

日に数度ある食事、風呂などの見張り、そして死刑執行場までの付き添い、それが主な仕事となる。

食事や風呂は、自殺や逃走を図る者が多いため、厳重に監視するためだ。


じっとサンダリオを見つめていたフィデルは、鉄格子の前までのたりのたりと歩いてきた。

そして、鉄格子をがしりと掴むと、瞳孔の開いた瞳でサンダリオの黒い瞳を見上げた。



「あんたが、俺の担当官?本当に?」



「異議申し立てでもあるのか?」


サンダリオの言葉に、ぶんぶんと首を横に振ったフィデルは酷く楽し気に笑顔を浮かべた。


「あんたが良い」


瞳いっぱいに見上げてくるフィデルに、サンダリオは戸惑いを隠しきれず片眉を上げた。



なんだ、こいつは。



通常、死刑囚は担当官が来ると敵意をむき出しにしたり、絶望に打ちひしがれたりするものだ。

それが何故こんなにも楽し気に見上げてくるのか。


気味の悪い感覚に苛まれながらも、サンダリオは落ち着くためにふっと息を吐いた。


看守として、ここで取り乱すわけにはいかない。

いつも通り、規則に従い、正義を貫くだけだ。



看守の鬼とまで呼ばれる自分を思い出し、サンダリオは再度フィデルを見やった。



「では、刑執行日まで、しっかりと罪を悔い改めるように」




***




食人鬼、最悪の異端児とまで新聞に書かれたフィデルだが、刑務所の中では比較的静かに過ごしていた。

出された食事も残さず食べ、怒り狂ったり泣き叫ぶこともせず、与えられた仕事を淡々とこなし、反乱の意志も全く見えない。


そして、サンダリオが来ると、あからさまに楽し気に迎え入れる。


事前情報では、裁判の間に監視官を殴りつけてその肉を噛み千切ったという内容があった。

だからこそ、制圧を得意とするサンダリオが担当官に指名された訳だが、今のところその兆候は見られない。


不可思議な男だ。


今は風呂の時間で、サンダリオはフィデルの風呂を待っているところだ。

半透明の膜の向こう側で頭を洗っているシルエットがうっすらと見える。

自殺や逃走防止のために監視が必要なのは分かっているのだが、人の風呂を覗き見しなけらばならないこの時間はどうにもやるせない。


「なぁ、サンダリオ」


唐突なフィデルの問いかけに、サンダリオは眉間にしわを寄せた。


「呼び捨てにするな。何度言ったら分かる」


「ごめんごめん。サンダリオさん」


くつくつと笑うフィデルとのこのやり取りは既に片手を超えている。

何度言っても次の時はまた呼び捨てにする。


教育するまでも無いと思っていたが、そろそろ必要だろうか。


『教育』とは、行き過ぎた行動を取る囚人に与える何かしらの措置だ。

追加の仕事であったり、走らせることであったり、食事の軽減であったり、時には暴力であったり。

囚人を従わせるために行われることであり、この国の法律で許可されているものだ。


サンダリオがそんなことを考えているとは思いもしていないフィデルは、楽し気に言葉を続けた。


「サンダリオさんは、なんで看守になったんだ?」


囚人との会話に置いて制限は無い。

人となりを知り、導くことで更生の足がかりとなる可能性も拭えないからだ。


フィデルは死刑囚のため、会話する必要もそう無いのだが、サンダリオは何度かに一回はそれに応じるようにしている。

全てに返さなければ関係悪化の可能性が跳ね上がり、全てに返せば近くに成りすぎる。


サンダリオは、フィデルの問いかけを一度頭の中で反芻してから口を開いた。


「正義を貫くためだ」


半透明の膜の向こう側のシルエットがぴたりと動きを止めた。


「正義?……へぇ、そう。正義か」


動き出したシルエットが頭から湯を被った。

フィデルは言葉を続ける。


「その正義って、誰かに教わったのか?」



「……母の遺言だ。正義を貫けと」




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