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エンド・オブ・フォーマルハウト  作者: まきえ
<CHAPTER 04/残響の水面/MELODY>

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30/31

Paragraph 2/いざ、カクヒエヴァへ/Hot Spot


 宗次郎はアルスの毛並みを堪能するために背中に抱きつき、アルスも満更でもない様子だったため、夏喜とジューダスは居間に座り資料を広げた。

 

「――さてと、純子(タイプワン)の召喚も済んだことだし、次は()()だな」


 時折夏喜に訪れる発作――強烈な動悸と視界混濁に一時的に身動きが取れなくなる症状は、彼女の幼少期から続いている。


 始まりは彼女自身覚えておらず、気付けば起こるようになっていた。


「タイミングが読めればいいんだけどな。てんかんみたいに薬で抑えれるものでもないし……」

「お前、楽観的すぎないか」

「なんだか慣れちゃって。たぶん、魔力量に影響されてるとは思うんだけど、最近頻度増えたかな」


 先日のイギリスと沖縄での発作は、タイミングが違えば命に関わる事象である。ジューダスの心配は、夏喜自身がそれを作戦の算段に考慮していないと思われるからであり、事実彼女はそうしていない。


「起きてしまうことは仕方がない。……とはそろそろ言えないよね」


 今の夏喜は宗次郎を守るという任務もある。彼女は今は一人ではなく、親としての役割も担っているだけに、行き当たりばったりの作戦に限界が来ていた。


「だからアルスを召喚したというわけか。だが、それだけでは十分ではないだろう」

「それもそうよね。うーん。やっぱ鍛錬で乗り切る、のもねぇ」


 夏喜の手元には古い武道書が広げられていた。"天然理心流(てんねんりしんりゅう)"――剣術、居合術、小太刀術、棒術、棍術など、ありとあらゆる戦術を記しながら、発祥から200年余りと現代寄りの古武術である。


「魔術師が近接を磨くのはやはり異端かな。けど君みたいな幻想騎士(レムナント)相手だと、同格になったら最後はステゴロの差みたいなところあるし、女は女の利点を混ぜないとね」

「なぜその流派にした? いや、別に文句がある訳ではないが、オレには日本の古武術の思想がよくわからないからな」

「それは仕方ないよ。なんせ近代のものだし、キミはそもそも聖職者だ。時代が違いすぎて、幻想騎士としての情報処理では認識はしても理解は困難だ。さて、なぜ選んだかと言われれば、なんとなくだね」


 ジューダスが眉間にしわを寄せた。生き死にに関わる戦闘において、参考にするものがなんとなくで片付けられれば苦労はしない。だが、仮にもジューダスは彼女から背中を預けられ、また預ける関係にある。


「怖い顔しないの。場当たりの発想もセンスも大事だ。戦術の知識は多ければ多い方がいい。なんせ幻想騎士相手にすることなんて、一生に一度や二度あるものじゃないし、相手が誰かだなんて確率がエグいガチャだよ。敵は神格かもしれないし、街のチンピラかもしれない。一軍の歩兵かもしれないしシモ・ヘイヘかも。しかも君たちってば神性能力を持ち出すから余計に困る。だからこそ、総合的な対応ができるものを片っ端から読み込もってわけ。昨日なんか北辰一刀流ほくしんいっとうりゅうとベトナムのゲリラ兵の行動記録読んだよ。そのうち脳内疑似トーナメントでどの戦術が一番か決めようかしら」


 やっぱり楽観的だなとジューダスが肩をすくめた。ジューダスが夏喜も未読にしている資料の一冊を手に取る。


「げ、きけ、ん、"撃剣(げきけん)"か。なんだ、剣術かと思えば組手か?」

「ん? あー、甲冑組手か。いや、ちょっと違うけど、当時の戦って重い甲冑を着ている同士だと剣戟ってあてにならないから、その状況でもどう攻めるかみたいなのあるからね。剣術と柔術のバランスってとこよ」


 西洋の剣術では重い武器により鎧の上から粉砕することも多い中、日本の古い戦ではそうではない。互いが一撃必殺を持つ中、勝ち筋だけで動けば虚に斬り伏せられる。接近戦の極意に近い戦術は、最終的には組み・投げ・極め・締めへとたどり着く。


「まあ、ジューダスのようなタイプには縁はなさそうよね。そういうのが得意な相手なら、多分その前に勝負ついてそう」

「それは褒めてるのか」

「どっちとも。そのときにならないとわからないわ」


「電話~。電話だよ~」


 犬の背に抱きつく猿のような組み合わせで宗次郎とアルスが夏喜の携帯電話を持って近づいてくる。着信画面にはアイナと表示されていた。


「ありがとう宗次郎。にしてもすごい懐きようだな」

「もふもふ~」


 宗次郎から受け取った携帯電話の通話の開始ボタンを押して受話口を耳に当てた。


「も」

『ななななナッちゃん! 日焼け止め持った!? 絶対忘れないでよ!』


 あまりの爆音に夏喜の鼓膜が吹っ飛んだ。


///

 

