始まりの町
この世界では15歳になると、特殊な能力が発動する。人々はこの特殊な能力をスキルと呼び、その内容は様々である。火や水といった自然の能力や体を様々な物に変える形態変化の能力など、多岐にわたる。
また、この世界には魔族が存在しており、人間とは対立の関係にある。
ほとんどの場所では人間と魔族がいがみ合いながら生活をしている。
人々は神、イザナに祈りながら暮らすか、自らの矜恃にかけ、冒険者として対抗するかを日々選択しながら暮らしていた。
そしてそんな世界を旅する冒険者になりたいと思う少年少女が片田舎のキャットという町にも居たのである。
「大きくなったら、拙者たち5人で冒険に出よう!それで、悪いことをする魔王を倒して、神様だってビックリするくらい強くなって、世界一の勇者になるんだ!!!」
「また大それたことを…。」
「お前にばっかええとこやらへんからな?俺だって最強の戦士になったる!」
「…うん。」
「いっちょ、やってやりますか!!!!」
「じゃあ、7年後の15歳になる年にこの場所で日の出に合わせて待ち合わせよう!」
それぞれの思いを胸に今、新たな冒険が始まる。
ー7年後ー
朝ー。
「よし、装備はこんなもんかな?お金も持ったし、武器もある。忘れ物はないな!」
薄紫色の髪色の少年は真新しい衣服を着用し腰に短剣を据え、気持ちを昂らせていた。
「立派になっちゃって…頑張りなさいよ、アザー。」
「母さん、ありがとう。じゃあ、行ってくるわ!」
「行ってらっしゃい!気をつけてね。」
「わかってるって!」
バタン。
アザーの母は家を後にした我が子を見送り、小さく呟く。
「ふぅ…お願いだから、無事に帰ってきてね。」
母の願いを背に、アザーは約束の場所へと向かった。
約束の場所が見えてきたとき、アザーは早く出過ぎた可能性を考えていた。
「流石にちょっと早すぎたかな?誰も来てない気がする」
しかし、そんな予想とは裏腹に1人の青年が立っていた。
青年はこちらに気づいたようだ。
「ん?おお、アザーじゃないか。僕以外誰も来ないのかと思ってたんだよ。」
「クロ、相変わらず早いな。」
待っていたのはクロである。一言で言えばチャラ男だが、性格は至って真面目で明るい。金髪に白いフワフワの耳飾りをつけ、高そうな一張羅を身にまとっている。
「アザー、準備万端だね!」
「もちろん、拙者はこの日を待ち望んでいたからな!」
約束の場所に着き、待っていた仲間と合流したことで気持ちがさらに高揚していたが、懸念が少しだけあった。
「クロ、他の3人のことは聞いてるか?」
アザーの懸念、それはクロ以外が来ないことである。
「いや、特には何も聞いてないよ?」
クロも聞いていないなら、信じるしかないが、何せ付き合いが長い分、不安が生じるのも事実である。
「まさか忘れたりしてないよな。セイカ辺りは寝坊とかも有り得るからな…」
アザーとクロが不安を口にしていたとき、上から突然声が聞こえた。
「…私なら、いる。」
「!?」
2人は驚き、上を見上げた。
スタッ。
驚いている2人を他所に、セイカは悠然と木から降りた。
「セイカ!?なぜ木の上に!?」
「…なんと、なく?」
不思議な雰囲気を纏い、銀髪で肩くらいまで伸びた髪を靡かせ、和服を身にまとっている。その容姿は非の打ち所がなく、恥ずかしがり屋だが、皆に愛されている女の子だ。
「セイカ、ちゃんと起きられたんだね。」
「そうそう、拙者も思ってたところだったんだよ。」
「…頑張った。」
「そっか、1番遅刻しそうではあったからよかったよ。」
そう言うとアザーとクロは顔を見合わせ安堵した。セイカはその光景を見てキョトンとしていたのだが2人は気にしていない。
「あと来ていないのはあの2人だな。」
そんな話をしていると元気な声が響き渡ってきた。
「こんにちはー!」
「お!きたきた…!?」
「「!?」」
来たのはノベーである。小柄で黒髪のショートヘアが特徴である。セイカとは逆で明るく派手なことがすきな女の子である。が…
「ノベー?その恰好は?」
「…魚?」
そうなのである。なぜかカジキマグロの被り物を被っていた。
「ああ、これですかい?いやー、うちの親漁師なんで、冒険に出るならこれを被っていけってうるさくて。」
「にしても、えぐすぎるだろ!」
「…。」
「まあ、ノベーらしいっちゃ、らしいけどね」
4人で騒いでいると、最後の1人が来た。
「おいっすー!みんな早いな」
そう言ってやってきたのはリログである。
「いや、みんな早いな。じゃねぇよ!遅せぇだろ!」
「うるさい!時間なんて決めてないだろ!!!」
アザーとリログのいつもの言い争いが始まった。7年たっても変わらないなと3人は笑っていた。
「ハァ、ハァ…冒険に出る前に体力使い果たしてしまうわ。」
「そっちが、折れろや。」
「2人とも早く行こう?日が暮れたらまた明日になっちゃうよ?」
クロがそう促すと2人は了承し、門の方へと歩を進めようとした。その時、セイカが立ち止まってクロに尋ねる。
「…その、後ろの馬車は…?」
セイカの言葉にアザー、リログ、ノベーは視線をやる。
クロがそうそうと言って、説明した。
「これは母さんが旅に出るなら使いなさいってくれたんだ。荷台と2頭の馬を。」
事も無げにクロが4人に告げた。
「「「「マジか!!!」」」」
一同、声をハモらせクロの準備の良さに感服する。
「君たち、どうやって旅に出るつもりだったの?まさか、歩いて行こうとしてたの?」
クロの呆れた疑問に4人とも黙りこくっていた。
「よし!と、とりあえず門まで行こう!」
「せやな!早めに出たいもんな!」
「いやー、今日は天気も良くて絶好の旅日和ですねぇ!」
などと、3人で騒ぎながら門の方へと歩いた。
門の前へ着き、5人で横一列に並んだ。
「いよいよ、拙者たちの冒険が始まるんだな。」
「まあ、気楽に行こう。」
「やってやる。全世界を踏破してみせる!」
「…楽しみ。」
「ふっふっふ。行きましょうか。」
「…って!その魚の被り物を外しやがれぇ!!!」
その声は町中に響き渡った。
波乱に満ちた冒険が今、始まった。