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魔界事変53 『心の世界 中編』

「人の心ンなかで喚くんじゃねぇよなマジで・・・全くムカつくぜ・・・」


『お前ハ・・・』


 そこにいたのは、ちっちゃい・・・というより幼い子どものような姿をしたウィレムだった。


「お前がジーナだな。どうやってこの世界に入り込めたかは知ったことじゃねぇが、わざわざ遊びに来たわけじゃ・・・


ガバッ


・・・っおい!なにしやがるんだ!」


ジーナはもう考える間もなく、ウィレム?を抱き上げた。


『良かっタ・・・良かっタぞ・・・こんなに縮ンじまって・・・まるでガキみたいニなっちまっタけど・・・良かっタ・・・生きてテ・・・』


 抑えようとしても涙がボロボロとこぼれてくる。はっきり言ってもう一生お別れかと思って不安で怖くて仕方なかった。でもこんな小さくなったとはいえウィレムはウィレムだ。もうこれ以上は・・・もう・・・足をばたつかせもがいているウィレムをよそに、いっそう強く抱きしめた。

「離せよお前!まずは話を聞けって!お前に抱きしめられると・・・!」


怒っているのか照れているのかわからないが、ウィレム?は顔が真っ赤になっている。何かのっぴきならない様子になったのでそっと下ろしてやった。


「全く・・・距離感のきょの字も知らねぇのかお前は・・・腹が立つぜマジで・・・」


『立ってるのは腹じゃなくテ・・・?』


小さいウィレムもそれにたった今気づいたらしく、両手で股を押さえながらこちらを睨みつけてきた。


「・・・てめぇなぁ・・・」


赤らんだ顔は更に真っ赤になり、金色の瞳を橙色に染め上げているようである。


『あたしノ弟もそうなるシ、健康ナ証拠なんだゾ!』


「くぅっ・・・ムカつくが・・・こんなことで時間を無駄にするわけにはいかねぇ。・・・付いて来いよ。」


小ウィレムが指差した先を目を凝らして見てみると、かなり小さいが洞穴のような物が見えた。


ひょいっ


ジーナは当たり前のように小さいウィレムを肩にのせた。


「おい!」


『少しでも足の長イあたしが歩いタほうが良いだロ?』


それに対する反論は返ってこない。はずかしがっているし、幼児みたいな見た目だが、中身はちゃんと道理が通じるやつだったようだ。


「あぁそうだ。わざわざ慣れてない共通語を使わなくてもいいぜ。この心の世界に言語の違いなんて無いからな。」


『ふぅ~ん・・・《ムッツリスケベ》』


「だから!言葉が違っても意味が通じるって言ったろうが!いい加減にしろよオメェは!さっきからマジで腹立つな!」


《じゃ、行こう!》


「・・・おう。じゃまずはあの岩までまっすぐ進め。それから・・・・





――――バンカー・医務室――――



「・・・と、こういう事があって、今に至るわけだ。」


「あなや・・・『革命』などという触れ込みはざん言では無かったとは・・・」


ダイゴロウは鋭い目を見開かせて漏らした。


 道行く先々でダイゴロウは治まる気配を見せない暴動を経験し、人々もまるで魂を奪われていたような異様な様子を見てきた。そのきな臭さは心のどこかでなにかの冗談だ、そう思ってごまかしてきたが、当事者から改めて知らされた事実に、ただただ呆然とするしか無かったのだ。


「・・・君はジーナをあと一歩のところまで追い詰めたそうだな。彼女は俺の知ってる中でもかなりの手練だったんだぞ?だから・・・」


「俺、いや俺たちにその手腕を貸してもらえないだろうか?」


皇子は一呼吸置いて、そう切り出した。


「・・・このダイゴロウ・・・身は達者でござります故・・・必ずや、陛下のお役に立ってみせましょうぞ。」


皇子はそれにはなにも返さず、にこりと笑った。


「さて、そうと決まれば恩賞の話だな。なにが望みだ?」


皇子は椅子に座り直し、両膝に腕を乗せた。これは皇子の物事を交渉するときの癖のようなものだった。


「そんな滅相もござりません!大義のために戦えるならば・・・」


「いやいやいやいや。俺達のところでは『功には報を』、と言うんだ。優れた功績にはそれにあった報酬を、って意味だ。一国の皇子としてその原則をないがしろにするわけにはいかないんだ。」


「では・・・・拙者の故郷では恐ろしい魔物が跋扈し、その猛々しさは多くの人命を奪うほどでございます。拙者の家族やかつての筒井筒の仲もそれが原因で世を去りました。だからどうか魔物共を止めるためのお力を貸して頂きたい。」


「ふーむ。君や同郷の者でも対処に困るほどなのだろう。・・・分かった。魔界帝国第一王子の名にかけて誓おう。人の上に立つものとして、困っている民を放っておくわけにはいかないしな。」


「ああ・・・かたじけない・・」


「さて、シェラ、君はなにが望みだ?」


「えっ!!私は・・・そ・・・そうですね・・・じゃあまずは・・・


 両手を合わせて打ち震えているダイゴロウをよそに、皇子とシェラの交渉合戦が始まったのだった。

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