魔界事変45 『通り過ぎた場所へ』
ー同刻、魔王城改め「開放の砦」、パンデモニウムにてー
…「遅い!あの馬鹿者は何をしているのだ!ただメディスンを連れてくるだけなのに何分かけておる!」
私はあまりにも遅いあの男に苛立ち、思わずその場にいたアリスに叫んだ。
「…彼はもうすぐ現れる。」
アリスはいつもと変わらぬ様子で淡々と答えるが、やはり虚空をうつろな目で見つめている。
「全く…」
ため息をついて側にあった椅子に腰掛けると、まるでそれを待っていたかのように、会議室の扉が開かれた。
「メディスンが逃げやがった!」
…は?
「き…貴様…」
あまりの杜撰さに思わず一刹那言葉を失ってしまった。
「メディスンの管理を任されていたのは他でもないお前だ!だのに逃げられたとはどういう了見だ!」
荒くれ者の代名詞のような男は、私の前では子犬のようで、全身から脂汗を流してビクビクしている。
「…全く…お前には失望したぞ。明日からお前はしばらく『製造施設』で働いてもらう。」
「そんな!オールス様!私にもう一度チャンスを…」
男は顔を青くして必死で許しを請うが、ここで許すわけにはいかない。計画の重要人物をみすみす逃がすとは。それなりの代償は払わせないといかん。
「…お前、この前も同じことを言っていたな。」
アリスの言った通り、こいつのミスは一度や二度では無い。軽いミスなら笑って見逃してやったろうが、今回はそうもいかない。
「とにかく、お前はしばらく製造施設を管理してもらう。わかったら荷物をまとめて今夜のうちに発て、いいな?」
「…御意。」
男は苦々しい顔でそう言うと、一礼して会議室から出ていった。
「さてアリス。街の様子を聞こうか。」
「…はい。現在パンデモニウムは……
ーーーーーーーーーーー
「ふわぁぁぁ…よく寝た…」
「ん、起きたか。」
あくびに反応して、隣からいつもの聞き慣れた声が聞こえてきた。ダイゴロウは表向き大丈夫そうに振る舞ってはいるが、紫髪の少女にさんざん痛めつけられた跡が顔や手に生々しく残っている。が、それよりも気になったのは…
「あれ…それって…」
「ああ、洞から出た少し先に落ちておった。こいつ、相当な重さだぞ。…まさに命を刈り奪る形をしておるな…」
そう言って刃がこちらに向かわないように慎重にこちらに見せてきた。
間違いない、あの娘が持っていた大鎌だ所々に補強のための素材が組み込まれているのがわかる。本来の用途ではなく完全な戦闘用に作られたものだろう。
「…それを拾ってどうする?返しに行くの?」
「持って帰ろうとも思ったが重すぎて長時間持てる代物ではない。それに叩き壊そうにもワシの力では恐らく無理だ。それなら放置しよう、と思ったが…」
「思って…何?」
「あの娘の様子を見て…何とは無しに放ってはおけぬ気がして…」
「気がしてなんだよ!?」
流石に苛々してそう返すと、(察しろよ…)と言わんばかりの苦々しい顔をして、
「…こいつを届けたら直ぐに故郷へ帰るぞ。」
と返してきた。
「なんだ、言えたじゃないの。やっぱ男だね!じゃ、行こう!」
跳ねるように洞から飛び出すと、それに追従するようにダイゴロウも肩にずっしりとした鎌を抱えてゆっくりと出てきた。流石に刀を一本持ってやろうか、と聞いたがその必要は無いらしい。
私とダイゴロウは、あの少女の走っていった道をたどるように、ゆっくりと歩き出した。




