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神は選択を弄ぶ  作者: 胡蝶花 旭
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04_ガラクタの心(XII)


深部の北。

深部の中ではシェーラ達がいる南側に似た比較的穏やかな場所であるという認識が強い。

けれど、その一階層下には、捨てられた場所と似た空気が漂う場所がある。

北の人間の奴隷達が住む場所。


それが、深部の北の内情だ。


コーダはそれを知っているが、ノアは知らない。

けれど、ここに着くなり、ノアはじっと地面を見つめて、この下だと小さく呟いた。


「狐は生きているのか?」


「分からない。でも、茜がこの下に行ったのは分かる」



ノアは様々な感知を駆使して地下への入口を探していたが、どうにも良い入り口は見つからないようだった。


「どうする?もうすぐ夜が明けるぞ」


白け始めた空の色に気づいたコーダがそう問いかけると、ノアは数秒考えた後、コーダを見上げた。

その瞳に先ほどまで見えていた迷いは無い。


「一番、最短で行こう」


「……最短?」


嫌な胸騒ぎにコーダは少し息を飲んだが、ノアは特に気にした様子もなく、すたすたと前を歩き出してしまった。

慌てて追いかけて、何をするつもりかと問いかけたが、ノアは止まることなく人気の無い裏路地まで行くと、ふっと笑った。


「こうする」


ノアが手を向けると、音もなく、二人分程の穴がぽっかりと空いた。

何が起きたのか理解できないままコーダはノアを見るが、ノアは穴の中を覗いて様子を伺ったままこちらを一瞥もしない。


「何を、したんだ?」


「空間魔術で地面を異空間に放り込んだんだ」


ノアの背後で地面を抉った元であろう空間魔術が、今さっき抉った地面の石達を吐き出していた。


空間魔術を使う仲間はいるが、ここまで手荒な使い方をしている奴は初めて見た。

下手をしたら、これだけで人間を真っ二つに出来るのではないか。


そんなことを考えてしまうと、コーダは何と言葉を返せば良いか分からなくなってしまい、乾いた笑いしか浮かべることが出来なかった。


「降りるよ」


ノアは空いた穴から中に身体を滑り込ませた。

現実逃避もほどほどにと、コーダは頬を叩き、ノアの後を追う様に地面の下へ飛び込んだ。



たった一枚の石に隔たれた上下、けれど空気は全く違う。

捨てられた場所と同じ、酒と薬と腐敗の臭い。

空へ抜ける穴が無い分、あの場所より臭いは劣悪だ。


事前に知識があったからコーダは噂通りだと鼻を覆っただけだったが、ノアは深々と眉間に皺を寄せた。


「こんなところに……」


ぼそりと呟いた声に感じた怒気は、一瞬で空気をひりつかせた。


「あまり殺気立つな。誰かに見つかるぞ」


幸い、降りた場所には誰もいなかったが、道のど真ん中であることに変わりはない。

無闇に音や気配を立てれば、すぐに武器を持った連中に囲まれるだろう。


冷静なコーダの言葉に、ふっと息を吐いたノアは、そっと魔術を展開させた。

今まで使用していた物とは違い、かなり小規模なものだ。


ノアの手元に浮かぶ魔法陣を見つめながら、コーダはその魔術は何かと問いかけた。

ノアはコーダに一瞥もしなかったが、口だけは開いた。


「形を探ってる」

「形?」

「狐の形をした物を探してる」


ここに来るまでに使っていた魔術は、茜の匂いとショウの匂い、そしてここまで続く複数の足跡を辿辿るもの。


しかし、それらの痕跡はこの中ではほとんど役に立たない。

匂いも充満してかき消され、足跡も人通りが多い場所では踏み荒らされてしまう。


だからこそ、形を探る。


茜と同じ大きさの狐が何体もいることはないだろうから。



ふっと、ノアの手元に浮かんでいた魔法陣が消えた。


「見つけたか?」


「この階層と一つ下にはいない。二つ下に下がろう」


