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エンド・オブ・フォーマルハウト  作者: まきえ
<CHAPTER 03/一難去って/WORKING>

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23/31

Paragraph 11/解呪ノ儀(2)/It's All Over Now, "Black Lily"




「――左手(ひだりて)(はかり)両皿(りょうざら)()たす善悪(ぜんあく)


 黄金(おうごん)白銀(はくぎん)(くろがね)(くら)べて(ほし)(ごと)(かがや)く、――


 ――右手(みぎて)(つるぎ)黄金(おうごん)夜明(よあ)けに十一(といち)


 大天使(だいてんし)(さば)きをパピルスに(しめ)せ――」




 夏喜が結界線の外周に立ち、右手に本を広げて呪文を紡ぐ。徐々に光量が強くなる結界の中心で、鈴蘭は動くことなく手を合わせた。


 目を(とざ)し、口を(つぐ)み、耳を(ふさ)ぐ。目は光を遮断し、口は声をひそめ、耳は音を黙殺する――実際には全てを取り払うことは生きている以上出来ないことではあるが、身体を屈め、手を合わせることで身体が反応することを抑制することで完成する。




「――(はは)なる大地(だいち)(ちち)なる(かみ)


 (かさ)(ひら)き、()より(のぼ)りて、(てん)(いた)れ、――


 ――日神(ひかみ)(さけ)水神(みずかみ)(さかづき)宵神(よいがみ)(みず)()べ、


 二線(にせん)(せかい)をかすめ、岩戸(いわと)()けよ――」




 鈴蘭の背後に浮き上がる影。消えたはずの片割れ。望まれなかった命の成れの果て。けれど、一人の少女を護るための装置として憑いた存在が、結界の中で形を成そうとしていた。人の影を立体化したような姿ではあるが、心()しか、鈴蘭や麗蘭の面影を感じていた。




 ――やはり人影(ひとかげ)(あやかし)か。まずは、推測は正しかった。次は・・・・・・




「――()(きざ)め、()えざる(きみ)よ、


 ()(きざ)め、()()りし(きみ)よ、


 ()(きざ)め、()らざる(きみ)よ、()(きざ)め――」




 西洋神話と日本神話、悪魔祓いという異なる構造を積み上げた祝詞はいかなる事象にも溶け込むようにアレンジしたものだが、影の性質が人の思いによる霊的存在であることが確認されたため、次の位へと上げた。




「さて。鈴蘭の影、わたしは君の話がしたい」


 鈴蘭の背後に立つ影が夏喜へと近づく。ゆっくりとではあるが、草を(なら)す足取りは、影が具象化されていることがわかる。本来なら質量を持たないはずの影だが、鈴蘭を介さずとも現実に干渉するだけの状態へと変わっている。その影が、夏喜へと近づく。


「――」


 ゴモゴモとした音にならない声。影の喉が震わせるのは空気ではなく、結界内を満たす魔力の層であり、およそ人には聞き取れない音ではあるが、この場にいる鈴蘭以外には、明確に聞き取れていた。


「なるほど。初めからわたしだけは警戒していたね。いや、見事だ。君からすれば、わたしは鈴蘭から君を引き剥がすための敵に見えたことだろう」


「――」


「そう言われても、わたしは君を置いてはいけない。姉である鈴蘭を護りたい気持ちはよく分かる。けれど、それは君の性質じゃない。いらないものを遺伝している。少なくとも、それは君にはいらないものだ」


「――」


「わたしを殺す、かな。やめてくれ。これでもわたしにだって子供がいる。わたしが死ねば、その子が困る」


「――」


「嘘じゃない。行為がなくとも子供はできる。神の子なんて奇跡の処女妊娠だ。ほら、歴史がそれを語っているよ」


「――」


「堂々巡りだな。君のクリプトナイトはどこにあるんだろうね。いやこっちの話だ。んー、ならどうだろう。わたしと勝負をしないか」


 その言葉にジューダスの眉が上がった。儀式の最中、ジューダスも口を開くことを控えている中、彼の視線は、余計なことはするなと訴える。そんな心配を他所に魔女は言葉を続けた。


