拳聖
ここはどこだ?拙者は何をして…。そこでアザーはハッとする。
「あの男は!?どこだ!?」
勢いよく起き上がり、臨戦態勢を取るアザーだが、例の男が見当たらない。アザーを含めた6人全員がどこかに寝かされていたようだ。
「あっ!目が覚めましたか?」
アザーが他5人の無事を確認していると、扉が開き、1人の女性が入ってきた。女性は胸元くらいまで伸びた銀髪で、給仕のような服を着ていた。また、目鼻立ちがくっきりしており、美人な大人の女性という感じである。
「ここはどこだ?それに、あんたは?拙者らは変な男に負けて、村の入口辺りで気を失ってたと思うだけど。」
「申し遅れました。私の名前はマキア、この家の給仕をしています。」
美しい女性はマキアと名乗り、礼をしたあとニコッと笑った。
そんなやり取りをしていると、徐々に全員が目を覚ましていった。
「いたた。まだ少し頭がズキズキするよ。」
「いやー、マジでめっちゃ強かったな。」
「…悔しい。」
「気絶で済んでよかったですねぇ。」
「ほんとにね。強かった。」
目を覚ましてまず出たのが例の男の強さであった。
結局のところ、一撃も喰らわせることができず、完敗であったことに間違いはなかった。
そんな話をしていると、また扉が開き、例の男が入ってきた。
「カッカッカッ、目が覚めたかガキども。」
一行は臨戦態勢を取るがその男に先程のような敵意はなかった。
男は近くにあった椅子に腰掛け、煙草に火をつける。
「もう!"ケイジス"さん、家の中では吸わないでくださいよ!」
煙草を吸い出した男に対し、マキアが注意をするが、一行の耳にはマキアが呼んだその男の名前以外の情報が入ってこなかった。
"ケイジス" それはエナから教えてもらった聖と呼ばれる人物の1人、拳聖・ケイジスと同じ名前だったからである。
「「「「「「えええぇぇぇぇぇええぇぇぇえええ!!!!!!!!!!!」」」」」」
一行があげた叫び声が村中に響き渡ったのは言うまでもないことである。
「け、ケイジスってあのケイジス!?」
「なんで拳聖がこんなとこにおんねん!?」
「いや、でも、確かに言われてみればあの動きは尋常じゃなかった。イタクァなんか目じゃないくらい強いし。」
一行が驚いているのを他所に、マキアに注意されたケイジスは少ししょげながら火を消していた。
「あとケイジスさん、この人達に何も言ってないんですか!?有り得ません!何してるんですか!さっきは大丈夫って言ってたじゃないですか!」
マキアはケイジスにさらに詰め寄る。ケイジスはバツが悪そうにしていた。
そしてマキアから目を逸らすように、一行に向き直り、ことの次第を説明してくれた。
「いやー、驚かせて悪かったな。まさかこの村にアザールさんの倅が来るとは思わなくてな。名前を聞いたときに、どのくらいの強さなのか確かめたくなったんだよ。」
ケイジスの言葉に、5人は疑問符を浮かべる。
ただ、アザーだけはその名を聞いて驚いていた。
「どうしてん、アザー?」
「いや、アザールは拙者の死んだ父親の名前だから。父親の知り合いが聖ってことに驚きを隠せなくて。」
驚くアザーに、ケイジスは優しい微笑みを見せながら説明を続けた。
「俺らは昔、アザールさんに誘われて冒険に出たんだ。トーカもミーヤもフーリンもベーツェもその時の仲間だよ。アザールさんは強かった、俺らの誰よりも。アザー、お前と同じ光を操っていたよ。だからどんなもんかと思ったが…。てんでダメだな。」
「確かに。あんたには適わなかった。どうしたら、拙者らはあんたみたく強くなれる?」
「強くなって、どうするんだ?」
「この世界を冒険して、悪さをする魔王軍を倒す。けど、ーーー。」
アザーの言葉を聞き、ケイジスは驚いた。エナもアザーの真の目的を初めて聞き、驚かざるをえなかった。ただ、クロ、リログ、セイカ、ノベーは幼少期から変わることの無いアザーの最終目標を知っており、笑った。
「カッカッカッ、そうかいそうかい。その夢を叶えるには、今よりももっと強くならねぇといけねぇな。これも何かの縁だ、俺が鍛えてやる。それに、アザールさんの倅とその仲間をこのまま放っておけないからな。」
ケイジスはそう話をまとめ、一行を鍛えることを決めた。
一行は最初、戸惑っていたが、実際にケイジスとの戦闘で完敗しているため、この提案に乗る以外の選択肢はなかった。
明日から修練を開始するということをケイジスから聞いた一行はマキアが作った食事を食べ、各々好きなように時間を過ごしていた。
探索が大好きなアザーとリログ、それに同行したいと言ったエナは外に出て、村を見て回った。
途中、村人から話しかけられ、エナがスミとヒロの件をお願いしていた。
クロとセイカは部屋の中で好きなように過ごしていた。クロの影響で、セイカも本を読むようになっていたので、お互いが干渉し合わず、読書にのめり込んでいた。
ノベーはマキアに料理のことを聞いていた。出された食事が美味しく、色々なメニューを聞いていた。