ノアはまた地面に手を向け、空間魔術を展開させた。

音もなく空いた穴にノアは迷いなく飛び込み、コーダは二回目でもまだ慣れないと苦笑しつつもその後を追った。




二つ下の階層まで下がった所で、ノアははっと顔を上げた。


探知魔術に狐の形が引っ掛かったのだ。


そこにいる。

ぐったりと横たわり、今にも止まりそうな程、鼓動は弱弱しい。

外傷は無いようだが、危険な状態であることに変わりはない。


急がないと。


ノアが走り出した瞬間、コーダがその腕を掴んだ。

驚いて腕を振りほどこうとするが、コーダの手は離れない。


「なんだ?!」

「なんだじゃない。見つけたのか?」


こくりと頷いて見せれば、コーダは手を離さずに言葉を続けた。


「それなら、尚更慎重に行くぞ。

 お前の目的がバレれば、茜を殺される可能性だって出てくる。

 なるべく見つからずにそこまで辿り着く、それが一番最善だ。

 違うか?」


コーダの弁は最もだ。

ノアはぐっと唇を噛んで、分かったと了承を伝えた。


確かに、茜を殺されたら、元も子もない。

慎重に行動するのが、一番得策だろう。


コーダの手がノアの腕から離れた。

ノアは軽く手首を回し、そしてコーダを真っすぐに見上げた。




「僕は、それでも急ぎたい」




え、とコーダが口にする間もなく、ノアの足元に巨大な魔法陣が複数浮かび上がった。

コーダにも、それは見覚えがある。



爆発系の魔術。



ぎょっと顔を歪めるのが早いか、いくつもの爆発が四方から劈いた。




***




「爆発で敵の意識を向けさせて、その間に俺達は透明化魔法をかけて目的地まで行くなら、初めからそう言ってくれないか?なぁ?」


目の前を走るノアにコーダは呆れ顔を向けたが、ノアは全く振り返りもせずに口を開いた。


「急ぎたいと言っただろう?」


「まぁ、そうなんだけどよ……」


一言くらい言う時間はあっただろうに。

そう言葉を漏らして、コーダは深々とため息を吐いた。


ノアの透明化の魔術でコーダもノアも今は誰にも視認されていない。

ノアがかけた魔術のため、お互いは視認出来て連絡は問題無くできる。

しかし声は周りに聞こえるため、近くに人が来た時は注意が必要だ。


しばらく走っていると、不意にノアが足を止めた。

壁にすり付き、そっと曲がり角の奥を覗くと、コーダに手招きする。


「あの部屋だ」


「……見張りがいるな」


外に武装した男が二人立っている。

重厚そうな扉を鑑みるに、中は宝物庫だろうか。


けれど、どうして狐を宝物庫へ?


コーダは思考を廻らせつつ、宝物庫へと視線を向ける。


「部屋の中の様子は?」


「……生き物が沢山いる。希少種ばかりだ」


あぁ、成程。

宝物庫、には違いない。

違いないが、その対象が生き物であることにコーダの眉間に皺が寄った。


「……あの部屋にどうやって、入……って、え?」


視線を下ろした先に、先ほどまでいたノアがいつの間にかいなくなっていることに気が付いて、コーダははっと宝物庫を見た。


そこには、美しい回し蹴りを決めているノアの姿があった。

既にもう一人は横たわり泡を吹いていて、容赦なく殴ったのだろうことが伺えた。


正直、自分がここにいる意味が何一つ無く、空しさでため息を漏らしつつも、コーダは見張りの一人の懐を探っているノアに近づいた。


「ノア、何を探してるんだ?」


「この部屋の鍵。こいつ、持ってないな……」


ぽいとノアに捨てられた男を一瞥し、コーダは首を傾げた。


「空間魔術で扉を消せば良いんじゃないか?」


「あ」


顔を上げたノアは、それだ、と、今度は意気揚々と扉へと近づいて行った。


ここまで荒事ばかりで進んできたというのに、変なところで律儀な奴だ。

コーダは目の前で空間魔法を使用するノアを見つめながら、先ほどとは違う苦笑の類のため息を吐いた。




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