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【ラジオドラマ化】氷の聖騎士「だってどうみても幼女にしか見えないじゃないか!」

作者: 日下部聖

最強ようじょ(概念)が好きな私が昔の作品をリメイクして好きに書いただけ。



設定も細かくないので、


魔物→人類の敵

聖騎士団→魔物を斃す

聖騎士→その幹部。すごい。つよい。

聖騎士長→いちばんつよい。えらい。


くらいに思っていただければ大丈夫です。

「いやぁ、初めて会った時はほんとにびっくりしちゃいましたよ。ほんとにそっくりなんですもん!」


 澄み渡る青天の下、首の下で2つに分けて結った長い緑なす黒髪を風に靡かせながら。

 10にも満たないような見た目の愛らしい“少女”は、

 あっけらかんと言い放った。



「わたしの自慢の後輩――若い頃の、君のお父さんに!」







「はじめましてっ。本日はよろしくお願いしますっ」


 ぴょこんっ、と下がったまるい頭を見下ろして、僕――クルト・シュタインベルクは非常に困惑していた。どうしてこうなった……。

 まさか、と思った。不敬にも、聖騎士長様が指名する者を間違えたのかとすらも思った。

 いやそんな、おかしいじゃないか。今日僕と合同任務に当たるのは、経験知識ともに豊富な騎士だと聞いていたんだが――。


 まあ要するにだ。

 彼の目の前で頭を下げているのは幼女だった。


(なんでだ……!!)


 小さな身体にぴっかぴかの騎士服を纏い(どっからどう見ても新品だ)、下げた頭はまんまるで小さい。いや当然やりはしないが片手で掴めてしまいそうだった。

 長い黒髪に、透き通るようなラピスラズリ色の瞳。くりくりとまあるい目を直視して、僕は思わず眉間の皺をつまんでしまった。

 そもそも、こんな小さな女の子をSランク魔物デモンの討伐に連れてけ、というのか。いくら聖騎士長様のご命令だとはいえ、あまりに無茶がすぎるのではないだろうか。




 ――フロラシオン皇国聖騎士団。

 有史以来人類の敵とされる怪物、魔物デモン。どこからともなく現れ、人を敵視し、殺す、異形の化け物。個体の中には人を喰らい血肉にするものも存在している。

そして、その魔物を討伐する組織の中でももっとも規模が大きいとされるのが、その皇国聖騎士団であり……僕が所属する組織でもある。

名称こそ騎士団とあるが、別に軍事を担当しているわけではなく、あくまで魔物に対抗するための組織だ。聖騎士団とはあまり仲が良くないが、対魔物以外の国防は陸海軍が担っている。

 そして、魔法もしくは剣、あるいは戦術考案など、広義に戦闘に長けた者のみが厳しい入団試験を突破することができ、正式に聖騎士団員になることで、魔物を討伐する騎士を名乗ることができるようになる。

 はず、なんだが――。


 なんで幼女?


 僕は内心、盛大に頭を抱えた。

 いったい、どうすればいいと言うのだろう。


 今回僕に回ってきた任務とは、とある山岳中腹で起きた集団失踪事件に関するものだった。事件解決にと派遣された上級騎士たちも尽く音信不通になり、その結果僕が出張る事態となった。

 にも関わらず、幼女__いや字面が悪いから少女と形容すべきか__が任務に同行するという。派遣されるのは、任務を完璧に熟すために必要な、経験豊富な人材であるという話だったはずだ。

 どうしてこうなった……。


 ……騎士団の中でも、優秀な討伐成績を修め、幹部とされるのが【聖騎士パラディン】。僕はほまれ高きその役職に、20歳――史上最年少で選ばれた。光栄なことだ。

 そして今回は、聖騎士として初めての任務だった。

 戦闘に関して、氷の聖騎士の名を冠するものとして、ある程度の自信がある。父も引退して商人になる前は、氷の聖騎士の名を皇帝陛下から戴いていたそうだ。僕はこの名に誇りを持っているし、聖騎士長様に与えられた任務は完璧に熟すことを己に課している。

 だが。

 だけど。

 しかしながら。

 上級騎士たちが軒並みやられるような現場に、小さな少女を連れて行き、守りつつ魔物と戦えるのかと言われると正直どうなんだという感じだ。


 完璧に熟すために必要な人材、ね。

 うん。


 ……やっぱり間違いではなかろうか。


 背中に担いでいる剣が引き摺られているんだが? 剣、大きすぎないか? それ、振れるのかきちんと。怖い。見てるだけで怖い。

 一応は試験を通っているはずなので、確かに力がない、わけではないのだろう。が、些か幼すぎやしないか。天賦の才を持つ人間はいるものだとは言うが、ここまで小さな剣士は初めてだ。十代前半で入団する天才もいるらしいが、この子はその類か?

 騎士服の様子からして、いや別に服云々がなくとも、完全に新人だ。初任務の可能性すらあるんじゃないか。どこが経験豊富であると……?


