奇跡的に自力で魅了魔法を打ち破ったのに破滅した王子の話
「だからこそ、今日この場でイザベラに婚約破棄を…………いや待て……おかしいぞ……」
壇上で急に頭を抱えて、ぶつぶつと真剣な表情で呟きだしたアラン王子。
「俺は……ルイズ嬢のことなんて……何とも思っていないはずなんだ……彼女を好きになるなんて……そんなことは絶対にありえないんだ!」
「そんな……私の魅了魔法を自力で打ち破るなんて……一体どうして……」
明らかに動揺して、言ってはならないことを無意識に口走るルイズ。そのまま衛兵にあっさり捕らえられて、引き摺られながら会場を後にする。
「……俺が愛しているのは、婚約者であるイザベラ! 君一人だけだ!!!」
先程までの自分を責め立てる演説が魅了によるものだと判明し、さらにその邪悪な魔法を打ち破った婚約者による情熱的な愛の宣言に、思わず涙ぐみ喜ぶイザベラ。他の女子生徒もアランの男らしい姿にキラキラと目を輝かせている。
「ええ、私もアラン殿下のことが……」
だがしかし、彼女の言葉を遮り、アランが放った言葉に会場の空気がピシリと凍り付く。
「俺はっ! イザベラのっ! そのつつましやかな胸が大好きなんだっ!!!」
「流れ変わったな……」と呟く男子生徒。
「アラン王子! なんと……同志でいらっしゃいましたか!」と何故か感動した様子の教員。
そしてイザベラを含む全ての女子生徒から、壇上のアランへと絶対零度の冷ややかな視線が突き刺さる。
だが、洗脳が解けた勢いのせいか、彼女たちの汚いものを見るような目つきにも気付かずに、歯止めが利かなくなったアランの熱弁は止まるところを知らない。
「まるで君の謙虚で控え目な人柄を物語るかのような、ささやかなその膨らみ。自らを激しく主張することなく、ただそこに広大な大地のようにひっそりと、それでいて確かに存在する趣深さは、まさに理想の淑女の象徴と言えよう!!」
恍惚として滔々とイザベラの胸への愛の深さを語るアランは、彼女の光を失った瞳から放たれる殺気に全く気付いていなかった。
「君自身はコンプレックスを感じているのか、時々無理に寄せたり詰め物をして誤魔化しているようだが、そんな無駄な抵抗をする必要は一切ないのだよ! ありのままの君でいてくれるだけで、それだけで十分……おいっ……やめろっ……俺をどうするつもりだっ!!!」
イザベラに耳打ちされた衛兵達の手によって、壇上のアランもどこかに連行されていく。
「……さあ、パーティーを続けましょう」
イザベラの言葉に逆らうことが出来ず、そのまま卒業パーティーは続行されたが、男性陣は皆一様に青ざめた顔をして、決して何かを視線に入れることがないよう必死になっていた。
ちなみにその後、アラン王子の姿を見た者は誰もいないという。