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エンド・オブ・フォーマルハウト  作者: まきえ
<CHAPTER 02/既望家族/LUNATIC FAMILIA>

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7/31

Paragraph 1/桃色の時間泥棒/Momo


「――カ~ッ! 風呂上がりはやっぱビールね!!」


 ジューダスとホムンクルスと表世界に戻った夏喜は、ケビン=ゴッドバルト伯爵がはからいでシティ・オブ・ロンドンにある高級ホテルの一室を手配しており、夕暮れ時にチェックインした。ホムンクルスは別室の大きなベッドの上で寝息を立てている。夏喜は適当に買い込んだ酒やツマミ、簡単な食事をテーブルに置き、日中の汗をシャワーで流し、瓶ビールをラッパ飲みで(あお)っていた。


「・・・・・・子供もいるんだから服くらい着ろ」


 呆れ顔のジューダスだったが無理もない。当の本人は、ショーツ一枚に肩から身体を拭くとき使ったバスタオルをかけているだけで、ほぼほぼ全裸に近い。濡れた髪も軽く拭くだけで済ませ、シャワーで火照った身体を内部からアルコールで冷やして悦に浸っていた。


「まだいいじゃない、どうせ今日は術式で起きないんだから。明日からいきなりシングルマザーよ。最後の夜くらい楽にさせなさいよ」


 ソファーにどかっと座り、テーブルに足を置いて再度ビールを呷る。


「やれやれ。それで、日本に戻るアテは思いついたのか?」

「ぐっ、いきなり本題・・・・・・」


 ケビン伯爵を頼れば、日本行きの手段はすぐにでも手配してくれるだろう。だが、そのためにはヒース=ベールに連絡しないといけず、それが嫌でどうにかこうにか方法はないかと画策する夏喜だったが、さすがにパスポートが存在しない子供を連れて出国する難易度の高さが立ちふさがった。


「大使館の前でパスポート失くしました~、じゃあさすがに無理よね。日本に戸籍ないし」

「陸路も海路もさすがに遠すぎるからな。接する人が多くなればその分トラブルも生む。リスクを考えれば空路しかないぞ」

「わかってるわよ。ん〜、とりあえずビール飲も」


 瓶に残ったビールを一気に飲み干し、ツマミとして買ったフィッシュ・アンド・チップスを頬張る。


「名古屋並みに茶色づくしよね、イギリスって。親の敵ってくらいに煮込むのも多いし」

「オレからすればパンと葡萄酒以外があるなら十分繁盛した国だと感心するがね」

「時代が違いすぎるでしょ。まあ作物には不向きの土地柄もあるけど、問題は食文化の発展度合いよ――」


 本筋から逸れた話題で夜が深くなる。十本ばかり空瓶が転がった頃には日付が変わろうとしていた。


「そろそろ寝るか。飲み過ぎてさすがに冷える」

「だから服くらい着ろと言ったろうに」

「うるさいわねぇ、トイレ行ったら着るわよ。ガウン取って」

「やれやれ・・・・・・」


 夏喜がトイレに行ったタイミングで、荷物に埋もれていた携帯電話に着信が入った。


「おい、ナツキ。電話だぞ」

「あー、ちょいまち。・・・・・・あいあい、何? 電話? こんな時間に?」


 そそくさとジューダスから二つ折り式の携帯電話を受け取り、画面を開くと、――


「・・・・・・。さ、ジューダス、寝ましょうか」

「取らなくていいのか?」


 無視を決め込もうとする夏喜だったが、夏のセミのように着信音は鳴り止まない。


「あー。しかたない。代わりに出る?」

「遠慮する。彼女はお前以外に興味がないからな」

「ですよね〜」


 覚悟を決めた夏喜が発信ボタンを押して受話口を耳に当てると、


『おはようナッちゃん! おはよう!』


 耳がキーンとするほどの爆音が(つんざ)く。


『あれ? ナッちゃ~ん、まだ寝てるの?』

「うるさい! 今から寝るんだよ!」

『え? 朝の9時なのに? おそようさん?』

「こっちは真夜中だ! 時差くらい分かれよ!」

『ええ~! てことはナッちゃん、過去に生きてるの!? なんかロマンチックね!』

「よくわからんこと言うだけなら切るぞ。それとも膨大な国際電話料金にするために放置するぞ」

『ナッちゃんからならいくらでも払うわ! 任せて!』


 噛み合わない会話に辟易している夏喜。困った様子の夏喜をみてジューダスはニヤニヤしていた。夏喜の電話の相手は、――日本にいる紫桃藍那だった。


「しょうもないことはもういい! それで、要件は何だ藍那。わたしは眠いから早くしろ」

『あ、それがね、さっきコーヒー飲もうとしたの。パパがイエローマウンテンの良いの買ってきたのね、それで――』

惚気(のろけ)はいいぞ。コーヒーが何だって?」

『あ、ゴメンね。それで、コーヒーのオイルが浮いてたの』

「深煎りの豆なんだからそりゃオイルぐらい浮くだろうさ」

『違うの! そのオイルがね、私に言うの。ナッちゃんが困ってるって!』

「え、それだけ・・・・・・?」

『それだけ、って私には重要よ! アーちゃんの朝ごはん作れないくらい重要なの!』

「ネグレストはいかんぞ、藍那。あ、でも困ってるのは困ってるな」

『やっぱり!? 私に出来ることなら何でも言って! 何なら脱ぐわ!』

「脱がんでいい。君の身体はムカつくくらい出来が良いから見たくない」

『イヤン、ナッちゃんおませさんね』

「・・・・・・」

『沈黙しないで~』


「何の話をしてるんだお前たちは」


 呆れ顔のジューダスを見た夏喜が本題を思い出す。


「えっと、端的に言えば、こっちで子供を保護した。けどパスポートがないから日本に帰れない」

『わかった! パパンにお願いするわ! 折り返すから待ってて!!』

「あ、ちょま・・・・・・切れた」


 一方的に電話を切られたが、夏喜からしてみればいつも通りだった。


 紫桃藍那とは産まれたときからの腐れ縁で、なぜか両者の親から許嫁の約束をされていた。しかも身籠る前から。だが、産まれてみればどちらも女だったことから親同士が決別。話に置いてけぼりだった夏喜と藍那ではあったが、同い年ということもあり切っても切れない友人関係となっている。夏喜の数少ない友人で理解者ではあるが、彼女を理解することは難しい。


「あ、掛かってきた。もしもし」

『パパンが手配してくれるって! 明日のヒースロー発で三人分ね!』

「君、わたしの名前出してないだろうな。倉山家のこと嫌いだからな、君の親は」

『大丈夫! 友達ってしか言ってないから! あ、でもパパン機嫌悪かったなぁ』

「絶対バレてる! バレてるからそれ!」


 そうこうしているうちに、藍那の淹れたコーヒーは冷めていた。




_go to "Her Majesty".


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