第八話 夜更かしの雑談
「さて、一通り目的が決まったところで出発しますか」
立ち上がり尻についた土を払い落とす。
「待て、新月といえど夜は妖魔がうろつくから危ないぞ」
「人に危害を加えるモンスター的な存在だっけか。新月関係ある?」
「新月の夜は力が弱る。だからさっきはあの程度の相手に苦戦していまったのだ」
ケイコウを『あの程度』と言うとは彼女の力の認識を改めた方がいいだろう。
ともあれ、
「力が弱るんだったら別に大丈夫だろ」
「私は龍だから平気だが、お前は襲われたら骨も残らんぞ」
「妖魔怖ぇー!」
今日の移動は危険だと判断し、この場で野宿をすることにした。
ユウトは朝からまともに休んでいないため、正直この提案は嬉しい。
だが、
「一日何も食べてないうえに固い地面で寝るって、体を休めてることになってんのか?」
文句を言いつつも腕を枕にしてその場で眠りについた。
因みに交代で見張りをする。
昨日まで平凡な生活を送っていたユウトにとっては辛くも楽しい一日であった。
そんな風に思い出に浸っていると、体を激しく揺さぶられる。
妖魔が襲って来たのかもしれないと飛び起きるが、
「おい、交代しろ」
そこにいたのは不機嫌なのか頬を膨らませたハクアだった。
「いや、まだ五分も経っていないだろ。ようやく眠れそうだったのに」
「暇だから交代しろ」
いくら何でも理不尽すぎる要求だ。
無視して寝ようと思っても再び激しく揺さぶってくる。
眠れない。
結局眠気が覚めたのでハクアと見張りを交代。
「眠れん!」
三十秒も経たない内に起き上がる。
ずいぶんと早いお目覚めだ。
「見張りも眠るのもどっちも暇だ。何か話をしろ」
眠るのが暇とは龍は睡眠をとらないのだろうか。
疑問に思って尋ねてみると、睡眠はとる。
好きな時に眠るためすぐ寝つけるそうな。
ユウトは羨ましいと思いつつ、同時にそうはならないように反面教師としてハクアを見習う。
「なぁ、お前は一体何者なんだ?」
ハクアが突然そんなことを聞いてくる。
「俺は普通の高校生だ」
無理やり起こされた件で不機嫌になっているため投げやりに答える。
「こうこうせい? よく分からんが、あんなすごい剣に化けるのは只者ではないな」
「俺も気になってたんだが、あれなんだったんだ?」
お互い分からないようで同時に首を傾げる。
「だが一つだけ分かったことがある」
続く言葉にユウトは息を飲む。
彼女は頬を赤らめ、いたずらっ娘のような無邪気な笑顔を浮かべる。
「私のことをいい奴と言ってくれたお前はいい奴だな!」
その姿があまりにも美しかった。
そうして夜は過ぎ、日が昇ってようやく朝がやってくる。
最後は二人とも眠気がきて、見張りを忘れて夢の中にはいっていた。
浅い川の水で髪を濡らし、寝癖を直しながらユウトはずっと考えていたことをハクアに相談。
「兄弟に会うっつてもさ、まずは旅の準備が必要なわけじゃん。日長ノ国には戻れないし、ここから近い国とかある?」
まだ眠いのかハクアは大きく欠伸をしている。
「ふぁ~あ。うーん、ここから近い国は『河見ノ国』だな」
「そうか……。そこにお前の兄弟は?」
「知らん。そもそも兄弟達がどこの国にいるのか分からん」
それを聞いてその場にしゃがみ込み、頭を押さえる。
「なんか龍を探すレーダーとかないの?」
それがあったらなんと便利なことだろうか。
しかし、こんな昔のような時代の世界にそんな凄い代物などあるわけがない。
愚痴を言っても仕方ないと思って立ち上がるが大きくため息をつく。
「河見ノ国までどのくらいかかるんだ?」
「分からん」
ズバリと答えるハクアにまたも大きくため息。
見渡したところ山や森などの大自然が広がっている。
さぞ遠いことだろう。
「どうするんだ!? そもそも方角も分かんねぇし、その国につく前に屍になるのがオチだぞ!?」
慌てるユウトに対してハクアは冷静に答える。
「まあ、安心しろ。河見ノ国は漁が盛んだと聞く。つまり! 海岸線を辿ればいずれ着くということだ」
「原始的な方法……」
他に選択肢がないため、仕方なくその案を飲む。