魔界事変05 『魔王城』
城門前の広場は相変わらず閑散としていたが、城の内部からさっきよりも多くの人の気配をなんとなく感じる。
とはいえ他の都市の状況が状況なだけに、強力な戦力足り得る人間は本当に数えるほどしかいなかった。それに子供は皇子ら3人くらいなものだった。
城の横側の勝手口を見ると、先程皇子の名を叫んでいた女、家政婦長が立っていた。呆れたような顔で皇子を叱りつけると、ウィレムとジーナに礼を言い、何故か正門から入らずに勝手口から入っていく3人を不思議がりながらも見送った。
ウィレムはこれまでに何度も何度も自分に言い聞かせては来たが、やはり不安を払拭することを出来ずにいた。しかし古き伝統や歴史を愛するこの少年にとり、やはり千年を祝う日への期待を膨らませずにはいられなかったのである。
城内の間取りはなぜか定期的にその配置を変える。不規則的なものではなく、定期的に決まった配置に変わっていくというが、その詳細を知っているのはこの、マルティス皇子を始めとした魔王の一族くらいなものであった。
一度ウィレムは興味を持ってどのようにその配置のパターンを覚えるのか、と問うた事があったが、皇子はなぜわかるかは言えない。禁じられているのではなく、説明することができない、と返すばかりで何一つ意義のある答えは得られなかったのだ。
「さぁて、会場は最上階の礼拝堂だったな」
皇子は勝手口を通った先のエントランスの長い長い螺旋階段を指差す。それはそれは高いところへ繋がった螺旋階段だった。先が暗くてよく見えないが、少なくとも体力のない者は途中でバテてしまうであろう長さだった。
皇子やジーナ、そして俺もその大蛇がバネのように丸まっているかのような階段を苦なく登っていく。当然だ。こんな事でバテているようでは、皇子の面倒などとても見れたものではない。
俺もジーナも皇子の後について、階段を登り始めた。
【魔王城】
魔界帝国の首都、パンデモニウムの中心に位置する巨大な城。
外装は金属で出来ており、最上部には何かの生物のようなオブジェが鎮座する。
また内部構造が定期的に変化することから、「本当に何かの生き物ではないか」という説がまことしやかに囁かれている。