魔界事変06 『礼拝堂』
毎日のように脱走され、強制的に隠れ鬼をやらされてきたおかげで、どれほど走ったり歩いたりしても、疲れを感じにくい体に進化したような気さえする。
螺旋階段も真ん中あたりに差し掛かったであろう所で、
『お祝いのご飯、何が出るかなぁ・・・』と、ジーナが唐突に呟いた。
ウィレムは呆れながら言った。お前は常に腹を空かしているな、と。
皇子も飯を食ってきたんじゃないのか、と聞いてみるが、堂々として食ったと答えてくる。
『減るものは減るからしょうがない』
これはジーナの口癖だった。
ジーナは華奢な容姿の少女だったが、一食で三人前を平らげることもしばしばあるほどの大食らいであった。しかし随分と長いこと彼女を見てきたが、痩せはすれど太ったような事は見たことが無い。聞けばこれはジーナに限らず、彼女の属する『死神族』の共通する特徴らしい。
貴族からはもちろん、平民の女達からもその体質を羨ましがり、時には嫉むものがいるのを聞いたことも記憶に新しい。
そんなこんなで、談笑を楽しんだり時には競争するように走ったりで、いよいよ礼拝堂が目と鼻の先に迫ったという所となった。礼拝堂の大きな扉に多くの人間が既に入っているように思え、その厳粛な空気はずっしりと三人の方にのしかかってくるかのようで、三人にその不可侵性を見せつけているようであった。
礼拝堂には既に2,30ほどが集まっていて、殆どが上流階級のようで、さらにその中でも一際上流とされる『ベリアル家』や『グラシャ=ラボラス家』の家紋を付けた者達までも見受けられる。大臣達や現魔王の実弟であり宰相を務めるオールス、そして皇子の弟、サザも皆等しく現魔王が現れ、祝辞を述べるのを今か今かと待っているかのように見えた。
【ベリアル家】【グラシャ=ラボラス家】
魔界の名家で、グラシャ=ラボラス家は互いに断絶の危機に瀕したグラシャ家とラボラス家が合併して誕生した一族で、ベリアル家はウィレムのヴァレフォル家よりも高貴とされる一族とされている。