"聖"
ドッグーの街を出て、数時間が経った。
その間、リログとクロが交代で御者をし、道のりを進んでいた。
「次の目的地はどこになるんだ?」
「地図通りに行けば、ラビットだね。スミとヒロのことも考えると、2日後には到着するよ。」
「初めて馬車に乗ったけど、意外と乗り心地がいいのね。これなら2日くらいなら大丈夫そう!」
「ほんとですぇ。まあ、私らも日を跨いで馬車に揺られた経験はありませんが、案外余裕そうですねぇ。」
そんな会話をダラダラと2時間ほど続けていると、少しずつ日が暮れて行き、一行はキャンプができるところに停泊していた。
ドッグーの街で買った材料を元に、ノベーとクロとエナが下ごしらえをし、アザーとセイカが集めてきた薪にリログが火を灯していた。
最初、リログがファイヤー・バレットを使用し、集めた薪が燃えカスになってしまったことは言うまでもなかった。
無事食事を終え、談笑を楽しんでいた際、技の話になった。
「そう言えばアザーの技名、星座の名前を使っててかっこよかったけど、みんなは何か意識してるの?」
エナが口にしたアザーの技名に、皆が噛み付いた。
「お前、星座の名前にしてるん?それはちょっとイキってるわ〜」
「…かっこつけすぎ。」
「きっと昔から決めてたんでしょうねぇ、痒くなってきました。」
「いや、拙者は普通に頭を過ぎった技名にしただけだからな!?」
アザーの弁明に耳を貸す者は居らず、いやいや、と皆否定的であった。
「みんな、せっかくアザーがかっこよく決めた技名なんだから、やめてあげなよ。まあ、星座の名前にしてるのはちょっとどうかと思うけど…。」
クロも庇うように見せながら、アザーの技名に言及していた。
「じゃあ、みんなも技名をオシャレにしたらいいじゃねぇか!拙者に憧れてるんやろ?知ってるから!」
アザーは言葉に皆、火に油を注がれた形になり、ワイワイと賑やかな夜となった。
ちなみに、エナはこれまで通り、その場で思い浮かんだ技名にすることになったが、他はそれぞれ決めていた。
クロは基本的に何でもよかったがどうせならということで、漢字を技名に使用することにした。セイカは花の名を基本にすることにした。リログとノベーは自身のスキルでもある焔、風にまつわる言葉がたくさんあるため、それをそのまま技名に使うことに決定していた。
翌日、それぞれが支度を済まし、馬車を走らせ次の街を目指して進み出した。
昨日、リログがほとんど御者をしていたので、今日はクロが御者を担っていた。リログは御者台が好きなのか、クロの隣に腰掛けていた。
荷台ではアザー、セイカ、ノベー、エナが、ドッグーで購入したトランプを使用してゲームをしていた。
ゲームはセイカがずっと一人勝ちしている状況で、アザーの叫び声が再三響いていた。
そしてまた、夜になり、夕食を済ませて団欒していた時のことであった。
「そういえば、魔王を倒す予定なのよね?」
「もちろん!拙者らの目標だからな。」
「じゃあ、みんな"聖"くらい強くならないとだね。」
「聖…?って、なんだ?」
エナが発した言葉に全員キョトンとしながら、アザーがエナの言葉に質問をした。
エナは全員の表情に愕然とした。
「"聖"を知らないの!?現在、人間界で最高の5人なのに!?」
驚くエナに対し、5人はただただ首を傾げるだけであった。はぁ。とため息をついたエナは5人に説明した。
「いい?人間界にはそれぞれの分野で最高の力を持つと言われている5人が居るの。その人たちをみなは"聖"と呼ぶわ。剣聖・トーカ、弓聖・ミーヤ、拳聖・ケイジス、槍聖・フーリン、聖女・ベーツェ。」
「かっこいいー!!!拙者も呼ばれてぇ!!」
「その5人はかつて冒険に出て、魔王をあと少しのところまで追い込んだの。けれど、追い込んだだけで、倒すことはできず、今は別々の場所に居るのよ。槍聖・フーリンと聖女・ベーツェは魔王を倒すために王国を創り、ミーヤは巫女としてこれまで居た場所に戻っているわ。後の2人は浮浪していて、どこに居るかわからないけどね。」
「そうか。なら、最初の目標は拙者らそれぞれが聖を超えるところからだな!拙者はもちろんやけど、お前らにも聖を倒せるくらい強くなってもらわなきゃ困るからな!」
「ちょっと、簡単にそんなこと言ったって…」
アザーの言葉にエナが全てを言い終える前に、
「何を言うとんねん!お前が超えれて俺らが超えられへんわけないやろ!」
「一緒に冒険に出て、魔王を倒すって決めたんだから、言われなくてもそのくらいはするつもりさ。」
「自分がちょーっと強くなったからって、私たちのことを舐めすぎですねぇ。」
「…心外。」
4人は既にその気持ちであり、アザーの言葉以上のことをやってのける気で居た。
その反応を見て、エナはこの5人なら本当にそうするのだろうと素直に感じた。
魔王軍の話をしても、聖の話をしても、揺るぐことの無い自信と強さを持っているのだから。
「…。でも、アレやな。聖はなんかピンとこうへんから、神とかにしてほしいわ。焔神とか!」
「君が焔神なら、僕は何になるんだろうね?」
「…クロは特殊かも?」
「私は風神、セイカさんは氷神とか付けやすそうですねぇ。」
そんなことを言いながら、夜も耽っていった。




