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プロローグ

 

 きらびやかなクリスタルのシャンデリア。華やかに飾り付けられた名門校の卒業パーティー会場で、アンバー皇子の学友である法務官長の次男ジャスパーは、朗々と文書を読み上げた。


「クオーツ侯爵邸での毒殺未遂事件、ガクカラ山山道での馬車転落事故の誘発、リーシア湖水別荘での放火、ヤオラ運河での誘拐失踪事件、更にエメラルド海岸を誘導した海神獣に襲わせ、甚大な被害を出した。これら全て、セラフィナイト侯爵令嬢の仕業である事は間違いない。そしてそれらは、全てルナソル男爵令嬢を狙ったかの如く、彼女の周りで起こされた事件となっております」


 ジャスパーの言葉に、アンバーは厳しい非難の眼差しを会場の中央に凛と立つ女性に投げ掛けた。

 アンバーの腕の中には、薄桃色のドレスに身を包んだ、艷やかな亜麻色の髪のを持つ子鹿のような少女、ルナソル男爵令嬢が抱き寄せられられている。

 アンバーは震えるルナソルの肩を、まるで繊細な硝子細工に触れるように撫でると、震える程に怒りの込められた低い声で、プラチナゴールドに輝く髪を持つ、ダークレッドの艶やかなドレスを身に纏ったセラフィナイトに言い放った。


「なんとか言えばどうだ。セラフィナイト・ティエラ・ド・クオーツ侯爵令嬢。―――それらの凶行及び、ルナソル男爵令嬢を殺害しようとした容疑が掛かっているぞ。弁明及び謝罪があるならば、この場で慎んで発言せよっ」


 だが怒りを顕にするアンバーに、セラフィナイトは怯むどころかパッとセンスを広げて、くすくすと微笑むその口元を隠した。

 緊迫したこの会場の空気には場違いな程、美しく妖艶に笑うセラフィナイト。

 そんなセラフィナイトの様子に、思わずアンバーの方が思わず慄き後退りそうになる。

 だがアンバーはギリッと歯を噛み締めてルナソルの肩を力強く抱き寄せると、苛立ちのこもった怒声を上げた。


「っ何がおかしい!?」


 セラフィナイトは余裕ある淑女の笑顔を浮かべ、なんの罪悪感もなく言ってのけた。


「いえ、失礼。―――だけど、そこまで目くじらを立てることかしら?」


 心から不思議そうなセラフィナイトに、アンバー皇子の顔が歪む。


「なに?」


 セラフィナイトはパチンとセンスを閉じ、しんと静まり返る参列者達に視線を巡らせ、フフンと鼻を鳴らして微笑んだ。


「だってねぇ、皆さん。それらは全て、ちょっとした()()()()()()()()()でしょう? 違いまして?」


 同意を求められた参列者達は、同意を示しておくべきかと互いに顔を見合わせるだけ。

 ざわつく会場で一際大きな声を上げたのは、言わずもがなアンバー皇子だった。


「セラフィナイトオォッッ!! 貴様という奴はっ!! もはや言い逃れの余地はないっ! 貴様のような悪女の顔など二度と見たくはないっ! 私はここに、お前との婚約破棄を宣言するぞ!」


