Paragraph 5/懺悔の火/Spark
「いやぁ。ログハウスで焚き火とはまたオツなものだね」
夜が深くなり、紫桃家にはキャンプ場さながらな広いスペースがあった。宗谷が用意した焚き火台に火を焚べ、パチパチと薪が燃える音が闇夜に溶けていく。
「藍那、その薪取って」
「この大きいの? ナッちゃんどうするの?」
「割るんだよ。そのままだと非効率だろ」
太めな薪の木目に刃渡りのあるナイフの刃を当て、ナイフの峰を別の薪で叩いて刃を落としていく。わずかに薪に食い込んだナイフは、叩く衝撃でどんどん割けて真っ二つになった。
「うん。昔取った杵柄ってやつだ。まだまだいけるね」
「ナッちゃん上手ね~。ナイフで薪を割るなんて」
「バトニングって言ってな、ちょっとしたキャンプの技術だよ。いちいち重たい斧を振り回すよりずっと楽だからね。焚き火の前でやるのも風情があっていいだろう」
力の弱い女性でも比較的安全な薪割りを数回こなし、太い薪を程よい大きさにして火に焚べる。
「宗谷君はどうした? もう寝たのか?」
「パパは明日お仕事だから。アーちゃんは学校あるしね」
「いやぁ、寝床作る前に酒盛りは失敗だな。ソウジロウに悪いことをしたよ」
「アーちゃんのお部屋で仲良く眠っていたからね~」
「・・・・・・なぁ、藍那。君達が魔法社会から遠ざかったのは、やっぱり葵のためか?」
父親が第五魔法協会の大幹部である紫桃家は、魔法に関わる連中から見ればサラブレッドに等しい。そのはずなのに、宗谷は不動産会社に勤め、藍那は専業主婦として身を潜めている。葵も普通の学校に通い、魔法とは程遠い生活をしていた。
「うーん。アーちゃん、魔法の適性がなかったからってのもあるけど、もともと私の能力もあまり使いたいものじゃないからね。パパンは渋々だけど、いろいろ協力してくれて助かってるよ」
「神託、やっぱ荷が重いか?」
藍那の魔法の能力は稀有なものであり、未来予知に近い性質を持っている。持つ者が悪ならばそれだけで問題になるものだけに、藍那が制御できるようになるまでは厳重な監視の元にあり、人との関わりが希薄な幼少期を過ごしていた。それも伴い、藍那にとってその当時からの付き合いがある夏喜には絶大な信頼を寄せている。
「今は完全隠匿生活だからねぇ。しばらくは大丈夫じゃないかな。何かあればパパンが助けてくれるから」
「君ねぇ、少し楽観しすぎじゃないかい」
「楽観じゃないもん。ちゃんと確認しながら生きてます~。これもアーちゃんのためだもん」
「君の血を引いてるもんな。悪用しようとするやつがいても不思議じゃない」
「そ。だからココにしたの。いつでも綱渡りだけどね。けど、私もパパも、アーちゃんのために出来ることは身を粉にしても痛くないの。仮初の平穏でも、私達にとっては大事な人生だから」
バチバチと薪の水分が弾ける音がする。小さな火の粉は宙に舞い上がるも、風の冷たさですぐに輝きを無くした。その様子を眺めながら、夏喜は藍那の母としての覚悟を感じている。
「でも、ナッちゃんが母親って、なんだか似合わないよね」
あぐらチェアに座る二人。藍那は膝を抱え、夏喜に意地悪な笑顔を浮かべて見つめている。
「嫌な笑顔で嫌なことを言うな。わたしだって不安だよ。いきなり5歳児のシングルとは、子育ての一も知らないし懐かれてないし」
「ジューダス君はお父さんみたいに見えるよね。何が違うんだろう」
「そうだよなぁ。答えが一つのものは楽なのに、いくつもあるとなると一気に難易度が上がって不安になるよ」
「ン~。ならさ、ソウジロウちゃんうちで預かる?」
「不安なのは不安だが、これはわたしの仕事でもあるからね。それに君の一存だけでそれは決めれないだろう」
「部屋なら余ってるし、アーちゃんとは仲良いし、それにナッちゃんの家ともそんなに遠くないから良いかなぁって思って」
「嬉しい提案だけど、わたしだって大人だ。子供の一人や二人、養うだけの経済力も甲斐性も持ち合わせているよ」
「そっかぁ。私はどうせいつでもいるからさ、託児所として使っていいからね」
「逃げ道作って追い詰める作戦か? 頼らないように善処するよ」
ちなみに。数日後には頼らざぬを得ない状況になる夏喜であった。
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