「……ええと。こちらこそよろしく頼む」

「はいっ!」


 とりあえずは、と挨拶を返すとこれまたいい返事。

 愛らしい笑顔を満面に湛える、よ……少女を見て、僕は思わず頭を撫でてしまった。えへへと照れくさそうに笑うその様子は、まさに騎士ではない普通の子供のようで。


 ……本当にどうしたものだろう。

 騎士とはいえこんな小さな子に怪我をさせるわけにもいかない。僕の心が死ぬ。

 それに、もしかしたらやんごとない身分の少女が魔物討伐に加わりたいとわがままを言った結果、間違いで高ランク任務に連れて来られてしまった、という可能性もなくはないだろう。そうなればますます怪我をさせたらまずい。


「僕はクルト。クルト・シュタインベルクだ。よろしく」

「これはごていねいにっ! わたしはサラ・テンペスタといいます、ええと……シュタインベルク……ん?」


 何かを思い出したような少女がぱちぱちと目を瞬かせて僕を見て首を傾げる。そして、視線を固定したまま動かなくなる。

 見る。

 見る。

 まだ見る。


「うーん、どっかで会ったことあるなっておもったら、やっぱりそっか……」


 そしてサラは、そう、ぽつりと呟いた。

 

 ……いや初対面だが。

 間違いなく話したこともないが。

 僕はたしかに任じられたばかりではあるが聖騎士だ、確かに名はそれなりに騎士たちのあいだに伝わってはいるはずだが、新人である彼女が把握しているのかどうかはわからない。兄弟姉妹に騎士がいるんだろうか。それは有り得そうな気がする。

 あるいは、もしかしたら1度助けたことがある少女なのかもしれないと思ったが……残念ながらサラの姿は記憶の中にはない。


「あのう、クルトさま。わたし、聖騎士長様からご命令をいただいたんですが、内容についてはくわしくおうかがいできていないんです。お手数ですが、内容を教えていただけませんか?」

「……君は本当に僕の合同任務の相手だったのか」

「えっ疑われてた? ひどいっ! こんなナリですがお仕事はちゃんとできるんですからねっ」


 サラは憤慨したように頬をふくらませて怒っているが、うーん……。

 ……いやまあ10に満たないであろう幼い少女だ、発言に多少の支離滅裂さがあっても仕方ないのかもしれない。

 何より詳しくつつけば泣いてしまいそうだったので、追及することはやめておいた。

 ……それに。


「聖騎士長様のご命令と言ったけど、君はきちんと聖騎士長様のことを知っているんだな」

「? もちろんですとも! フロラシオン皇国騎士団員としては当然のことですっ」

「いい心がけだな」


 新人騎士は騎士団の階級構造について詳しく把握していない場合も多い。魔物デモンの討伐部隊に配属される人間の中には、魔法力や戦闘力自慢の平民も数多くいるためだ。僕も、多少裕福ではあるが平民の商家の出身だ。

 が、どうやら彼女は違うらしい。年相応の幼い振る舞いをするが、年齢より遥かに聡明な少女のようだ。


 そう思って褒めると、きょとんとしながらも、サラはありがとうございます! と元気にお礼を言った。えらいえらいと思わずまた撫でてやると、えへへと照れくさそうに笑った。

 はじめは驚いたが、やはりこの歳にしてはしっかり話すし礼儀も弁えている。

 経験の有無はともかく、聖騎士長様が推薦するだけの知識や能力は、きちんと備えているのだろう。


「それでは歩きながら説明をしよう、サラ。今から僕たちが向かうのは、一般人に加え上級騎士も失踪が相次いで報告されている、ある山中の村だ」







 ――任務の概要とはこうである。

 その山は昔から何かを祀る神殿とやらがあることで登山客が多く、それなりに名の知られたある意味での『観光地』だったらしい。何しろ山であるので、毎年数人の行方不明者は出てはいる……のだが、ここ数年消えていった登山客が明らかに増えているのだという。しかも何故かおおやけの捜索隊は動いていないらしい。



「……それで、山の中の唯一の村があれなんですね?」


 日が傾きはじめたあたりで山を登り始め、集落らしきものが視界に入る頃になると、既に日はほとんど沈んでいた。

 そうだよと答えると、サラはふわふわした笑顔で、うわあ怪しいにおいがぷんぷんしますね、と言う。なんとも緊張感が薄い感想である。


「……それでどうしましょうかクルトさま。手がかりなしの状態で日も沈んでいますし、村中かたっぱしから探し回るわけにもいかないですよね? 今日はここに泊まってみるしかないんじゃないかと思いますけど……」

「その通りだな。とはいえ罠は警戒する必要はあると思うよ」


 そうですね、とサラが神妙な顔で頷いた。

 ……あまり考えたくはないことだが、村の人間が魔物の協力者であることも視野に入れておく必要があるだろう。魔物デモンはランクが高いほど知性が高く、人間の姿に近づいていく傾向がある。今回は、上級騎士が数多くやられたということで、魔物の想定ランクは、元はBだったものが最高ランクのXに次ぐSに修正されている。だからこそ聖騎士である僕が討伐に派遣されたのだ――Aランク以上の魔物は、僕らの言う魔法によく似た異能を使うようになり、討伐難易度が劇的に上がるために。

