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エンド・オブ・フォーマルハウト  作者: まきえ
<CHAPTER 03/一難去って/WORKING>

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19/31

Paragraph 7/続"肝試し百峠"/Good Morning Okinawa


「オレは先に外に出る。準備が終わったらチェックアウトしてくるといい」


 名護(なご)市にあるビジネスユースで使えるホテルに宿泊した夏喜一行。女性2人は準備に時間がかかるだろうとジューダスは先に部屋を後にした。


「ねっむい。ロングドライブは身体に響くわぁ・・・・・・」

「・・・・・・ねぇ。男がいなくなった途端、なんで裸なのよ」


 先程まで浴衣を着ていた夏喜だが、ジューダスがいなくなった否や脱ぎ捨て、ショーツ一枚となっていた。


「え。女しかいないんだからいいじゃん。どうせ今から朝シャンだし」

「ちょっとくらい恥じらいもてば!? え、これが大人なの!?」

初心(うぶ)ねぇ。沖縄の人は恥ずかしがり屋だんていうけど本当だったのね」


 ひらひらと鈴蘭に手を振りシャワー室へと入っていった。


「鈴蘭も出る前にシャワーくらい入るといいわ。昨日はそのまま寝ちゃったんだし」


 シャワー室から顔だけ出して付け足し、また引っ込んだ。


「それとも一緒に入る? そのほうが時間効率いいわよ」


 また顔だけ出して付け足す。


「モグラか! うちは1人で入るからいいし!」

「あいあい」


///


 先に夏喜が軽くシャワーを済ませ、続いて鈴蘭が上着を脱いでシャワー室へ向かっていった。


「わざわざタオルで身体隠さなくたっていいじゃん。女同士なんだし」

「やだし。はずいし」


 そそくさとシャワー室に入る鈴蘭の後ろ姿を見て、昨晩のことを思い出した。




 車で寝てしまった鈴蘭をおんぶしようとした夏喜だったが、制服の隙間からわずかに見えたものが引っかかった。


 うなじから背中にかけて、黒い模様のようなものがあった。初めは若気の至りで入れたタトゥーだろうと思っていたが、わずかに魔力のほころびを感じた。黒い影も近づいた夏喜に敵意はあっても危害は与えなかったこともあり、ジューダスと相談した結果様子見ということになった。


 先にジューダスが部屋を出たことも、夏喜が鈴蘭の背中を再度確認する目的があり、先程見えた背中はきれいな小麦色の肌だけで、夜にあった黒い模様は消えていた。




「さてさて。藪蛇(ミスカマカス)にならなければいいけど」




///




 準備を終わらせホテルをチェックアウトし、朝食をほどほどに済ませた夏喜たちがまず最初に向かったのは、昨日の続きとなる名護市の海岸線にある不可思議な洋館だった。


 曰く、人によって建物が見える見えないがある。


 曰く、大柄な黒人の霊が出て襲われる。


 曰く、敷地内にあるマリア像と目を合わせると気を失う。


 いくつか逸話がある心霊スポットだが、もともと敷地の近くに地域の拝所(うがんじゅ)があり、それなりに強い霊場となっていた。大柄な黒人の霊が出る噂の背景は、元々沖縄復帰前に退役軍人が住んでいた事実があり、地域住人との軋轢から生まれたものらしい。建物が見える見えないは、それらの逸話をよりオカルトテイストにしたものであり、建物自体が霊的存在ではないことを確認できた。


「ここは単に、人の思いで護られているのね。土着の信仰は時に強い霊場となるから。次行ってみましょう」

「なんか軽い・・・・・・。うち的にはここかなり怖いんだけど」

「そりゃ、肝試しに来ようとする余所者には厳しい視線が向けられて当然だわ」


 近くを歩く釣り人や地域の老人からは、かなり厳しい視線が向けられている。田舎集落特有の排他的なものではなく、ここが地域住人にとって神聖な地が近いからこそのものだった。


