魔界事変37 『シェラの動揺』
…どうしよう…
1つ目の娘は巻き起こっている戦いを、遠目でじっと見ていた。
あの紫色の頭した子…途中まではダイゴロウに倒されそうだったのに、突然あたりが真っ赤になった後から急に「おかしくなった」。
これまでの戦いを…見ていたけど、あの紫の中のエネルギーはすっからかんの状態だったのに…赤い光を浴びたあとは溢れんばかりのエネルギーが溢れている。
この目で多くの物事を見てきたから分かる。あの紫は恐らく自分でも抑えられないほどの負の感情に支配されている。
このままこの戦いを見ていれば…
シェラの頬に一筋の汗が伝う。
このまま遠目で見ていれば…ダイゴロウが殺されてしまう。それも最も惨たらしいやり方で。
ーーーーー
《まったくよぉ…なんでこんな立て続けに嫌な目に合うんだろうなぁ…》
紫の髪をした敵は、また訳の分からぬ言葉をぶつぶつと呟きながらこちらにゆっくりとよってくる。
うなだれながら鎌を引きずる様は本能的な恐怖を呼び起こす。
[妖の…
力を開放するために空気を思い切り吸い込もうと口を開けた瞬間、口を塞がれて何度も何度も大木に叩きつけられる。
《おい!調子こいてんじゃねぇぞこの腐れカッペのクズ野郎が!》
何を言っているのかやはりわからないが、感情に任せて激しい罵声を浴びせてきているのは分かる。
骨が何本も折れてしまったらしく、全身に激しい痛みが走り、ダイゴロウは身をよじらせた。
『しね』
今度は聞こえたはっきりとした言葉と共に、眉間に向かって鎌が振り下ろされた。
その凶刃は、何故か眉間には届かず、狙いを大きく外してダイゴロウの耳の端を掠った。
「……」
『……』
予想外の自体だったのか、ジーナも鎌を握った手をじっと見つめている。
「ぐぅっ…」
今度は空いた手で首を掴んで持ち上げられた。近い背丈の娘とは思えない腕力にダイゴロウは再び驚愕した。
『…おい、お前妖魔族ダろ?』
沈黙を破ったのは、娘だった。
『妖魔族の魂ハ胸じゃなクて…』
腹に熱い異物感を感じ、思わず歯を砕けんばかりに食いしばった。視線を下に移すと、鎌の刃が腹に差し込まれている。
『腹の中に宿ルんだロ?』
そう続ける女の目は凄みを帯びていて、狂気的な笑みを浮かべている。
もはやここまでか…ダイゴロウは自身の死期を悟った。
『その魂、見セてくれヨ』
ジーナが腕に力を込め、ダイゴロウの腹部を横一文字に裂こうとした瞬間
やめろ!
遠くから叫び声が聞こえた。シェラの声だった。




