クロVSトロール
激しい振動と共に、轟音が響く。大きな体躯から放たれる一撃一撃が、クロを追い詰めていく。
「動きが大きい分、何とかかわしきることができるけど、当たるとまずいね、これは。」
クロはトロールの攻撃を何とかかわし、応戦していた。
クロは先程から何度かグラビダンをトロールに当ててはいるが、トロールの速度や力は全然落ちる気配がなかった。
試しにパンチやキックを入れたが、全然効いてる気配がなく、攻めあぐねていた。
逆に、一撃をまともに喰らえば戦闘不能になるおそれがあるため、ギリギリの闘いを強いられている状況であった。
それでもクロは冷静に相手の攻撃を見極め、回避し、グラビダンを撃ち込んでいた。
「参ったね、これは。何回か当ててはいるんだけど、無理やり動かしてもこのスピードは厄介だよ。」
トロールはクロのグラビダンを受けても、無理やり力で重力の影響を打ち消していた。
しかし、とクロは考える。
今のところ、5回グラビダンを当てた。そして、心做しかトロールも僕の技が当たらないような立ち回りをしている。ということは、少なからず影響が出始めているに違いない。
ならば、とクロは行動に移す。
今、こちらが無理をしない限り、状況は何も変わらない。それなら、少しリスクを負ってでも、技を当てる方が得策だ。
あと何回当てれば良いか分からないけれど、効果が出るまで当てればいいだけのこと。
クロは意を決して、接近戦を挑むべく、トロールとの間合いを詰めた。
トロールもクロの動きを察したのか、更に攻撃を強めた。
降り注ぐ弾丸のような拳をギリギリのところで回避し、牽制のために蹴りやパンチを入れつつ、クロはグラビダンを1回、2回、3回と当てた。
何とか、あと2回。このまま一気にー。
その時だった。
「グオォォォォォオオオオ!!!!!」
怒号と共に放たれたトロールの一撃がクロを捕えた。
拳が当たる瞬間、咄嗟に急所を回避するべく、左腕と左足でガードを試みるが、為す術なく吹き飛ばされた。
しくじった。油断した。クロは心の中で考える。倒れ込み、後悔するが、その眼はトロールをしっかりと見据えていた。
そして、殴り飛ばされる直前、トロールにカウンターの要領でグラビダンを当てていたのだ。
「ハァ…ハァ…ハァ…グオォォォォォオオオオ!!!!!」
そして、クロを殴り飛ばしたトロールに疲弊の色が見える。クロはそれを見逃さなかった。
ほとんど動かない左足を引き摺りながら、クロは立ち上がり、トロールへと歩を進める。
トロールもグラビダンの影響がある中、クロにとどめを刺すため、突撃する。
大きく振り回されたトロールの拳に対し、クロは避けることなく、右手を前に構える。
「グオォォォォォオオオオ!!!」
「グラビダン!!!」
轟音とともに、トロールの一撃を喰らったクロの体が吹き飛び、壁に激突する。
そして、グラビダンを喰らったトロールは地面に突っ伏して身動きが取れなくなっていた。
唸り声を上げながら、付与された重力に抗うトロールの前に、ボロボロのクロが立ちはだかる。トロールの拳を2度、モロに喰らい、立つこともままならない状態になりながら、それでも勝機を伺い続け、動けなくなったトロールを眼下に見下ろす。
「危なかったよ。得意だと思っていた体術も効かなかったから、こんなリスキーなことをするしかなかった。おかげでまた1つ強くなれたよ。ありがとう。」
トロールは呻き声を上げ、必死にもがいていた。抗うために大きな体を力なく動かしながらもがいていた。
クロはそんなトロールに手をかざし、技を発動する。
「グラビゴウ!!!」
クロが放った技は高密度の重力溜りを作り、トロールの上半身を圧迫する。圧に耐えきれなくなったトロールは魔石を残し、消えてしまった。
クロはふぅ、と一息つき壁に持たれながら腰を下ろした。
「ちょっと、やられ過ぎちゃったかな。でも、何とかなってよかったよ。」
クロ対トロールの闘いは、クロの勝利であった。