「ジャンケンなんてどうだ。シンプルでいいだろう。鬼ごっこでもいいぞ。自慢じゃないが、足には自信があるからね。モーリス=グリーンの100倍は速いぞ」


「――」


「強情だね。なら、そうだな・・・・・・」


 魔女は両手のひらを合わせて自らの口に当て、目を瞑る。自らの言葉を噛みしめるように、これから吐く言葉を間違えないように、少しの沈黙のあと、――


「――君も()()()()()()からはっきり言う。君は危険だ。このままでは君は鈴蘭を苦しめる。だからわたしは今から君を祓う。全力で行く。恨みっこなしだ」


 一歩、夏喜が足を進めて結界の中に入る。ジューダスが駆け寄ろうとするが、夏喜は手を向けてそれを制した。


「わたしと、『彼』との勝負だ。邪魔はしないでくれ」


 相対する影との体格差はおよそない。けれど、人の形をしているがその力は人以上であることは体験済み。それでも、夏喜の構築した手段は変わらない。


「どうした。来なよ、ブギーマン。それともブルっちまったのかな」


「――」


 荒野のガンマンのように、相手の出方を待っていた。木々を揺らす風の音だけが木霊し、――影が腕を伸ばした瞬間、夏喜は重心を下げた。


 初めに動いたのはどちらだったか。影よりも深く潜った夏喜はそのまま体当たりをし、腰あたりを持ち上げ、地面に叩きつける。


 が、地面に叩きつけられると同時に影は虚像化に転じた。虚像化したものに対する干渉はいかなる状況でも不可能となる。


 影が滑るように夏喜の背後に動いて再び実体化と、その腕は夏喜の足にまとわりつき、軽々と女の身体を持ち上げて振り回した。


「づっ――!」


 乱暴に鈍器を振り回すように夏喜の身体で数度地面を殴りつけて放り投げる。頭だけは守っていたが、骨が軋む痛みに思考が飛ぶ。


 倒れる夏喜の顔を覗き込むようにしたところで、目を開いた夏喜は身体を回転させて影の足を払った。影が体勢を直す隙に距離を取り、全身のダメージを計算する。




 ――大丈夫、強化していたおかげで骨は折れてない。なら内臓も大丈夫だ。下が芝生で助かった。けど、全身打撲はイッたいな!




 向き合う状態になり、影が走り出して距離を詰める。


 それに答えるように夏喜も走って跳び上がり、両足で影の頭を挟み込むと、バク転の要領で回転して脳天を地面に叩きつけた。


 相手の前進運動すら回転に転用することで、人ならば昏倒必至の衝撃がある。けれど相手は影。何事もなかったかのように起き上がる。


「ですよねー。知ってた知ってた」


 初めのタックルすら無力化する形態変化能力を持ち、それでいてダメージがあるのかないのかもわからない。再び正対することとなるが、次の攻撃に転ずる前に、――




「――『黒鉛(こくえん)(つがい)、アシュライ・クラフトの門番(もんばん)十三(じゅうさん)城壁(じょうへき)よ、(はかり)(かせ)審判(しんぱん)となれ』――




 魔力を練り上げ呪文を唱える。握りしめた左手に、対象者の動きを一時的に拘束(スネア)する術式を施し、右手にはポケットから取り出したデリンジャーを手の中に収めた。


 銃口は向けない。女性の手の平にすら収まるサイズの拳銃だが、グリップ部分にはめ込まれた宝石が僅かに光る。


 重心を低くした夏喜に対し、影はゆらゆらと揺れていた。実体と虚像を転化できる影には物理的な攻撃は意味をなさない。触れようものなら絡め取られるだろう。その相手が、予備動作もなく胴体から影を伸ばした。