 ……それに、よほどの敵でなければ、騎士の中でも優秀な上級騎士がことごとく魔物にやられるなんてことはないだろう。ならば油断してしまう相手、つまり人間に何かされた可能性が高い。


「でもどうしましょうね。わたしたち、なんと言って泊まらせてもらいますか?」

「登山客を装うしかない、と思う。登っていたら日が暮れたから宿を貸してくれ、という感じで」

「それはそうですけど〜……ええと、わたしたち、どういう設定にします? きょうだいとかでいいですか?」


 うーん、確かに設定は必要か。

 まあ、任務に来た、などバカ正直に言っていいかは微妙なところだ。人間が魔物デモンに協力している可能性があればなおさら。

 それにしても兄妹か、と僕はうなる。


「……いや、それは無理があるんじゃないか」

「えっ無理なんですか、どうしてですかっ」

「きょうだいというには年が離れてすぎているような……」



 途端、何故かサラの目が据わった。



 おっそろしいほど冷たい目だった。ほけほけした笑顔の名残はどこにもなく、殺気すら感じ取れる。

 これ、どう考えてもこれは少女のする目じゃないだろ。

 突如がらりと変わった雰囲気に、普通にたじろぐ。え、いきなり何、怖いんだが……。


 そしてその、おっそろしいほど冷たい目をしたサラが、吹雪のごとき声で問う。


「……どういう意味ですか? クルトさま」

「い、いや、僕と君では10ほど年の差があるだろ? 僕と君はその関係をゴリ押しするにはあまり似ていないし、それに加えて年が離れているとな、という話で」

「ああなんだ、そういう意味ですかぁ〜!」


 ……逆にどういう意味だと思ったのだろうか。

 なんだか地雷のような気がしたので聞かないことにした。







 ――結局叔父と姪ということに落ち着いた。

 兄妹にしては似ていないが、なんとか二親等ならいけるだろうという判断だった。事実、受け入れてくれた村1番の金持ちらしい薬師はそれで納得してくれた(ちなみにサラが考えた山に来た理由は、母はおらず、父が病気になったので、2人で神に病状の回復のお祈りをしにきたのだというものだった。細かいところまで拘るのだな……と僕は思った)。


「うーん、少なくともこれまで目立った動きはないですねえ。もちろん、まだ警戒する必要はありますけど……そう思いませんかおじちゃん」

「そうだな、今夜にも調べられることは調べてしまおう。それからおじちゃんはやめてくれ。僕はまだ20なんだから」

「誰が聞いているかわからないから……」

「ウ……」

「まあいないんですけどねだれも」


 僕が黙り込んだその瞬間にあっけらかんと言い放つサラ。

 おちょくられている……。

 さすがにこれは怒っていいんじゃないか、僕が上司でこの子は部下なんだから、と考えていると、不意にサラが辺りに視線をめぐらすそぶりを見せた。


 ……ここは薬師の家の客室の1つだ。

 チェストや照明、ベッドなど、山奥の邸であるにも関わらず舶来の調度品まである。

 村1番の金持ちとはいえ、街に比べて閉ざされた空間の山の中に、邸と言える広さの家だ。いったいどこから金を得ているのか。

 腕のいい薬師、医者といえども集落の者から得られる金なんてたかが知れているだろうに。登山客が怪我をした時に治療を施し、金を貰っているのだとしても――違和感は残るな。



「失礼いたします。食事の準備ができましたが、いかがなさいますか」


 と、その時、ハウスメイドの装いをした女性が、ノックとともに入ってきた。

 僕は「わざわざありがとう」と応えて微笑む。


「そろそろいただこうと思います。すみません、突然お邪魔してしまったのに」

「いいえ、お気になさらず。……あの、」

「どうかしましたか」


 不自然に動きを止めた女性に首をかしげる。 

 だが彼女ははっとしたように肩を揺らしたあと、いえ、と微かに耳に届く程度の小さな声で答えた。

 ……何か言いたいことでもあるのだろうか。

 ちらと横にいるサラを見遣るが、彼女は落ち着いた静かな笑みを浮かべたまま動かない。


「それでは、失礼いたします……」


 それだけ言うと、彼女は頭を下げて客室から出て行った。

 様子がおかしかったようだが、やはり話したいことがあるならきちんと聞いた方が良かったか、と思って少しだけ唸る。こちらからも話を聞くことができたかもしれないのに。

 少し悔やんでいると、ちょいちょいと袖が引かれた。


「クルトさま、クルト聖騎士さま」

「ん? どうかしたか」

「い〜え〜、ただ今の方、とてもきれいなひとだったなあって思ってっ! 娘さんですかねえ、薬師さまの」

「娘? ハウスメイドのような装いをしていたから、使用人じゃないか?」

「でも、所作はとても上品できれいでしたよ? 薬師さまと、お顔もよく似てたとおもいます!」


 たしかに。

 だが、仮に娘だとして、何故娘に使用人の真似事なんてさせているんだろうか――。

 と、僕が首を捻っていると。

 出し抜けにサラがにやついた笑みを零した。


「うっふっふぅ」

「サラ?」

「あまり浮いたお話はなさそうですけれど。クルトさまはどういった方が好みなんですか?」

「……ん!?」


 予想外の質問に思わず両眉を跳ね上げさせると、サラはにまあとさらに笑みを深める。


「うっふふふ、今の方みたいなおしとやかで静かな方がいいですか? それとももう少し勝気でおてんばな」

「……」

「どうしましたか?