 ざわついていた会場が、再び一気に静まり返る。

 アンバーは荒い息を吐きながらセラフィナイトを睨み、セラフィナイトはそんなアンバーを冷ややかな眼差しで見つめた。


 音楽の止んだ冷え冷えとした会場。

 そしてそんな空気を可笑しそうに見つめる者がいた。

 それは一匹の黒猫。

 悪女セラフィナイトの愛猫にして“黒い悪魔”との二つ名を持つ、黒猫のノワールだった。

 ノワールは会場の様子を窓の隙間からそっと伺っていたが、とうとう我慢の限界だとでも言わんばかりに、上機嫌な鳴き声を上げた。



「ニャ―――ォ」



 黒猫は不吉のの象徴とも言う。

 しかしノワールに至っては、不吉そのものであった。





 ◇◇◇




 ふと、ガラリと教室の扉が勢いよく開いた。

 机にあぐらをかいて座っていた紗夜(さや)は慌ててスマホの画面を消して顔を上げる。


「紗夜ぁー。おーまたせっ」


「あぁ、真由(まゆ)。お疲れー、片付け終わった?」


「うんっ、帰ろっか」


 可愛らしくブイサインをキメる真由に、紗夜は手にしたスマホをポケットに突っ込み、軽やかに机から飛び降り合流した。


 紗夜と真由は同じ高校に通うクラスメイトだ。

 紗夜はベリーショートのボーイッシュな少女、対して真由はセミロングのゆるふわ茶髪(自称地毛)な少女。

 タイプは全く違う二人だが馬が合うのか、紗夜と真由はいつも一緒に居ることが多かった。

 今日は委員の仕事があった真由なのだが、紗夜は当然のように教室で真由を待っていたのだ。


 二人並んで歩き始めたが、紗夜は面倒臭そうに口を尖らせる。


「うん! って言ってもま、私はこれから空手道場直行だけどねー」


「おお、さっすが紗夜。もう4段になったんだっけ?」


「2段だよ」


「あれ? でもこないだ黒帯3段の紗夜お兄さんに手合せで勝ってなかった?」


「和兄ならまぁ勝てるけど、それでも2段。―――段取得には年齢制限があるのよ」


「へぇ……?」


 空手の事には実はあまり興味のない真由。

 真由は首を傾げて簡単な相槌を打つと、直ぐに共通の話題に変えた。


「それより、さっき【JEWEL・GARDEN 〜星屑の華〜】やってたでしょ!? どこまで行った!?」


 JEWEL・GARDEN 〜星屑の華〜。

 それはいま二人がハマってる、豪華美麗イラストと名高い恋愛シュミレーションゲームである。

 5人の攻略対象をそれぞれクリアして行くと、条件達成毎にに隠された超美麗ムービーが見られるようになっているというものだが、その中でも“超絶美麗”、“絵師様魂込め過ぎ!”との口コミがあるアンバー皇子の攻略ルートは、玄人でも手を焼く程の高難易度ルートと言われていた。


 だから紗夜はニィと得意気に笑い、真由に報告する。


「アンバールートで、とうとうあの悪魔セラフィーを婚約破棄させたった!!」


「イエーイ!」


 途端、打ち合わせもなく頭上で手を叩きあう二人。

 紗夜はこれまでの苦労を思い出したのか、大きく息を吐いて大笑いをする。


「もー、セラフィーマジで鬼すぎだっつの。初めて課金したよ」


「私もー。いくら入れたの? 課金なしじゃあれ絶対無理ゲーだよねぇ。本気モードのセラフィー強過ぎ……ドラゴンワンパンとか最早バグだよね?」


 カラカラと笑う真由に、紗夜は指を二本立てて言った。


「2」


「お! 私も! 2万!」


 勢いよく同意した真由だったが、紗夜は若干クールダウンして真由に注意を入れる。


「いや2千だよ。万はやばいしょ。うちら学生だよ?」


「う、……でも、じ、自分でバイトしたお金だし……?」


 一瞬目を泳がした真由だったが、すぐに気を取り直して紗夜に詰め寄る。


「いやー、あ、でも見た? 婚約破棄の後、セルフィーさんって辺境伯と挙式上げさせられるんだよね」


「辺境伯ったら“串刺し卿”って言われてたあのサディスト? うひゃー、やばー」


「あ、もしかしてまだムービー見てなかった? ストーリー背景さえ知らなきゃ超美麗神ムービーだったよ! 仮面の辺境伯と、セラフィーの豪華過ぎる挙式。ラストのルナたんらいし慎ましやかな挙式ムービーも相変わらず可愛かったけど、それ以上に気合入ってたね! 敵とはいえあれが見れたなら、あの課金に悔いはない!」


そう言って自分に言い聞かせる様に力強く拳を握りしめる真由。

そんな真由に紗夜は苦笑しながら茶化しを入れる。


「そんなに? ってかそこまでならYoTUBEとかに上がってんじゃないの?」


「それがないのよー。調査済み! マジで運営様徹底してるよ。クリアした者しか見られないよう規制強化させてるんだって。だから優越感半端ないってゆーね」


「マジか、超楽しみ。道場終わったら家でゆっくり見よー」




 何気ない日常。


 他愛ない会話。





 その時ふと、紗夜の背後からデジャヴの様な声が響いた。


「ニャ―――ォ」


 それはさっきゲームの中で鳴いていた、黒猫(ノワール)ソックリの声。

 紗夜は思わずそちらを振り返る。


 歩道を仕切るガードレールの向こう。道路の真ん中に座り込んだ一匹の黒猫が、金の瞳でじっと紗夜を見つめていた。


 そこから紗夜が目にした光景は、とてもゆっくりとした動きだったように思う。


 黒猫の座る更に後ろから、一台のトラックがやってくる。

 トラックは猫の存在に気付いて急ブレーキを踏む。

 その衝撃のせいなのかトラックの前輪が外れ、明後日の方向に転がっていってしまい、タイヤの取れたトラックは傾き進行方向をこちらに変える。

 そして勢いを殺し切れない巨大な鉄塊は、ガードレールをクシャクシャに押し丸めながら……。





(―――あ、うそ。こんなん無理じゃん)





 当たり前に続くと思っていた未来。


 しかし人の人生とは、なんとも呆気なく幕を閉じてしまうことがある。







「ニャ―――ォ」





勢いで投稿しました(;・∀・)

鬱展開なしのほのぼの路線で行きたいと思ってます!


面白い、続きが気になる!と思っていただければ、☆☆☆☆☆からの評価やブクマしていただければ嬉しいです!

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