Paragraph 0/オオカムヅミ/Intuition
「――こ、これは!?」
飲もうと思ってカップに注いだコーヒーの表面に、僅かな濁りがあった。一見すればただのコーヒーのオイル分が浮いているだけなのだが、淹れた本人は驚きの表情を隠せない。
「じ、時間!! 今何時!? あっぶ!! イッた!?」
慌ててコンロにコーヒーケトルを戻したために倒しかけ、転倒してもお湯がかからないように急いで距離を取る。その際に待ち構えていた食器棚が足の小指にクリティカルヒットをかました。
「ん~、アイナママどうしたの? 朝からバタバタ~」
リビングで眠気から意識を飛ばしかけていた子供が、キッチンの物音に気付いて目をこすりながら顔を出した。すると、母親――紫桃藍那が足の指を押さえて悶絶している。
「どうしたの? またぶつけたの?」
「あ、あ、アーちゃんいいいいところに! ね、ねねねねね! 今何時?」
「何時って、朝の8時50分だよ~。アイナママ、コーヒー淹れるだけなのにうるさい~」
「だいたい9時。9時ってことは、・・・・・・ねねねねね、イギリスって今何時!?」
「わかんないよ~。今は9時前なんだからイギリスも9時前じゃないの~?」
「そうね! そうよね! あのあのあのあのアーちゃん! パパから携帯借りてきて!」
「わかった~。パパ~! アイナママが携帯貸してって~!!」
子供が大声で父親に携帯電話の催促をしながらキッチンを後にした。子供の声すら響く痛みに顔を歪ませながら床を這いずり、藍那がリビングへと移動する。
コーヒーに浮かんだオイルを見て、胸騒ぎがした。理由なんて、彼女にとってはそれだけで十分すぎるもの。一刻も早くこの不安を取り除かなければ、ストレスで何も手が付かないと携帯電話を求めて彷徨う。
「どうした、アイナ。また足の指をぶつけただけで救急車呼ぶのか?」
「ち、ちが! パパ、携帯は!?」
「ちょっと落ち着きなさい。携帯ならソファーで充電しながら寝てるよ」
「起こして! 早く! ナッちゃんに電話しなきゃ!!」
_go to "Momo".