「いっ――!?」


 背を反らして回避する。体勢がズレた魔女に対し、二撃目の影が迫り、接触の瞬間、右手の甲で弾いた。本来ならば、影がその気ならば触れた右腕は掴まれる。だが、右手が弾いた影は形態を崩壊して破裂した。身体を捻り体勢を立て直した夏喜が距離を詰める。


 追撃の三撃目――地面から針山のようにせり上がる影が夏喜の胴体を狙った。躱された一撃目の影も背後から迫る。前と後ろの挟み撃ちは、魔女があと一歩出れば回避行動は間に合わない。前方からの鋭利な攻撃を受ければ致命傷は免れない。


 夏喜の意向を尊重して静観していたジューダスは危険だと判断し、介入することで儀式が失敗することも理解した上で突入しようとした。刹那――


 彼の視界から魔女の姿が消えた。


 夏喜の前方から迫りくる影が接触する瞬間に、幻影のように消失し、




「――『金色鎖縛(こんじきさばく)』――!」




 影の背後を、虚空から出現した魔女の左の拳が捉えた。


 影の動きが鈍る。殴られた衝撃で身を捩り、その状態のまま動かない。虚像化も、新たな攻撃もなく、空間に貼り付けた影絵のように停止している。


「これでどうだ!!」


 次に、デリンジャーを握りしめた右の拳を振り抜き、――影の身体が破裂した水風船のように弾け飛んだ。




 彼女が右手に握りしめているデリンジャーの性質は、あらゆる物を撃ち抜く『弾貫』にあり、神話上の魔弾である"タスラム"とすら称されていた。


 その能力を、術式の拡張することで自らの右手にそれを体現させている。相手がいかなる状態であろうと、彼女の拳に殴れないものはない。


 魔術的なものであれば、"撃ち抜く"ことで破壊する。非実体である影であろうと関係がなく、文字通り有象無象を区別することなく攻撃が可能である。




「もういっちょう!!」


 再度振り上げた右手。手の中のデリンジャーに魔力が凝集し、さらなる一撃の撃鉄を上げる。


 影の動きには隙がある。おそらく、あと数秒は『金色(こんじき)鎖縛(さばく)』の影響下にあるだろう。はじめに右手の甲で弾いた際に『弾貫』の効力に確信していた。打つ手ならある。ならば、この勝負は負けることはない。そう思った刹那、――彼女の視界は変質した。


 虚ろな瞳で視界が揺れる。振り下ろそうとした拳は止まり、内臓の中からこみ上げてくる吐き気に身体が硬直した。全身の毛穴が開くような不快感と寒気に脂汗が流れる。




 ――マズい、()()だ。なんでこんな時に・・・・・・。




 魔女の見ている風景に砂嵐が混じる。混線した視界に――強い雨が降っている。その中で、燃えてる車が見えた。道幅は広い。見覚えのある誰かが戦っている。剣戟が火花を散らし、異形な相手の断末魔が響いた。




「ナツキッ!!」


 結界の外から魔女を呼ぶ声がした。その声が誰のものか判断できないほどの状況に、――


「ぐぅっ――!?」


 腹に受けた衝撃で口から空気が漏れる。視界が狭まり、足元から地面が消えた。強化しているはずの肉体に容易に穿通する痛みに意識が削られる。先程感じた吐き気を後押しするような衝撃に胃液が口から溢れた。


 女の体は軽い。蹴り飛ばされたボールのように地面を転がり、防御が不十分だったための激痛で動けない夏喜に駆け寄ろうとジューダスが動く。手にした神槍に魔力を注ごうとするも、――それよりも速く、影が氾濫した。


 結界を満たす黒い水のように、動けなくなった夏喜も、結界の中心で肩を震わせながら祈りの形を崩さない鈴蘭もろとも飲み込む。結界内に入ろうとしたジューダスは阻まれ、数秒で影は結界の中を満たした。




_go to "Love Is Over"".


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