ヒーロー
ー翌朝ー
エナはこれまでドッグーの街であったことを話してくれた。
4年前、エナがまだ14歳でスキルに目覚める前、その悪夢は突然やって来た。
街に突然魔王軍最高幹部がやって来たのだ。
その魔王軍最高幹部は街に部下を放ち、攻撃を仕掛けてきたという。
当時、領主を務めていた優しく皆に慕われていた老人は護衛軍を率いて応戦した。
街のために戦える若い者はみな、死力の限りを尽くしたが、力及ばず、街は魔王軍最高幹部のものとなった。
その際、魔王軍に楯突いた護衛軍と領主は殺害され、若い男はみな連れていかれてしまった。
そして興が冷めたのか、魔王軍最高幹部は部下を何名か残し、立ち去ったという。
そして3年経った今現在、女はスキル発動後に、その部下たちに見定められ、部下の住む元領主宅で働くか、街の統治に充てられるかが決まるらしい。
エナは優秀な人材として、街の統治のリーダーをしていた。
そして言われて見れば、エナと共に来た者は女性か老人ばかりであった。
老人は若い者の手を汚させないために、若者は老人を労るために。
状況を説明した上で、エナは再度5人に謝罪した。
「ごめんなさい。その部下の魔物、名前はイタクァと言って、旅人を襲うように命じてきます。失敗すれば、奴のスキルでもある細菌で私たちは…。優しくしていただいたのに、こんなことをして本当にごめんなさい。」
エナは泣きながら土下座し、改めて自分がしたことを悔いていた。
話を聞いたアザーは立ち上がり、クロ、リログ、セイカ、ノベーもそれに続いて立ち上がった。
「エナさん、そいつどこにいる?」
「ちょっと、貴方どこ行くつもり?」
「こんな話聞かされて、黙ってられへんねん、俺らは。」
「子どもの頃に皆で話した夢の一歩目と言っても過言じゃないもんね。」
「そうそう、何れ魔王を倒して、神様もビックリするくらいの存在になるん予定ですからねぇ。」
「…通過点。」
「貴方たち…。どうして!?なんでそんなことをしようとするの!?」
エナの質問に、アザーは微笑みながら答える。
「拙者らは、困ってる人が居たらほっとけないんだ。」
エナはその答えと、5人の笑顔を見て大粒の涙を流し始める。
「こんなこと言えた義理じゃないけど…お願い。助けて…。」
ついにエナの本音が聞けたことで、5人の心に着いた火がさらに燃え上がる。
「任せとけ。それと、拙者はアザー!この世界で一番強くて、この世界で誰も見たことがない景色を初めに見る男や!
それから、クロ、リログ、セイカ、ノベー。拙者の背中を押し、時には導いてくれる最高の仲間だ。」
エナはアザー、クロ、リログ、セイカ、ノベーが空き家を後にし、領主宅に向かう背中をただ眺めているだけであった。
5人は横一列に並び、元領主宅で現在イタクァが住む場所へ向かう。
街の人々は、最初に感じた監視の視線ではなく、不安と期待が入り交じった視線で一行を見ていた。
しかし、5人の頭の中には既に魔王軍最高幹部の部下、イタクァのことしか頭に無く、住民の視線など気にも止めていなかった。
ー元領主宅ー
全身茶色い体毛で覆われ、赤い瞳を持つ3mはあるであろう骸骨、イタクァは領主の間で酒を飲みながら座していた。
「ハーッハッハッハッハ。最高の気分だ。最高幹部であるハスター様に与えて頂いたこの場所でワタシはいずれ最高幹部になってやる。」
領主の間にて、偉そうにふんぞり返りながら、イタクァは、働く人間を眺めながら嗤う。
イタクァの傍にはトロールとナーガが控えている。
トロールは全身白い体毛に覆われた8mほどの体躯で、戦闘能力は高いが、知能が低く、破壊のみを生きがいとしていた。
ナーガはコブラに人の手足を付けたような見た目をしており、紫色の鱗に覆われた頑丈な体を有している。
「もうしばらくすれば、昨日来た旅人から奪ったものをエナが持ってくるはずだ。ハーッハッハッハッハ。」
イタクァはエナから報告を受け、5人の人間が昨日ドッグーの街に来たことを把握しており、いつもと同じように始末するように伝えたため、もうすぐエナが到着することを疑わなかった。が、その時、ドンッという大きな音と煙を立てたと同時に領主の間の扉が破壊された。
イタクァは驚きと怒りを滲ませた。エナが反逆し、街に居る女を率いてきた可能性、自分の元に置いた者共の反逆、あらゆる可能性を考えたが、煙の奥にある見覚えのない5つの陰に少し困惑した。
「なんやあの毛むくじゃらな骸骨は?」
「それに白い毛むくじゃらの巨人と紫色の蛇も居ますねぇ。」
「僕、蛇苦手なんだよね。」
「…それ、関係ある?」
「おお!ゴブリンの比にならないくらい強そうな魔物がいるなー。」
「貴様ら、何者だ?」
イタクァは冷静さを取り戻し、5人の陰に問いかける。
「拙者らか?拙者らはこの街のヒーローだ!」