ドッグー
「おい、あれ人か?」
「みたいだね?」
御者台でリログとクロが前方に倒れている少女を見つけ、馬車を止めた。
すぐに荷台のアザー、セイカ、ノベーに馬車を止めた事情を説明した。
話を聞いたらアザーはすぐさま少女に駆け寄り、声をかける。
「おい、大丈夫か?なんかあったんか?」
アザーの呼び掛けに少女は少しだけ目を開けて、一言だけ告げた。
「…おな…か…すいた…」
その声と共に少女のお腹が大きく鳴った。
「いやー、こんなに美味しいもの恵んでもらって申し訳ないです。ははは。」
空腹で倒れていた少女のため、ノベーが急いで食事を用意し、振舞っていた一行は少女に色々と質問をしていた。
まず、少女の見た目として、身長がだいたいリログと同じくらいであり、オレンジ色のショートカット、顔より下の全身をマントで覆っているが、出るところは出ているという感じであった。また、活発で誰とでも仲良くできそうな印象を受ける。
次に名前だが、エナというらしい。ドッグーの街に住んでおり、食べ物を探して森を探索していたところ、段々と空腹で視界がぼやけて来て、何とか街道に出たが倒れて気を失ってしまったというのだ。
「ドッグーの街は今、貧困に陥っているのか?それか、若い人が居ないとか?」
アザーが率直な疑問をエナに発する。それもそうだ。いくら若いからといって、単独で食料を探すために森に入るなんてことは、キャットの町では許されなかった。それなのに、どうして、と思うのは至極当然のことである。
「そうなんだよねー。ちょっと若い人たちが今出払ってて、仕方なくね?ははは。」
アザーの質問にエナはそうそうとこたえるだけであった。ただ、その乾いた笑いに気づかない者は誰一人として居なかった。
「ご飯、ご馳走様!すっごく美味しかった!
あんたたち、今日はドッグーに泊まって行くの?誰も住んでない空き家があるから、案内してあげるよ!」
ご飯を食べ終えたエナはそういうと素早く立ち上がり、一行を案内してくれた。
ードッグーにてー
ドッグーの街はそれほど大きくはないが、人もキャットよりは多く住んでいそうな場所であった。
しかし、外を歩いているものは少なく、歩いているものは皆、エナと同じようにマントで顔より下を覆っていた。
そのせいもあってか、どことなく活気が無く、寂れたようにも見て取れた。
エナに案内された空き家に着いた一行は馬車から荷物を降ろし、家の中でしばらくゆっくりしていた。
「この街、なんか変だよな?」
「うん、そうだね。」
「…違和感が、ある?」
「1番最初の街がこれやと、ちょっと不安やな。」
「まあ、考えても仕方ないですよ。気にしないことにしましょ。」
家の中でゆっくりしているとき、街に入ったときの異様さを口々に出し合っては居たが、ノベーの言葉で、何もできることはないと考え、それ以上は考えないようにした。
しばらくして、アザーとリログは街中を見て回ることにした。
他3人にも声をかけたが、クロは次の目的地までのルートを確認するために、ノベーは料理の下ごしらえをするために残り、セイカは眠いから寝ると言っていた。
「なんかアレやな、人はほとんどおらんのにジロジロ見られてる気するな。」
「確かにな。拙者らがよっぽど珍しいのか、それとも…。」
街に到着した際に感じていた違和感がほぼ確信に近づきつつある中、2人はブラブラと歩いていた。
途中、エナを見かけたが、エナはこちらに気が付くことなく、他の住民と何やら話し込んでいた。
声をかけようとしたが、早足で移動していったので、それも叶わず、再び街中を見渡したあと、宿泊場所として借りた空き家に戻ることにした。
「街の雰囲気、最初に感じた異様さが拭えないな。」
「まあ、明日にはここも出発するやろうし、気にしやんでええんちゃうか?」
そんな話をしながら空き家に戻ると、3人が話し込んでいた。
「どうしたん?」
「なんかあったんか?」
クロ、セイカ、ノベーは戻って来たアザー、リログに説明を行った。
「これなんだけど、何の跡かな?って話していたんだよ。」
「血が擦れたようにも見えますねぇ。」
「…争った、あと?」
よく見ると空き家の端々に似たような跡があり、疑念を抱かざるをえなかった。
「これは、何かありそうやな。」
不穏な空気が流れる中、一行は夕食を摂り、明日に備えて準備を整えていた。