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エンド・オブ・フォーマルハウト  作者: まきえ
<CHAPTER 03/一難去って/WORKING>

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13/31

Paragraph 1/育育/Nursery


「おはようナッちゃん。宗次郎くんは・・・・・・寝てるのね」


 早朝、夜も明ける前に倉山邸を出た夏喜は、眠ったままの宗次郎を担いだジューダスと共に始発の電車を乗り、日の出よりも前に紫桃家に到着した。玄関の扉の前に着いたタイミングで開けられた先で、藍那と宗谷が出迎えた。


「おはよう、藍那、宗谷君。申し訳ない。宗次郎を頼む」


 ジューダスがゆっくりと宗次郎を降ろし、宗谷が抱き上げる。寝息を立てている宗次郎は起きる様子はなく、未だ夢の中である。宗谷はそのまま宗次郎を連れて家の奥へと入っていった。


「急だったから宗次郎は事情を知らない。悪いが話をしておいてほしい」

「いいよ。昨日も遅かったものね。ジューダスさん、ナッちゃんの事お願いね」

「ああ、任されたよ」

「わたしゃ~子供か。葵にもよろしく言っておいてくれ」


///


 紫桃家から出て空港に向かっている道中。電車に揺られて夏喜が車窓から外を眺めていると、窓ガラスの反射で映る自分の顔がいつもと違うことに気付く。


「ねえ、ジューダス。今日のわたしってどこか変?」

「心ここにあらずって感じだ。気になるのか?」

「うーん。なんかうまく表現できない。眠気のせいかしら」

「お前がそう解釈するなら良いんじゃないか。でも、まぁ・・・・・・」


 ジューダスのどこか含みのある言葉に夏喜の眉が上がる。


「何よ。君には何かわかるっての?」

「いいや。だが、客観的に見てればそうだろうなって思っただけだ」


 夏喜の感情は、本来なら"母"としてまっとうなものだろう。だが、イレギュラーな形で1人の子供の母となってしまっただけあって、彼女がそれに気付くことはない。ジューダスのように傍から見ればわかりやすいものだが、当の本人には単純な経験がない分、より気付きにくくなっているのだろう。


「いいわよ。どうせ教えてくれないんでしょう」

「ああ。こればっかりは、自分で気付け。三段跳びで今の立場なんだ。ゆっくりわかればいいさ」

「??」


 より混乱する夏喜だが、これ以上のことはジューダスの口から言及されることはなかった。


 人の少ない電車内に、陽の光が入りだした。



///


「空港到着、っと」


 数時間電車に揺られ、ようやくヒースが指定した空港に到着した。朝一、はすでに過ぎているが、子供がいた以上、これよりは早くは着かない。


「さて、あとはどうするのかね」


 チェックインロビーにある大きなフロアマップを眺め、次の指示を待つ。ヒースの電話では、単に空港に来いとだけあったため、これ以上の行動は出来ない。


「ン?」


 夏喜の傍にいたジューダスがこちらに向かってくる男の子の存在に気付いた。夏喜もそれに気付き、その子供もフロアマップを見たいのだろうと思い退くと、――


「おばさん、落とし物だよ」


 子供は手に持っていた鍵を夏喜に差し出した。


「お、おば、おばさん?? それは・・・・・・わたしのことかな?」

「そうだよ。1人しかいないんだから。ほら、鍵の落とし物だよ、おばさん」

「君ね。わたしはまだ20代だ。おばさんと呼ぶには――」

「ありがとう。《《ご苦労だったな》》」


 しれっとジューダスが鍵を受け取ると、子供は駆け足で去っていった。


「おい、ジューダス。わたしの話は終わってなかったわよ」

「あちらも仕事だ。無駄な時間は足に響くぞ」

「まだピチピチなのにおばさん呼ばわりされる身にもなれ! あ、電話だ・・・・・・」


 ポケットに入れていた携帯電話に着信が入る。画面を見れば、昨日と同様な文字列が並んでいた。


「ちっ、何よ」

『何よとは何だ!? デジャブか! 来るのが遅いぞ、クラヤマ』

「うるさいわね。子供の預かり先も見つけるの大変なのよ。それにヒース、さっきのガキは何なのよ」

『メッセンジャーだ。鍵は受け取ったな。それでコインロッカーを開けてチケットを取れ。行き先は書いてある』

「今の子に持たせればよかったじゃない。回りくどいわね」

『暗示をかけた子にそこまではさせきれん。迷子はそろそろお家に帰ってもらう。次の指示は追々知らせる』


 それだけ伝えたヒースは電話を切った。


「ムカつくわぁ・・・・・・。今度まじでどついたろうか」


///


 指示されたコインロッカーを見つけ、鍵を開ける。そこにはチケットが入っていると思われる封筒と、空の小包入れがあった。


「"礼装(れいそう)(かくし)"まであるなんて親切ね」

「礼装で足止め食らうわけにはいかないってところなんだろうな。なんせ、デリンジャーだしな」

「そうね。職質されても一発アウトだもの。日本が平和で良かったわ」


 夏喜が礼装として使用しているデリンジャーは小型とは云え拳銃であるため、銃刀法が施工されている日本では問答無用でアウトな代物なため、国内にとどまらず国外移動でも飛行機へ持ち込む際には十全な下準備が必要となる。認識逸らしの術式を組み込んだ"礼装隠"がなければかなりの難易度があり、それを準備してくれているだけ時間短縮となった。


 空の小包入れに布で巻いていたデリンジャーと弾丸を入れ、封をして魔力を通す。淡い光が小包全体に一瞬だけ発生し、封をした場所に印璽(いんじ)のような模様が浮かんだ。


「デリンジャーはこれで良し、と。さてと、あとはチケットね」


 封筒を開けると、2人分のチケットが入っていた。名前はもちろん偽名だが、なぜが夫婦扱いなのかどちらも"TANAKA"と書かれていた。


「もう少し捻りなさいよ。行き先は、――おっ!」


 到着先の空港名を見て、夏喜のテンションがわずかに上る。久しく訪れたことのなかった観光地だっただけに、未だ知らされていない仕事内容よりもフリーのときに何をするかワクワクしていた。




_go to "Tropical".

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