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エンド・オブ・フォーマルハウト  作者: まきえ
<CHAPTER 04/残響の水面/MELODY>

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29/31

Paragraph 1/アルス/The Fang


「――宗次郎、食事終わったら食器持ってきてよ―」

「んー」


 まだ日も昇る前。宗次郎が食卓で眠い眼をこすりながら、朝食のパンを頬張る中、前日から放置していた食器類を洗う夏喜がキッチンから声をかける。


 沖縄から帰郷して数ヶ月。その後、これといって大きな依頼はなく、細々とした仕事を済ませていた。宗次郎も倉山邸での生活にも慣れ、何度も紫桃しとう家にも訪れる機会もあってか、今の環境に馴染みだしている。


「あ。お兄さん。おはようございます」

「ああ。おはよう、坊主。今日も変わりないか」


 いくつかの荷物を持ったジューダスが居間に入る。倉山家の朝は早い。


「うん。ぼちぼちって感じです」

「おいおい。君はおじさんか。ジューダス、作業は終わったかな?」

「ああ、どうにかな。術式の大筋はお前の血判で完成だ」

「ありがとう。宗次郎、悪いけど後で一緒に来てほしい。見せたいものがある」

「んー」


 夏喜は片付けを手早く済ませてジューダスが用意したものを確認する。


 粗銀と被膜の付いた鉄の棒、デリンジャーとラテン語で『永遠の魂(Aeon Anima)』と書かれた縁を黒い金属で装飾された白いハードカバー本。


 それらが示すのは、召喚魔法の一端となる。ジューダスが済ませた術式は、それを完遂するための下地であり、最後は契約者となる夏喜自身が務めなければならない。


///


 宗次郎が食事を終えた後、三人は中庭に出ていた。空は高く、晴れ渡った好天。その下で、中庭の地面には粗銀を流し込んだ幾何学模様が描かれている。その中心に、夏喜はデリンジャーを置いた。




「――『白金(しろがね)黎明(れいめい)黄金(こがね)繁栄(はんえい)(まがね)(すた)る。


 (てん)(かみ)()(ひと)を、(めい)()(くだ)る。


 ()()夏喜(なつき)(なんじ)()血潮(ちしお)(そそ)ぐ。


 ()()夏喜(なつき)(なんじ)()血肉(ちにく)(くわ)わす』――」




 夏喜は呪文を唱えながら、手にした鉄の棒で幾つかの模様を追記する。鉄の棒を握る掌はわずかに切開し、血が鉄の棒を伝って地面へと落ちていく。追記したのは『天』と『地』と『冥』の因子は、すなわち『世界』の三層化。その因子を中心にあるデリンジャーへと接続した。




「――『深淵(しんえん)より()えよ、(きば)使(つか)い。


 深淵(しんえん)より()えよ、冥界(めいかい)(おと)()


 深淵(しんえん)より、――(いた)れ、超越(ちょうえつ)より()まれし(はじ)まりの使徒(しと)よ、()たれ』――!」




 幾何学模様の魔法陣の中心に、目には見えない何かの存在が集約される。その存在と、夏喜の魔炉には、確かな繋がりが出来つつあった。


「何を、しているの……?」


 事態を飲み込めない宗次郎の目には、地面の模様が励起により赤く光って見えていた。ただそれだけでも常軌を逸している。肌に感じるわずかな違和感は、生命としての危険信号だと、理解せずとも反応していた。




「――『アストワント』――! さあ、こっち(デリンジャー)においで!」




 夏喜が手を叩く。勢いで掌の血が飛び散るが、傷の痛みを忘れるほど、彼女は高揚していた。裡に感じる繋がりこそが、事の成功を物語っている。







「――イヤッホー!! 外の世界だやった―!! 自由だ―!!」




 デリンジャーへと注がれた魔力により、一匹の大きな獣が出現した。その姿はおおよそ狼に近いが、人語を話したかと思えばその場で飛び跳ねている。


「ほあっ!? 何すかこれ! 犬? 犬ってやつじゃん! いや、この毛並みは狼? 気品あふれる狼っすねこれ! いえーい! 尻尾! 尻尾はやっぱ追うっしょ!」


 犬型の獣は庭先を駆け出し、自身の尻尾を求めてくるくると周りだした。その様子を、生暖かい目で三人は眺めていた。


「なあ、ジューダス。アレは失敗かな」

「……いや。一応、お前のリクエスト通りの純子(タイプワン)のはず……」

「あれは、犬なの? 馬鹿なの?」


「ん。なんか視線を感じるっす。やめて! オイラをそんな眼差しで見ないで~!」




 ――"純子(タイプワン)"、超越種より派生した始まりの獣とも云われる『牙』の精霊族(グレムリン)


 夏喜はデリンジャーのグリップ部分にはめ込んでいた魔石の古代魔具(アーティファクト)を依り代に呼び出し、顕現を契約の証とした。


「当契約にクーリングオフは適応されません」

「横暴っすね! 消費者センターに電話しよ」

「なんで君はそんな俗っぽい返しができるんだ」

「精霊族の性格は契約者に引っ張られるそうだぞ。つまりお前(ナツキ)のせいだな」

「ハズレじゃん! 別のやつに替えよう!」

「当方はお取替えの対象外ッス」

「毛並みふさふさ~もふもふ~」


 中庭から居間に移動した面々が犬型の使い魔を取り囲んで座る。宗次郎は抱きつくようにして毛に埋もれていた。


「は~、やっちまったな~。戦力強化と思ってだったのに、クセツヨじゃん」

「お前自身が曲者なんだからお似合いじゃないか」

「え、マスタークセツヨなんすか。だっる」

「おい、本音ダダ漏れか。もっと言い方あるだろう」

「お前、色々と否定はしないんだな」

「もふもふ~」


 腕を組み悩む魔女に、飄々とした態度の銀色の毛並みの魔物だが、その目だけはしっかりとその姿を見ていた。品定めではなく、魔女のうちにある能力を見据えるように。


 超越種を含め、幻獣種に分類される精霊族は本来世界の裏側にしか存在しない神話上の存在である。幻想騎士(レムナント)と同様に生も死も存在しない。


 それを使い魔として召喚できるだけの能力を有する魔女が只者ではないことは理解していた。


「しかたない。妥協点だ。君はこれからわたしの使い魔として働いてもらうよ。えっと……名前どうしようか」

「精霊族は族銘以外に固有名詞がないからな。そこはマスターのセンスだろうよ」

「んー。なら、アルファ(始まり)の幻獣種だし、アルスにしよう。降ってきた。わたし天才?」

「ほう。お前にしてはいい線いってるんじゃあないか」

「え。マジっすか。これでマルっすか? ダンナもセンス△っすか?」

「まだるっこしいよりは良いだろう。ナツキのことだ、ここで落とさないともっと変な名前つけるぞ」

「……いや、やっぱゴンザレス? ふてぶてしい感じ出てない? グリムジョーとかどう? 強そうじゃない?」

「もふもふ~」




_go to "Hot Spot".


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