魔界事変47 『二人の侵入者』
「・・・よし。ここだ。カレキの森に行く前に素通りしてきた洞窟だ。」
ダイゴロウは担いでいた重い大鎌をおろしながら、洞窟を指差した。
「へぇ、ここが。確かにこの洞窟の・・・内側を中心にまるい結界が何重にもかかってるね。そのあたりに近づくと『あれ?このあたりに用があった気がするけど何か別の事をしなきゃいけない気がする』って思わせる・・・『忌避結界』の類ね。効力の強さ、規模からしてこの結界を張ってるやつは相当の使い手・・・やっぱりこの洞窟の中に何かがあるわね。『忌避結界』は他の結界みたいに物理的な『壁』を作るんじゃなくて第三者の目的をすり替える効果があるから『ここに結界で守られるほどの物が隠されている』とそもそも認識させないけどかなり大量の魔力が必要だから金庫みたいな小さいものに使われるんだけど・・・
「・・・話が長い。つまりなんぞ?」
はばからずにべらべらと喋り続けるシェラを止めながら、ダイゴロウはその要点を求めた。
「つまり、この洞窟の中には、相当な代価を払ってまで守りたいものが隠されてるってことよ。」
「よし分かった。しかしお主・・・随分と詳しいな。」
大きな一ツ目を輝かせて誇らしげな表情を見せるシェラをよそに、ダイゴロウは大口を開けた洞窟に片足を突っ込んだ。
「・・・そうだ、あの鎌を持った娘、なぜだか知らんがワサビを集めておらんかったか?折角だし集めてから・・・」
「ほらダイゴロウ、早速結界に惑わされてるよ!」
引き返そうとするダイゴロウをシェラが諌めた。言ってるそばからこの様子だが、結界の効力はそれほどまでに強いのだ。
「あとワサビは道中こっそり拾ってあるよ!」
そう言ってシェラが懐から大きなワサビの3本入った小さいカゴを取り出したのを見て、ダイゴロウは意を決して足を洞穴に踏み入れた。
「なるほど・・・生き物の気配も、いた痕跡も無い。さっきまで雨が降っていたのに雨漏り一つ無いし・・・」
「見てみろこの壁を。」
ダイゴロウは洞窟の岸壁を持っていた大鎌で思い切り殴りつけた。すると洞窟内にキーーーィィィィィィン・・・・、と甲高い音が何重にも反響した。
「・・・岩じゃない。金属・・・?」
「惜しいが違う。特別製の結界さ。」
「!?」
「!!」
二人は真後ろの相手に気づき、振り返って身構えた。
「よく外の忌避結界を抜けてこれたものだ。子供ではないか。・・・だがお引き取り願おう。ここは禁域でな、ヤバい魔物がここを住処にしていて危険だ。だからさっさとここから立ち去ったほうが身のためだ。」
淡々と語った女は、腰に下げていたサーベルを抜き、思い切り振りかざした。
「うわっ・・・」
風圧でシェラが吹き飛ばされそうになるのを抑えたダイゴロウは、鋭い目を更に鋭くさせて言い放った。
「禁域だからどうしたと言うのだ?・・・あぁ、そうか。」
「?」
暗闇でもはっきりわかるルビーのような真っ赤な眼と髪を持った女は、ダイゴロウの独り合点の意味がわからずに首を傾げている。
「きさまの返り血をここに撒き散らせば・・・自ずと禁域になろう!」
いつの間にか刀を抜いていたダイは真っ赤な女に斬りかかった。
「ちょっ・・・バカッ・・・」
「はぁ~・・・」
ため息とともに、女が剣を斜めに振り上げると爆風が巻き起こり、轟音とともに狭い洞窟を埋め尽くすと、爆風をモロに食らってしまったダイゴロウは無惨に洞窟からふっとばされてしまった。
「さぁて、次は君の番だな。」
女のまるで人間界の夕日のような瞳が、暗闇の中で美しくも不気味に輝いて、得も言われる恐怖をシェラに与えた。