あっ、もしかして年上が好みですか? それとも年下? うふ、いいですよねえ、きれいなお姉さまでも、甘えてくれる小さな女の子でも、どちらもでも。あ、もしかして想い人がいらっしゃったりするんですか? ねえねえ、教えてくださいよう」

「……」

「あれ、クルトさま? だいじょうぶですか?」

「……いや、悪い。そういうことじゃなくて、」僕は頭痛をこらえながら言った。「少し驚いていて」

「何にです?」

「君くらい幼い少女が、これほどまでに下卑た笑いができるのかと……」


 ひどい! と叫びさめざめと泣くサラ。

 いや本当に、まるで社交の場で見合いを勧めてくる貴族のマダムのようだったぞ。


「で、どうする? 食事に行く前に調べてみようか」

「え、放置? 女の子が泣いてるのに放置するんですか……??」

「先程から君は周りを見回して何か考えていただろ? 気がついたことがあるなら、言ってくれ」

「えーん、びっくりするほど華麗にスルーするよう……」


 わかりましたよう、話しますよう、とべそべそしながらサラが顔を上げ、


 ――次の瞬間、彼女の雰囲気ががらりと変わった。


 彼女は、静かな目をしていた。

 まるで百の時を生きた賢者のように凪いだ瞳だった。先程見た、年相応にべそをかいた情けない表情の名残はどこにもなく、ただ不穏な静謐さがあった。

 嵐の前の静けさがごとく。


「――やっぱりここのおうち、怪しいです。戸口に飾ってあったものも舶来のものですし、調度品も高級品。ただの薬師がここまでの財を築けたのは不可解です。気配からして薬師さまの正体が、魔物デモンが人間に化けている姿である……という訳ではないと思いますが、それはともかく何かあります」

「え……ま、まあ、確かに」

「そもそも邸自体がさほど古くないように思えます。先祖代々ここに住んでいるわけではないみたいです。つまり越してきたんです、薬師さまは。どこかから」

「……なるほど」

「おうちを見るまでは、この集落で『もっともよく人を泊める者』が魔物と通じており、かつ登山客を生贄にしているだけの案件かと考えていました。騎士もそれに巻き込まれただけかと。さらに言えば、その魔物は家族である可能性が高いのではないかとも」


 だが姿を見せた娘らしき女性は魔物ではなかった。……ならば妻か他の子供かという話になるが、それだけだとこの家が富を得た理由にはなりえない。

 山の集落の薬師が、この家だけが、これほどまでに富んでいるのは一体何故なのか。


「ちょっと調べたいことができました」


 おもむろにサラが立ち上がる。

 外見に囚われて、認識が遅れたが――彼女は子どもでありながら、大人顔負けの頭脳を持っているのではないか?


「クルトさま。ぜひお力をお貸しください」







「これは聞いてもいいのか迷っていたんだが、聞いてもいいかな」



 内容によりますねぇ、と。

 僕の問いに、彼女は入った部屋の床を叩きながら応えた。


 食事を頂き、客室へと戻る帰りの道。僕らはあえて部屋には戻らず、薬師の目を盗んで調査を進めていた。

 夜の屋敷は人の気配がしない。森閑とした山の奥、そこにあるひとつの集落。その中で1番の金持ちの邸。

 娘と2人暮らすだけの住処に、わざわざここまで贅を尽くした邸をしつらえる必要があるのか、という彼女の疑問はもっともだと思う。魔物デモンの気配は不思議と感じないが、違和感はどこまでも付きまとう。


 サラは先程から、いくつかの部屋に入っては床の音を叩いて反響音を確かめていた。

 これでもし魔物デモンとは無関係の屋敷であれば、不躾極まりない振る舞いではあったが、恐らくこの邸と薬師が黒であることは間違いない。僕に部下を咎めだてる理由はなかった。


「もちろん聖騎士さまからのご質問ですから、せいいっぱいお答えしたくはありますけど。でもわたしにも、言えないことはありますよ?」

「ああいや、無理に話して貰おうとは思わない。ただ君のような幼い少女が、どうして聖騎士になろうと考えたのか、気になってな。……勿論、話したくなければ言わなくても構わないよ」

「幼い……、ああ、なるほどぉ。ふふ、だいじょうぶですよクルトさま。そっちだったんですねっ」


そっちとはどっちだ?

