修練
ー翌日ー
この前打ちのめされた村の入口に集合した一行の前にケイジスとマキアが現れた。
「カッカッカッ、昨日はゆっくりできたか?この村は居心地がいいだろう?」
ケイジスはこの村を気に入っており、色々と村のことも教えてくれた。
中でも驚いたのは、この村ができる前から変わらない大きさである木のことであった。
神樹ククノチと呼ばれる大樹はこの村の守り神ともされていた。
そんな話を聞いたあと、一行の修練についてケイジスは話してくれた。
「カッカッカッ、お前らに足りないのは基本的な戦闘術と魔力操作だ。見たところ、結構良いスキルを持っているようだが、それを連発するだけなら誰だってできる。今のやり方で言えば、魔物と大差ない。」
「じゃあ、どうすればいいんだ?」
「簡単さ。基礎を身に付ける。その上で更に技を作り出せばいい。強力な技を確実に当てるために、魔力操作をし、基本的な身のこなしを覚えた上で、勝負を決める技を発動すれば強敵とも渡り合える。」
ケイジスの言葉を聞き、ケイジスとの戦闘を思い出す。スキル無しで一行のスキルを無力化し、勝負を決めるために強烈な一撃を決められたあの戦闘を。
「今からお前ら5人には俺の分身と戦闘してもらう。1日1時間しか出せねぇから、後の時間は自己研鑽だ。回復の嬢ちゃんだが、お前さんはマキアと時間の限り戦闘してもらう。現状コイツら5人に比べて攻撃の技がない。だから、マキアに基本的な戦闘術を教えて貰え。加えて、攻撃技の研鑽をしろ。そんじゃあ、まあ、各々頑張れや。」
ケイジスはそう言うと、両手を合わせて集中力を高める。
「波動人形!!!」
ケイジスが技を発動すると、5体の分身が現れた。ケイジスのスキル、【波動】を人形にした技だが、相当な強さを感じ取れる。
「武器、スキルは自由に使っていい。この人形はスキルを使えないが、俺と同じような強さを持っている。コイツらにどうにか勝って、俺のところへ来い。」
そうして、ケイジス、マキアとの修練が始まった。
初日は、全員これまで通り挑むもダメージを与えることができず、終了した。
そして来る日も来る日もケイジス、マキアとの修練は続いた。
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1週間が過ぎた頃、波動人形との修練を終え、自己研鑽をしていたアザーは考える。
これまで通り、攻撃しても拙者の攻撃は全然効かない。
そもそも魔力の操作なんかエーリス・ライトしか思い浮かばない。
あの技は右の拳に全部の力を集中して。
そこでアザーはハッと気付いた。
フラッシュを長時間持続させることができれば、相手の攻撃を喰らわず、どんな敵にもダメージを与えることができる。
一気に放出するんじゃなくて、最低限をコントロールできれば、一気に放出させる方も生きてくる。
ケイジスが波動人形を生み出しながら、拙者らと普通に話せるように、流れを掴む。
「やってやる!これができれば、エーリス・ライトの新しい可能性も見えてくるはずだ。」
アザーは目を閉じ、集中力を高め、フラッシュを出す。最初は10秒が限界であった。
毎日毎日、同じことをした。1ヶ月が経つ頃には、30分以上フラッシュを持続させることができるようになっていた。
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また負けた。地面に転がりながら、天を仰ぎ、クロは考える。
自分に足りないもの、それは強力な攻撃技であることを自覚していた。
先の戦いでも、ダメージを喰らうことを前提に戦っていたクロにとって、最重要課題であることは明白であった。
また、自身が持っているスキルについても考える。現在、重力は使いこなすことができているが、闇の方は1度も使うことができていなかった。
闇、それはクロにとっては消してしまいたい過去であり、逃れられない運命であった。
しかし、今はそんなものに縋っている場合ではなかった。
クロは様々なことを試した。1ヶ月が経つ頃には、新たな技をいくつも生み出すことに成功していた。
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リーチの差があるのに押し切れない。勝つことはおろか、かすり傷1つ付けることができずにいたリログはじっと大剣を見つめていた。
初めて大剣を手にした時に、誰にも言わずに立てた目標を思い出しながら、物思いに耽っていた。
最強の剣士になる、それがリログの目標であった。
だが、実際には武器を持たぬ強敵に歯が立たず、悔しい思いをさせられる一方である。
何が足りひんねや、俺は。いや、全部が足りひんねや。技術も技も、冷静さも、数えだしたらキリがない。
そもそも俺の戦闘スタイルはなんや?アザーみたいに拳で敵をねじ伏せること?違う。クロみたく状況を見て、的確に狙うこと?違う。セイカみたいに遠距離魔法を放って敵を倒すこと?違う。ノベーみたいに敵の攻撃を防いでカウンターを喰らわせること?違う。エナみたいにサポートをすること?違う。この大剣を使って、先陣を切ることや。
なら必要な力はなんや?