「さあさあ先を急ぐよ。なんせ、次からはマジものなんだし」


 鈴蘭を覆う黒い影が、わずかに濃くなった。




///




 ――強い海風が突風のように吹き荒れる。


 恩納(おんな)万座毛(まんざもう)。琉球石灰岩で出来た20メートルほどの絶壁であり、そこから眺める東シナ海は荒波でありながら、透き通る青さで雄大な景色が広がっている。吸い込まれるほどの絶景の名勝地は象の鼻のような奇岩を成しており、県内有数の観光名所であった。


 そして、海に接する絶壁は、全国の例に漏れること無く自殺の名所としても有名である。


 崖に近付くと引っ張られる話や、兵隊の霊が列をなして飛び降りるなどと言われていたり。また、崖を背に向けて写真を取ろうとすると崖の下から声がしたり、少し離れた崖の方から手をふる人影が見えたり。霊感の強い人は近寄ることすら困難な霊場として知られていた。


「レミングスみたく霊が次々飛び降りるってのは滑稽よね。死んでも死にたがるなんて世知辛い」


 崖の近くによる夏喜とジューダスだが、鈴蘭は数歩離れたところから近寄ろうとはしなかった。顔色を伺うことで、理由を察する。


「高いところが苦手なのね。まあこれだけ離れれば安全でしょう」


 崖側に視線を移せば、無数の手が伸びていた。近付くと引っ張られるという話はあながち嘘ではないらしい。


「自殺の名所で負の感情が溜まってるけど、鈴蘭には問題なさそうね。さて、次に行きま――」


 そう言って鈴蘭へ振り向こうとした夏喜の前に――。


 ――鈴蘭から伸びた黒い影が、夏喜の身体を押した。


「おっと。危ない危ない」


 とっさに手を伸ばしたジューダスにより転倒は免れたが、今のひと押しは明らかに夏喜に対しての攻撃とも受け取れる。勢いからすれば、そのまま崖縁に群がる手の範囲内に入るほど。急に体勢を崩した夏喜を心配する鈴蘭であるが、自身にまとわりつく影の影響とは気付いていない様子だった。


「やはりあの影は危険だ、ナツキ。観光よりも先に対処すべきだ」

「いや、今のはわたしが油断しただけだ。対処はいい。危害を加えるにしても()()()()


「風の音で何も聞こえないんだけど、大丈夫!? 急に転ばないでよ!」

「悪いね。風が強くてよろめいてしまった。ここのことは大体わかったから次に行こう」


 夏喜は何事もなかったかのように鈴蘭に近づき、肩を軽く触れる。すれ違いざまに鈴蘭のうなじを確認すると、わずかに黒い模様が発現していた。




 ――霊場に反応しているのか。鈴蘭の恐怖心に共鳴しているのか。さてさて。いよいよ本筋で攻めようか。




 心のなかで次の手を思案する。昨日までとは違い、鈴蘭の心理的状況で影の活動に差が出ていた。国頭村の国道沿いの御嶽、名護市の洋館、そして恩納村の万座毛。霊場としての性質よりも、少女の負の感情を汲み上げている節がある。本命を前に、影の性質を自己の裡に構築していく。


///


 万座毛を離れ、ユタの聖地――恩納村のSSS(スリーエス)宜野湾(ぎのわん)市の大山(おおやま)貝塚(かいづか)森川(もりかわ)公園――を含む6箇所の訪問を終えた。


「ねえ・・・・・・。さすがにお昼無しで動き回るのつらいんだけど。そろそろ休憩しようよ・・・・・・」


 時刻はおやつの時間を過ぎていた。若い身体はエネルギーを欲している。


「それもそうね。近場で済ませましょうか」


 森川公園から国道向けに走り、古めかしい食事処を見つけた。『割烹亭 いなか』。国道沿いと割と良い立地にありながら謙虚なのか挑発しているのか分かりづらい店名だが、古い店は歴史があり評価されているから美味いという夏喜の謎理論により、遅めの昼食場所に決定した。


「おねえさんの奢りよ。好きなだけ食べなさい、鈴蘭」


 その言葉を、店を出るときには後悔する夏喜だった。




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