僕はまた首を捻るが、サラは気づかなかったのか、ほわりと雰囲気をやわらかくさせると少し目を伏せて、「よくある話ですよ」と言った。


「……わたしの家は、母の生家がいわゆる良家で、陸軍にも影響力を持っていたので、それなりに裕福だったんですが、ある日いきなりAランク魔物デモンに襲われたんです。父母は仕事で出ていて無事だったんですが、弟とわたしを除き、きょうだいは全員殺されまして。さらにわたしがこれまたやっかいな呪いにかかってしまったんです。多分、魔物の、呪いの魔法でしょうね。

その時は親が生きていたので、あと家財もそれなりにあったので、聖騎士団に入らずとも生きてはいけたんですが……呪いを解く方法を探るためにはそこに身を投じることにしたんです」

「そう、だったのか」

「わたしの身体には魔物の呪いが馴染んでしまっていたらしく……聖騎士長さまでも解呪は無理なんだそうで。こまったことです」


 苦笑したサラが、再び視線を床に戻した。

 彼女がこんこんと床を叩く音を聞きながら、僕は口を閉じる。


 ……ちり、と。

 平静を装ってはいても、彼女の黒い瞳の中では、怒りと悲しみの炎が燃えている。

 あまりにも――あまりにも幼い少女。

 そんな彼女が聖騎士団に所属しようとした理由の一端が、少し見えた気がした。

 少しだけ、気持ちが分かるような気がする。

 僕も商家の出身でありながら騎士を目指したのは、幼い頃、友人が魔物に喰い殺されたからだ。


「……だが、ご両親は君が騎士団に入ることに反対はしなかったのか?」

「しましたよ。しばらくはしていましたけど、まあ、今はもう……両親も死んじゃったので。あ、魔物のせいとかじゃないですよ。老衰です。安らかな死に顔でした。さみしかったですが、そこはちょっと安心です」

「そうか、それは………………」


 ――いや、老衰???


 聞き間違いだろうか。

 サラの両親といえば、へたをすると僕と彼女の年の差より、僕とサラの親の年の差の方が小さくてもおかしくはないはずだ。まだ30代、40代のはずではないか――いや20代でもおかしくはないのに流石に50代ではないだろう。

 ではなぜ死因が老衰か。


 ……いや、考えるの、やめとこう。

 そこはかとなく深堀りしてはいけないところな気がする。


「あ、」


 と、そこで。

 サラが床を叩くのをやめて、軽く目を見開いた。

 そして、心底楽しそうに、その口が弧を描く。

 僕がどうした、と尋ねるよりも先に、サラがおもむろに床に手を伸ばし、

 ……そして、がたりと音がして。


「ビンゴですよ。クルトさま」


 床にあった隠し扉が開き。

 ひと、1人ずつならば入れそうな隙間から、地下へと続く階段が見えた。







 灯りひとつない闇の中でも騎士はだいたい夜目が利くため、無理なく足を進めることができる。たいてい夜に現れる、闇に紛れて人を襲う魔物に対処するには、月明かりもない朔の日も、地形を把握し攻撃をしなければならないからだ。

 ……だからこそ、階段を下って、降り立った地下に灯火がなくとも、僕は容易に周りの様子を把握することができた。


「サラ、足下に気をつけて。さほどじゃないが、地面が少し湿っているみたいだ」

「はい、クルトさま。ありがとうございます!」

「こわかったら服の裾をつかんでいていいからな」

「ふふふ、クルトさまは優しいですねえ」


 うれしそうに笑い声を漏らしたサラが、素直にきゅっと服のすそを掴むのがわかる。うん、と僕は1つ頷くと、視線を辺りに巡らせた。

 だんだんと暗さに目が慣れてきている。これならどこに何があるか、目で確認できそうだ。

 今は、ここに人はいないようだ。

 とはいえ、ずっと使われていない、というわけでもないようで、人の気配の名残がある。きっと、つい最近にここに誰かが入ったんだろう。


「あまり広くはないみたいだな」

「そうですねぇ。……ただ1つ音の反響からして、ここはただの部屋じゃなさそうですよう」

「ん、どういうことだ」

「……今、わたしたちのいる壁際から、道の反対側に十数歩、歩いてみてください」

「わかった」


 ひとつ頷き、言われたとおりの方向に足を進める。

 少し歩いたところで目の前に障害物があることに気が付いた僕はそこで足を止め、そしてそれに手を伸ばし……目を丸くした。


「これは、」


 僕が掴んだのは、鉄格子だった。

 障害物は壁ではなかった。鉄格子のあいだに手をやれば、さらに奥に空間がある。

 手が感じる、鉄格子を越えた檻の中の空気は、地下室のそれよりも心做しか湿っており――また澱んでいて冷たかった。


「まさか、地下牢か……!」

「まちがいないですね。しかも牢はいくつもありますし、やはり薬師さまが人を攫っていたんでしょう」

「ということは、ここに囚われた客や騎士たちはやっぱりもう、」

「……さて、それはどうでしょうねぇ」


 え、と僕は目を見張る。


「……そうじゃない、のか?」

「薬師さまが知性ある魔物デモンと繋がっていると仮定した上で、ここにある地下牢に囚われた人間すべてを捧げていたとすると……あまりにここは魔物の臭いが薄すぎる。魔物が無関係の人攫いというのも不自然ですが、捕らえた人間すべてを献上していたというのもまた不自然です。となると」


 淡々と分析を進めるサラが、自身も手を伸ばして鉄格子に触れた。

 ――そして。



「……なるほど、そういうことか。

若様がわたしを派遣した意味がやっと判りました」



 静かに息を、呑む。

 サラは冷たい瞳をしていた。耳に届いた呟きもひどく冷ややかで、纏う剣気は鋭く凍てついている。


 ……本当に、彼女は、見た目通りの年なのか?

