Paragraph 3/縹色の麗人/Indigo
半日ばかりかかる空の旅を終えた夏喜一行は、一度地元へと戻るために駅へと向かった。夏喜自身の住居は実家のセカンドハウスなのだが、帰国の手配をしてくれた紫桃藍那へお礼をするために遠回りの帰路である。
匿ったホムンクルスの子供は5歳児程度の見た目をしているが、その中身も外観と類似しているようだった。窓際に座った飛行機でもロンドンを離れていく様子に目を輝かせ、あれやこれやとジューダスに質問していた。電車に揺られている最中も、車窓の外を覗いている。
その間、ジューダスには懐いているようだが、ホムンクルスの子供が夏喜に話しかけたことはない。
「ねぇ、わたしって怖いの?」
ホムンクルスの子供が移動で疲れて寝てしまったタイミングで、夏喜がポツリとこぼす。それを聞いたジューダスは、肩をすくめるだけで何も言わなかった。
「ぐぬぬ。良いお姉さんを演じているのに、子供って薄情だわ」
「そういうところなんじゃないか。子供は案外《《ガワ》》で判断しないものだからな」
「懐かれてるからって調子のんな!」
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そうこうしている間に、目的の駅へと到着した。外はすでに暗くなり、長旅の疲れがどっと押し寄せる。
「さあて、藍那へのあいさつは明日にし――」
「ナッちゃ~ん!!」
「へぶっ!?」
駅の改札を抜けた瞬間、夏喜の上に大きな物が落ちてきた。背筋を痛めそうなほどの衝撃に思わず倒れ込む。
「あれ? ナッちゃんが消えた?」
「んんんん~!!」
「アイナ、お前の下だ。どいてやれ」
「プハッ!? 死ぬかと思った!」
藍那の肉厚な身体に潰されていた夏喜が新鮮な空気を吸い込む。一息で窒息するほどの圧倒的な圧迫により生還した夏喜が、目の前にいる藍那の頭をどついた。
「気配もなく人を潰すな、藍那! それになんで君がここにいる!? 今日ココに来るとは教えていなかったぞ!」
「それは~私の愛かな? 大丈夫! 今ついたところだから全然待ってないわ」
「そういうことじゃない! しょうもないことに神託使ったんじゃないだろうな」
「え!? 何でわかったの!?」
「やっぱりだ! 隠匿する気ないだろう!」
「え~あるし~。私にとってはとっても大事なことだし~」
「おい、声がでかいぞお前達。子供たちが驚いてる」
ジューダスが二人の会話を止める。藍那の後ろにぬいぐるみを抱きしめている女の子もびっくりしたような顔で見ていた。
「あれれ? ナッちゃん子供産まれたの? 男の子? かわいい~!!」
藍那の声にびっくりしているホムンクルスがジューダスの後ろに隠れた。旅に疲れているときに、子供にとってはカロリーの高い絡みである。
「わたしの子供じゃないぞ。言っただろう、保護することになった子だ。名前は、・・・・・・いまから」
「そうなんだ~。あ、今日は娘も連れてきたの。久しぶりでしょ?」
「もうこんなに大きくなったのか。えっと、名前、なんだっけ」
「葵、紫桃葵です。7歳です。よろしくおねがいちまふ」
緊張しているのか、自己紹介の最後に噛んでしまったが、それにすら気付いていない様子だった。
「葵か。大きくなったね。わたしは夏喜。最後に会ったのはまだ赤ん坊だったな。お母さんの友達だ。よろしくね」
「はい。ナッちゃんさんの話はアイナママからたくさん聞いてます」
「そうかそうか。・・・・・・おい、藍那。変なこと言ってないだろうな」
「ナッちゃんの変なところなんてないよ。家では全裸派とか?」
「そういうところだ! いちいち子供に教えるなよ! ・・・・・・手遅れそうだから、まあいい。そのお人形さんはお友達かな?」
葵はうさぎを模したぬいぐるみを持っており、デフォルメされた身体に対して、劇画チックでやたら凛々しい顔立ちをしている。鎧をまとい、小さな剣を構えているが、どうみても女の子向けなものではなかった。
「うん。ソウイチロウっていうの。可愛いから好き」
「可愛い・・・・・・日本のサブカルはまた一段と攻めてるな。ん?」
気付けば、夏喜の傍にホムンクルスの子供が近寄っていた。葵が持っているぬいぐるみに興味があるのか、今まで懐いていなかった夏喜に隠れるようにだが、じーっとぬいぐるみを見つめている。
「あなたもこれが好きなの?」
「・・・・・・」
「はい! お家にいっぱいいるからあなたにあげる」
口は開かないが、その眼差しで葵も彼がぬいぐるみを気に入っていることに気付いたようで差し出した。それを受け取ったホムンクルスの子供の表情もわずかに緩む。
「お名前何ていうの?」
「・・・・・・わかんない」
「お名前ないの? だったら、ソウイチロウが好きなら、ソウジロウね」
「ソウジロウ・・・・・・。うん、ボク、ソウジロウにする」
「子供のコミュニケーション能力は恐ろしいな。何なんだこの敗北感は・・・・・・」
未だ懐かれていない夏喜だっただけに、初対面でホムンクルスの子供――ソウジロウの心を掴んだ葵に驚愕している。
「名前可愛いね~。私はアイナよ。よろしくね、ソウジロウくん」
「うん」
「藍那にすら負けた!? なぜわたしにだけ懐かない!」
「え・・・・・・ダラしないから?」
へこたれて膝の折れる夏喜。子供の容赦ない指摘に、言葉のナイフが夏喜の臓腑に突き刺さった。
「そうだ! 今日はみんなで家に来なよ!」
「そんなわけにもいかんだろう。君、仮にも人の嫁だ。旦那だって――」
「パパなら大丈夫! 多いほうが賑やかでいいって言うわ」
「そんな馬鹿な話があるか」
大丈夫大丈夫という藍那を流す夏喜であったが――
「お泊り? 良いですよ。葵もその方が喜ぶと思うので」
近くの駐車場で待機していた藍那の旦那――紫桃宗谷は二つ返事で快諾した。
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