プロローグ いつも通り
うるさく鳴る目覚まし時計を勢いよく叩いて止める。
まだ眠気が残っているが、すでに目覚まし時計は三回も鳴っている。そろそろ起きないとちこくしてしまう。
のそりと上半身を起こし、何気なく部屋を見渡す。
そしてリビングに移動。
机の上には冷めきった朝食と置き手紙。
『優人へ、今日のメニューはご飯と味噌汁と昨日の残りの野菜炒め。それから今日も帰るのが遅くなります。ごめんね』
「別にいちいち謝らなくてもいいよ」
優人は頭を掻きながら手紙を丸くしてゴミ箱に捨てる。
母親は真面目に手紙を毎回書いているが、その内容はだいたい同じ。帰りが遅くなるとか、参観日には来られないだとか。
断じて否だが、距離を置かれているようだ。
優人は朝食から着替えまでの身支度を済ませて学校に行く。
「行ってきます」
両親は共働きで、おまけに一人っ子。
そのため家には誰もおらず、彼の返事をしてくれる者はいない。
扉を閉め、鍵をかける。寂しさなど特に感じない。
これがいつも通りなのだから。
▼▼▼
辺りは血で真っ赤に染まっている。
無数の人間が倒れている中、唯一立っている二人の男。
一人はスラリと高い長身に、長い銀髪を後ろにまとめた男。
もう一人は先ほどの男より小柄だが、相当鍛えられた体をしている赤髪の男。
銀髪の男は薄い笑みを浮かべながら赤髪の男に、
「これほどの軍勢を一人で滅ぼすとは、さすがだね」
「当然。この忌々しい剣もこれでようやく最後だ」
赤髪の男は持っていた剣を横に倒し、膝で叩き割った。
「さぁ、共に時代を切り開こう――カラク」
赤髪の男……カラクは何も言わず軽く頷く。
一方、折られた剣は跡形も無く消えていた。
▲▲▲
辺りは血で真っ赤に染まっている。
優人には何が起こったのか分からない。
ただ横断歩道を渡ろうとしたところで視界が暗転したのだ。
重たい頭を持ち上げると人が車から降りて駆け寄ってきている。
(そうか、信号無視の車に撥ねられたのか)
状況は理解できたがそんな事はどうでもいい。
血が流れすぎたのか、寒くなってきた。
彼のいつも通りの日常に終わりが来る。
「せめて……」
――――安曇優人は息絶えた。
それはある場所で剣が折られたのと同時に起きた出来事である。