 これほどまでに研ぎ澄まされた剣気が、ほんとうに8歳くらいの少女のものなのか?

 到底信じられない。なりたてとはいえ聖騎士たる僕が、気圧される。

 その剣気はまるで嵐の前の静けさ。

 不気味なまで凪いだ海と、これからの嵐を予感させる、不穏な風向き――。


「そこで何をしている!」


 そして、突然、上から声が降ってきた。

 ……薬師の声だ。僕はすぐさま身構え、剣の柄に手を伸ばす。

 魔物を連れているかどうかは、サラによれば不明だ。だが少なくとも、相手が人攫いをしていたということは明らかだ――なんであれ、動きを封じておかなければならない。聞き出す内容によって、差し出す相手が憲兵か聖騎士団か変わってくる。

 思ったより露見するのが早い。部屋を不在にしていたのはそう長い時間じゃなかったはずだが、やっぱり向こうもこちらの動向を気にしていたのだろう。


「お出ましですね。

とりあえず、ふんづかまえてぼこぼこにしましょう」

「……君は意外と過激だな……」


 同意だけれども。

 途端、真っ暗闇だった地下室に、わずかな光が差し込んでくる。月明かりか灯火の光かはわからないが、地下室よりかは屋敷の中の方が明るい。おそらく隠し扉が開けられたのだろう。

 そして間を置かず、どたどたという足音とともに、見上げた階段が徐々に赤く照らされていく。これは灯火を持った薬師が下に降りてきている証だ。

 にこり、と。サラが暗闇の中、うっそりと笑む。


「ごきげよう薬師さま。どうかしましたか?」

「どうかしましたか、だと? それはこちらの台詞だお嬢ちゃん。余計なものを見てくれたじゃないか」

「隠し方が甘いんですよぅ。わたしたちが調査に来た聖騎士団の団員だって解ってたんでしょう?」

「薬師。隠し立てをせず正直に答えろ、登山客と騎士たちはどこだ!」



「――答えると思うか!?」



 叫び声とともに殺気、と、頭上に魔物の気配。

 今までには――少なくとも屋敷の中には――なかった気配だ。屋敷のどこに、どうやって隠れていたのか、と目を見開くが、自動的に手は腰に差した剣の柄に伸びる。

 そしてその気配が目の前に着地するよりも先に、こちらに迫るものがある……魔物の魔法か!



「ヒャッハァ! 間抜けどもめ!」

「くッ」


 反射的に剣を横凪ぎに一振りした。ほぼ同時に、振り抜いた剣が何かを斬る感触。

この感じは、植物……蔦か。蔦を操る魔法。薬師の手にした灯火のおかげで僅かに明るくなった地下の暗闇で、斬った蔦がすぐに再生するのが確認できた。

 魔物の姿も見える。土色の肌に、緑色の髪をした男性メイル型だ。

 ――強い。

 振る舞いから見て、Sランクにしては知能はそれほどではなさそうだが……魔法だけならばSランク上位の魔物デモンに匹敵するかもしれない。


 それに。


「やっぱり魔物と繋がっていたんだな、薬師!」

「だからどうした!!」

 

 魔物デモンに協力する人間は例外なく、王侯貴族であろうと捕縛され、罰を受けなければならない。

 僕は剣を構え、魔法を発動すべく魔力を手に込める。

 ……僕の氷魔法で氷漬けにして仮死状態にしてから、聖騎士団本部へ連れていく!


「ハッハハァァァ! よそ見をしている暇があるか騎士ども! こっちだよォ!」

「っ、サラ!」


 しまった、と。その4文字が頭の中に浮かぶ。

 優先すべきは魔物デモン。罪人など二の次だろう!

 くそ、聖騎士として有り得ないミスだ。守るべき新人に、強力な魔物の対処をさせようとするなど。


 ……いや、だが、なんでだろう。

 僕が薬師に刃を向け、サラが魔物を相手する。

 それで構わないと、僕は無意識に思ってしまっていたんだ。

 その分担の在り方に、まったく違和感を覚えなかった。


 

 まるで同じ技量を持つ、騎士と任務にあたっているかのように――。



「死ねッ、クソガキ!!」

「おっ、最期の言葉としてはセンスがいいですねおにーさん。ごほうびに痛くないように殺してあげましょう」


 ぶわり、と。

 風が、いや、暴風が吹き荒れる。暗い地下室に風の通り道などないはずなのに。

 錯覚か、いや違う。

 同僚たちがよく使う風の魔法よりもさらに荒々しい、そう、まるでこれは。


「【嵐よ。

風よ、竜巻よ、我が手に】」


 サラが、何かを詠唱しているのが聞こえる。踏ん張っても、なお吹き飛ばされそうな途轍もない暴風の中、しかし僕は、彼女が何と言っているのかは聞こえなかった。

 しかし刹那、荒々しい風の音は、突如止む。

 風――否、小さな嵐が、サラの手にした大振りの剣に、収斂されていく。


 これは魔法剣だ。

 上級騎士でも習得が難しいとされる、魔法と剣術を一体化させた技術――。


 サラが地を蹴った。嵐の魔法を纏わせた剣を大上段に構えたまま。

 次いで、魔物が迎撃のために伸ばした蔦ごと、首に向かって剣を振り下ろす。

そして――まるで、それが当たり前であるかのように。椿の花が、そのまま地面に落ちるがごとく、


ぼとりと、魔物の首が落ちた。



「――【そして罪人よ、花落つるを視よ】」







「さてと」


 息絶えた人型の魔物デモンを見下ろしていたサラが、笑顔のまま薬師を振り返った。我に返った僕も、鋭い目で薬師を睨む。

 サラの剣技の見事さに思わず見入ってしまっていたが、魔物が死んだ今、何に遠慮をする必要もなく、この男を捕縛できる――!