リログは考えを徐々にまとめていく。自分が立てた目標を達成するため、仲間のため、そしてリログは思い付く。
そして立ち上がり、迷わず剣を振り続ける。
自分にできることを100%、遂行するために。
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セイカは笑った。久しくこの感覚を忘れていたからだ。セイカ自身が負けたのは幼少期にアザーに負けて以来だった。その時から、勝ち目のない戦闘は避けるようになっていた。
それは姉妹喧嘩でもそうであった。子どもの頃、しょっちゅう喧嘩していた姉が居たが、アザーに負けた日以来、1度も喧嘩をすることはなかった。それは、いつも姉に負けていたからだ。
その姉も、3年ほど前に行方がわからなくなっているのだが。
これまでの戦闘でも、負けない戦いにしか参加していなかったセイカとって、目の前に立ちはだかる壁は想像以上に大きく、分厚いものであった。
これまでのように逃げ出したいと思う反面、心の奥底から湧き上がる興奮を抑えることができずにいた。
「…強く、なりたい。」
セイカは自身の欲望のままに、力を欲し、修練を重ねた。
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私の得意なこと、やりたいことはなんですかねぇ。
と、自問自答するノベー。ケイジスの攻撃は何度か防いでみせたノベーは考える。防ぐことはできたが、攻撃はまるで通用しなかったのだ。エナ以外の面々がケイジスの攻撃により技を当てることができなかったのとはわけが違った。
ノベーの技はただの回転で打ち消されてしまったのだ。
ふむ。ただ防ぐだけではダメそうですねぇ。防いだうえで、確実に倒すために何をするべきでしょうかねぇ。
盾を軸に、攻撃の風と防御の風を生み出すとかですかねぇ。いやいや、それはちと厳しいです。
自身が考え、辿り着いた答えをノベーは否定する。しかし、辿り着いた時点でもうどうするべきかは決まっていた。
アザーさん達が頑張っているなら、私もやるしかないですねぇ。何よりー。
ノベーは覚悟を決め、攻防一体の技を会得するため、研鑽に励んだ。
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「さて、エナさん、やりましょうか。ケイジスさん程じゃありませんが、波動人形くらいの強さなら私にもありますので、ご安心ください!」
「いや、それはありがたいんだけどさ?私、スキルが回復で戦闘は体術しかできないんだよね?」
マキアとの修練が開始する直前、エナは自身の不安を打ち明ける。しかし、マキアはキョトンとした顔で尋ねた。
「はい、だからどうしたのですか?まさか、自分は戦力になれないとお考えですか!?」
「んー、だって攻撃系のスキルじゃないし、どうしようもないからさ?」
そんなことを言うエナにマキアは優しく微笑む。
「そのことでしたら、ご安心ください。私のスキル、まだ言っていませんでしたが、綿のスキルです。」
「へ?わた?」
「はい、綿です。こんなフワフワなものでどう攻撃をすればと悩んだこともありました。ですが、このように丸めれば多少固くなります。それをこんな風に上空から落とせば…綿雨!!!」
マキアは岩に向けてスキルを放つ。上空に生み出された無数の綿の玉は雨のように降り注ぎ、岩を粉々に砕いた。
「すごい…。」
「ようは考え方です。できないじゃなく、可能性を見い出せればきっとエナさんも強くなれますよ。」
「そうだね。よーし、あいつらがびっくりするくらい強くなってやるわよ!」
新たな可能性を見出したエナは様々なことを試していた。