「終始意味不明だったな」


 慌てた様子の藍那であったが、内容が読み取れないほど一方的に捲し立てられ切られた電話は、まさに青天の霹靂であった。


「アイナは相変わらずか。平和で何よりだ」

「わたしの耳はグラウンドゼロだよ。それよりなんだよ日焼け止めって。今は二月だぞ」

「そういうときは、何かの吉兆だろう」

「嘘でしょ。凶兆でしょ。ほら来た。名無しからの着信よ」


 夏喜の携帯電話のディスプレイには非通知と表示されている。


「なによ」

『お前、毎度毎度スタートからキレ気味なのなんなんだ! こっちはクライアントだぞ!?』

「うっさいわね。君までわたしをグラウンドゼロにしようっての? 焼け野原になるわ」

「なんの話をしてるんだお前は」

『なんの話だ? 別件ならそこで処理しろ。オレには関係がない』

「恒例行事か! それで要件はなに。今機嫌悪いんだけど」

『知ってるわ! たっく。明日の朝空港へ行け。ハワイ行の便に乗れ。今回はホムンクルスも連れていけ』

「え? なんでよ。仕事なんでしょ?」

『知らんが伯爵からの通達だ。メッセンジャーに詳細は聞くな』


 どっちだよと夏喜が心で舌打ちをする。仕事と言ってるのに宗次郎まで連れて行くのは理に適っていない。どう考えてもリスクしかないはずだが、伯爵の判断ならばなにか意味があるのかもしれないと渋々受け入れることにした。


『チケットは他のメッセンジャーが持ってくる。フロアに着いたら待っていろ。じゃあな』

「あ、ちょっ……ちっ。切りやがった」

「なにか用があったのか?」

「いや別に。嫌味でも言ってやろうと思っただけよ。あーやる気しねぇ」


 不貞腐れた夏喜が携帯電話を床に放り投げて寝っ転がる。


「あ。もしかして。いや、考えないでおこう」


 独りごちるも、ジューダスにはなにか伝わっている様子であった。




 翌日、空港のフロアにて。


「ナッちゃ~ん! こっちこっち~!」


 フロアに到着するやいなや、藍那の声が響き渡る。


 空港の巨大な電光掲示板の下には紫桃家の三人がキャリーケースを持って待機していた。

 

「やっぱりね! 知ってたよ!」

「ん? どういうこと?」

「君ね! また使ったな! じゃなきゃ先回りで電話しないだろ!」

「ええ~? 知らなーい。パパから連絡きただけだも~ん」

「アイナママ、おじいちゃんより先にナッちゃんさんに電話してたよ」

「あ、あーちゃんダメ! バレちゃうバレちゃう」

「……もういいよ。日焼け止めあたりから怪しかったから。それで、君がメッセンジャーということでいいんだな藍那」


 ふっふっふっと小物感あふれる笑い声とともに藍那がポケットからチケットを取り出す。枚数にして六枚。紫桃家と倉山家のものとしっかり分けられていた。


「なんでファーストクラスなんだよ。君、まさか」

「ん~? なんのこと? それより宗ちゃんおはよ~。ジューダスさんも」

「おはようございます~」

「ああ、おはよう。三人とも息災で何よりだ」


 宗次郎と葵は久しぶりに顔を合わせたことで大人たちのそばでキャッキャしていた。宗谷は電話で誰かと連絡を取っている。


「はい。はい。ええ、もちろん。では。すいませんお二人共、向こうのメッセンジャーがどうやら不機嫌なようで。けど何も問題はありません」

「メッセンジャーって絶対あいつじゃん」

「お知り合いですか? ふてぶてしい感じのイギリス人ですけど」

「お知り合いにはなりたくなかったけどね」


 夏喜のリアクションからいろいろと察した宗谷が苦笑いをした。


「さて、君たちがメッセンジャーってことは話は早そうだ。それで、行き先は?」

「んっふっふっ。常夏のハワイよナッちゃん! 久しぶりにナッちゃんの水着が見れる!」

「いや、わたしは仕事だぞ。それにさすがのハワイも二月に水着ってわけにはいかないだろう」

「そこは大丈夫、だって私晴れ女だから! ちなみにアーちゃんもよ。だからわざわざ神託を使うまでないわ!」

「どうでもいい情報ありがとう!」


 半日後。数十年ぶりの豪雨に見舞われたハワイの地で絶望の表情をしている藍那であった。



_go to "X-OUT".


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