「次は薬師さま問題ですね」

「ああ。こいつを連行し、しかるべき処罰を与えなければ」

「はっ! 馬鹿を言え、騎士や客が居なくなったことに、私が関わった証拠は何処にある?

……今そこでそのガキが、消したばかりだろうが!」


 なんだと、と僕は思わず一歩踏み出す。

 しかし薬師はただの老人とは思えぬほど、禍々しい笑みを浮かべるだけだ。

 そして、ゆっくりと口を開き、



「これも全て、」

「思惑通り、ですか?」



 サラに遮られた。

 思わず、僕と薬師は同時ににこにこと笑っているサラを見遣った。しかし彼女の笑顔は変わらない。

 気を取り直して、薬師はまた口を開き、


「……証拠もなしに私に手を出してみろ、り」

「陸軍が黙っておらんぞ、ですか?」

「!」

「は……何? 軍だって? どういうことだ」


 不敵な表情だった薬師が、一瞬のうちで色を失ったのを目にして、僕は思わずサラを振り返る。

 彼女は簡単なことですよ〜とあくまでほがらかにのたまった。



「もともと人攫いの目的は2つあったんです。

魔物への献上と……それから陸軍への騎士の献上。主な目的は後者で、騎士をおびき寄せるために登山客を魔物に喰わせてたんでしょうね。魔物の中には、人を喰らう個体も多くいますから、人間と魔物が手を組むのであれば『餌』の調達の効率化がもっとも理屈に合います。

つまりこれは軍部が仕組んだ事件だったわけです」



 一般登山客は魔物に殺させる。

 そして、魔物を斃さんと集まってきた騎士は捕らえて軍に送る。


 騎士たちは聖騎士長の庇護の下、軍役から免れている。それをよく思わない陸軍の一部が、暴走して騎士を捕らえようという思考に走ったのだろう、とサラは言った。

 何せ騎士は戦闘能力が凡人とは比べ物にならない。対人戦闘ならばまさに一騎当千だろうから、と。


「軍部は血統主義と階級主義の巣窟ですからねぇ。特権階級のひとたちは、貴族である自分たちの意志に反して、平民出身の聖騎士団員が軍役を免れているのが気に入らないんですよう、きっと。彼らが皇帝陛下から優遇されているのも気に喰わないんじゃないですか? 貴族としては」


 そんな。

 僕はギリ、と拳を握りしめる。

 戦力が欲しいからと言って、そんなことが許されるのか。特権階級だからと言って、何をしていいわけではないだろうに。


「薬師さまはたしか元軍医でしたよね? わざわざお偉いさんに言われてここに来たんじゃないですか? ごくろーなことですよ」

「おかしいじゃないか、仲が良くないのはわかっていたが……それでも、方向は違っても、同じ国防を担う組織じゃないか」

「まあ、陸軍にも派閥はありますから。一部の人たちの暴走だとは思うんですけど。

でも、たしかに軍のお偉いさんが命じたなら、騎士団がどうにかするのはなかな難しいですよねえ。一部とはいえ軍部との全面戦争はあまりよろしくない。いくら聖騎士団が陛下の庇護下にあっても、この国では軍部の特権階級もなかなか幅を利かせていますから、この事件も揉み消されるのが関の山でしょう」



 ――普通なら。

 そう、サラはにっこり笑顔のまま、冷たい声で言った。



「だからこそ聖騎士長様はわたしに事態の収拾をお命じになったんですよ。軍部との折衝をはかるのは、テンペスタの一員であるわたしの役目ですから」

「なッ……テンペスタ、だと? ば、馬鹿な、そんなこと、聞いてないぞ、」

「え……どういう意味だ、サラ?」

「もう、クルトさま。言ったじゃないですか。わたし、身内が軍の有力者なんですって」


 そういえば。

 僕は彼女の過去の話を思い出して、はっと目を丸くする。……たしかに言っていた。良家の出身で、軍部に有力なパイプがあるのだと。

 僕は父が聖騎士とはいえ平民の出だ。貴族の家系には詳しくない。

 けど、これは、まさか――。


 サラはさらにいい笑顔になる。




「ご存じの通り、テンペスタ家は公爵家。多くの軍務大臣を輩出してきた貴族です。

揉み消される……いいえいっそ消されてしまうのはどちらでしょうかね薬師さま。試してみます?」









「うひゃー、緊張しますねぇ!」



 晴れ渡る蒼穹の下。

 天井一面がガラス張りになっている見事な広間の中央で、サラが小声で楽しそうに言う。


 ――聖騎士団本部。

 僕らは、聖騎士長様の執務室にいた。

 


「……まあ、そうだな。僕もここに入るのはまだ二度目だ、緊張する」

「わぁ、おそろいですね!」

「おそろいって……あのな、普通、聖騎士長様の執務室に呼ばれるなんて、聖騎士だってなかなかないんだぞ。きちんとわかっているのか?」

「わかってますよう」


 ぶう、とサラが頬を膨らませる。


 僕は薬師を捕縛し、部下の騎士を呼んで預けたあとのことを思い出す。

 あの女性も、実の娘でありながら父に使用人のように扱われ、無理やり登山客や騎士たちを魔物デモンに襲わせる手伝いをさせられていたらしく、自分も同罪だと主張して騎士に連れられて行った。あの時、僕らに何か言いかけたのは、逃げて欲しいと伝えようとしたのだろう。けれど、できなかった。彼女はあの薬師の恐怖に囚われていたのだ。彼女に罪がないとは言わないが、なんだかやり切れない。

 サラはそう悪いようにはならないだろうと言っていたが。


 ……そしてそのあと、僕は確かに聖騎士長様から、『サラ・テンペスタを聴取するから連れてきてくれ』という伝言を預かった。


 間違いはないはずだが、前代未聞だ。

 いくら最上級の貴族とはいえ下級騎士から、聖騎士長様が直々に報告を受けるだなんて――。


「やあ、クルト」


 不意に、穏やかな男性の声が、耳に届いた。

 すぐさま口を閉ざした僕らは、ほぼ同時にその場に跪く。

 ゆっくりと近寄ってくる衣擦れの音を聞きながら、2人はじっとその場で待つ。

 そして。


「素晴らしい活躍だったと聞いている。聖騎士就任まもなくで、難儀な任務を割り振ってしまったが、滞りなく済んだようだな」

「はっ。それはここにいるサラ・テンペスタの尽力があったからこそです」

「ああ、そうだな。……ありがとう、サラ。また騎士団に戻ってくれて、とても嬉しく思う」


 は? 

 聞こえてきた言葉に、僕は目を見開いた。

 ま、待て。団に、戻る? 後輩……?


「お久しぶりでございます、若様……いいえ、今は聖騎士長さまでしたね。何年ぶりでしょうか。ああ、本当に立派になられて。サラは嬉しいです」

「若様はやめてくれ、サラ。確かに私の父も聖騎士長だったが……この職は世襲制ではないのだから」

「そうでした。申し訳ありません、聖騎士長さま」

「構わないさ。……こうして言葉を交わすのはゆうに十年ぶりくらいだろうか。今回もよくクルトを導いてくれたと聞いている。突然無理を言ってすまなかった」

「いいえ~。久々にライオスといっしょに戦っている気分でしたから、楽しかったですよう。さすがはライオスの息子さんです!」


 引退? 十年ぶり?

 というかなんでサラが、僕の父親の名前を知ってるんだ……?


「聖騎士長さまのお願いですもの、当然です〜!

 ……それより、今回の騒動、まことに申し訳ございませんでした。弟にもきつく申し付けておきますので。今後同じようなことがないようにきっちり目を配っておけと。それからのちのち正式に謝罪に伺わせます」

「いいや、テンペスタ中将閣下はとてもよくやってくれている。閣下の尽力あってこそ、騎士たちが今軍役にとらわれず自由に動けているのだから」

「まあ聖騎士長さま……なんてお優しい」


 弟が中将……??


「何年経っても変わらない容姿だが、世界を回ってもやはり魔法の解き方はわからなかったか?」

「そうなんですよねぇ。でも数十年もずーっとこの姿なので、もう死ぬまでこれでいいかなとかおもってます、わたし。ふふ」

「まったく。笑い事ではないだろう」

「でもぉ、身体の機能が衰えなくていいですよぉ? 時間を止める呪いの魔法」


 なんだって……? 


「なんにせよ、戻ってきてくれて助かる。これからもよろしく頼むよ。新たな騎士服もよく似合っているな」

「勿体ないお言葉です。

元嵐の聖騎士、サラ・テンペスタ。これよりまた聖騎士団のお力になれるよう、精一杯務めますね!」

「頼もしいな」


 元、聖騎士――?


 あまりの事態についていけない僕に視線を向けて、幼女(?)が嬉しそうに笑う。



「いやあ、初めて会った時はほんとにびっくりしちゃいましたよ、だって――」





FIN.

ライオス・シュタインベルクはサラに振り回されてた彼女の後輩聖騎士です。見た目幼女のロリババアにブンブン振り回されてかわいそうな親子です。

聖騎士長はまだ若く、サラが聖騎士だった頃には「若様」と呼ばれていました。

サラの実年齢については、少なくとも彼女が聖騎士をしていたころの同僚の間では誰も触れませんでした。まあでも現在20歳のクルトの父親よりは年上で、一回引退までしているということはまあお察しなんですよね…()


ノリで書いたものですが楽しんでいただけたのなら幸いです。

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